記録7クソ雑魚チェリーボーイ
あの謎のワープ扉で酢束から一瞬で私は家に帰り、祖母にこっぴどく叱られた
「何があったかは知らないけど、”遊び”も程々にしなさい。ゴハン、そこ置いてるから」
「はーい」と気の抜けた返事をし、手洗いうがいを済ませた後、夜ご飯のもつ鍋の残りを器に盛り、電子レンジで温めて食べる。
ふと聞きたい事を思い出し、祖母を呼ぼうとしたが返事は帰って来ず、寝室のふすまを開けると布団を敷いてぐうぐう眠っていた。どうやら私に説教した後すぐに寝てしまったらしい
「おばあちゃん、一人この量のもつ鍋したの............?」
時計を見ると時間は夜の11時、いつもの早寝の祖母ならとっくに寝ている時間だ、私を待っていてくれたのだろうか、そう思った途端申し訳なくなってきた。夜ご飯を食べ終わった後、お風呂に入ってすぐ寝た。心身共にへとへとだったので布団に潜ると私の意識は闇の中へと落ちていった
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ー世界中で流行!原因不明の病
朝ごはんのパンをほお張りながらニュースを眺める。昨日から地面に埋まったままの実葛に関するニュースがやっているかと思ったがそんなことは無かった。
「この病にかかると、人々は童話の毒リンゴに侵された白雪姫の様に眠り目を覚まさない事から”白雪病”と呼ばれており、専門家が原因究明に..............」
テレビを消し、いつも通り左側に髪を結い上げ、ベレー帽をかぶって玄関から出ると視界を眩しい日差しが占領した。
「眩しっ!まだ四月なのに、日差し強いなぁ」
駅まで歩いていると、前方に見覚えのある、というか昨日一緒に激戦を繰り広げた(私はほぼ見てるだけだったけど)鳥花くんが歩いていた
「あ、鳥花くん!おはよう」
「へ!?あ、火器女さん、おはようございます。えと、その、昨日は大変でしたね」
「なんか昨日より鳥花くん元気なくない?ダイジョブ?」
鳥花くんが昨日コロドで一緒に戦ってた時よりもなんか態度が余所余所しい、なんかあったのかな?
全然こちらの方を見ないし、喋る時なんて私の方どころか常に遠い空を見ている。距離も50cmくらいあるような?
「い、いえ何も無いです。少し、寝不足なだけですから、ホラ早く行きましょう!電車間に合わなくなっちゃいます」
彼は急かすように早口で言うと駅の方まで走り出してしまった。
やはり昨日何かしてしまっただろうか?酢束で勢いのまま記録者になると言ったこと怒っているのだろうか?確かにあんなに熱心に止めていたし。物言わずすぐになる事を決めたのは忠告してくれた彼に失礼だったかもしれない
後で謝ろうと思い、駅の方へ走り出した彼に追いつくべく私も走り出し、駅まで着くとゼェハァと息を着き、さながら昨日実葛に心臓を止められた後電気ショックで復活させられた直後の満身創痍の鳥花くんがいた
「鳥花くん、ホントに大丈夫?凄い苦しそうだけど」
「ゼェ、火器女さん、走るの早くないですか?ハァ、ハァ、あれ僕の全力だったんですけど、ゼェ、ゼェ」
「いや私平均位ていうか普通の人よりちょっと遅いまであるけど................」
ヘロヘロになっている彼に駅の人々も驚いていたし、あまりにも消耗していた様子だったので肩を貸そう聞いたが、強く断られてしまった。
鳥花くんの息が元通りになるのを待っていると電車が来てしまった
「もう大丈夫です。め、迷惑を掛けましたね、では早く電車に乗りましょうか」
「あ、うん。それよりもさ昨日の事もしかして怒ってる?」
電車に乗ろうとしていた彼の動きが止まった。後ろに並んでいた人は急に立ち止まられて「んっ」っとなっていた。気まずそうだ、止めてしまった私が申し訳ない気持ちになる
「あぁ~、別にそういう訳じゃなくて........」
「早く進んでもらっていいですか?」
「あ、すいません!」
彼は答えようとしたが後ろの人に急かされていそいそと乗ってしまった。私も他の人の迷惑になると思い急いで電車に乗り、鳥花くんの隣に座って彼にもう一度訪ねた
「やっぱり昨日何も言わずに記録者になるって鳥花くんの忠告何も聞かなかったこと、怒ってる?」
「昨日の事は別に怒ってなんかないですよ、寧ろちゃんと説明もせず勝手にごちゃごちゃ言っていたのは僕の方です。そういう訳なので、朝元気が無かったのは本当に寝不足なだけですから、気にしないでください!」
彼は強く吐き捨てるように言うと窓の方へそっぽ向いてしまった。
本人は怒っていないと言っているがこの様子、明らかに何か思うことがあるに違いない、本当は昨日助けてくれた事、改めてお礼を言いたいが、何とか会話を再開する隙を探していると学校前の駅まで着いてしまい、駅から学校までの道も彼は遠くを見たままで無言のまま気まずい空気だけが流れ、気づけば教室まで私たちは言葉を交わさないまま席に着いていた。
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今まで常に一緒にいたのが実葛しかいなかった私は、クラス内ですでに出来たコミュニティにいきなり混ざることも出来ず、ボーっと空を眺めていた
「こんなことなら実葛以外にも、もっと友達を作っておくべきだったなぁ.........」
そうやって一人脳内で後悔していると先生が教室に入ってきた
「皆、いきなりだが昨日急に裏切の親御さんから連絡があってな、裏切は引っ越しで他校に転校になったそうだ、突然の事で悲しいだろうが、飲み込んでくれ。じゃあ、今日のホームルーム始めるぞ」
実葛って、親がいたのか...................?
昨日酢束に行く途中、鳥花くんに聞いたが実葛は自分に自分でファルスを使って年齢を下げており、実際は30歳程度だったらしい。仮に親が居たとて地面に埋まって行方不明の実葛を引っ越しだなんてわざわざ学校に連絡だなんてしないだろう。
やはり考えれば考えるほど謎が深まるばかりだ。
考え事ばかりしているとホームルームは終わっていた。今度こそ鳥花くんとちゃんと話そうとしたが教室の中から消えており、チャイムで授業が始まり急いで席に着いて、授業が終わって休み時間になったら、鳥花くんに話しかけようとして........................
この繰り返しをしていると、彼に話しかけられないまま今日の学校は終わってしまい、酢束にも一緒に行こうとしたが、彼は消えていた
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「あ、いらっしゃい。っと、鬼灯君だったか」
流石に酢束にいるだろうと思ったがここにも彼はいなかった。ここまで来たらしょうがないので、昨日の話の続きを鉄線さんに聞くことにした。
昨日と同じくカウンターに座ろうとしたが、慌てて鉄線さんに止められてしまった
「あ!お話は裏でするからさ、ちょっと付いてきて」
そう言って彼に案内されたのは厨房の隣にある階段を上った場所にある事務所のオフィスのようなところだった。
そこにも彼の姿は無く、代わりに蕪野さんがいた
「よっ!鬼灯!昨日ぶりだな、つーか鉄線からもう話は聞いたか?」
「菜伊、まだ彼女には話していないよ、今から君も交えて話すから」
鉄線さんに蕪野さんの隣に座る様促され、机を通して私と株野さん、そうして鉄線さんが向き合う形で話は始まった
「まず僕たちの詳しい話をしなきゃいけないね、記録者に関することは鳥花くんから聞いてるよね?」
「はい、なんか、記録者っていうのはその昨日の私みたいにコロドに巻き込まれた人を助ける活動をしてる人たち、みたいな説明受けましたけど」
「ま、概ね正しいね。ただ、もう少し付け加えると昨日の話にも出てきた『ヴァルキリア』と敵対してるってコトがある」
彼曰く、ヴァルキリアは表向きにはファルスを使った犯罪者を取り締まる役割を担っているそうだが、実際の所は昨日聞いた通りコロドに関わった人間は被害者だろうが何だろうが女子供も関係なく連行、収容という形で行方が分からなくなってしまうそうだ。
ヴァルキリア側は「コロドに一度でも関わった以上ファルスが発現している可能性がある為、その危険性も加味して”保護”している」というのが言い分らしく、彼らに連れ去られた人は皆法的には行方不明として処理され、家族や知人にもそう知らされ、それ以上は知ることも許されず、もしそれでも秘密に迫ろうものなら命の保証は無いとか
「そんな国ぐるみで理不尽かつ人権を無視した行為を看過できないって事で、ヴァルキリアにいた一人の少女が有志を募って反旗を翻したんだ、結果は見るも無残な敗北バッドエンドだったんだけどね!しかしそこで残った数少ない何人かが全国に散らばってヴァルキリアとファルスを使った悪事を働く人たちの魔の手から罪なき人を守ろう!って出来たのが僕たち記録者ってワケ」
彼は相変わらずニコニコしながら洒落たティーカップを片手にゆらゆら話す。その表情から真意は一切読めなかったがなんとなく記録者の実情が見えてきた気がする。恐らくこの話から察するに記録者の数は劇的に少ない、要は人手不足で猫の手も借りたい状況だったが故、彼は私を記録者にしたがったのだろう
「結局のところ私は何をすれば良いんですか?私そんな鳥花くんみたいに戦えないし捜査もできませんけど」
「正直なところ君は別に戦力として期待していないから安心して良いよ。僕の構想的には鳥花くんの補佐をしてもらおうと思ってるんだ」
「補佐、と言いますと?」
「彼の足りない部分、具体的に言うと主にコミュニケーションの部分を手伝って欲しいんだ。鳥花くんの捜査は昨日見てもらった通り彼の能力を利用した物なんだけど、どうしても記憶をデータにする工程で相手に協力してもらわなきゃいけなくてね、手をかざしたり、能力以外にも普通に聞き込みしなきゃいけないんだけど如何せん彼女性とコミュニケーションをとるのが信じられないほど苦手だからそこを君に手伝って欲しいわけ」
何気に彼がそんなに女性に苦手意識を持っているのは初耳だった、だけど今日のあの余所余所しい態度と関係があるのかもしれない。それにしても昨日は普通に話していただけに、昨日と今日のあの態度の変わりようはよく分からないが
「この仕事鬼灯君、君にしか頼めないんだ、菜伊は見ての通り基本的に他人と喋るどころか外に出ることも出来ない、かくいう僕もヴァルキリアの裏切り者ってことで彼らのお尋ね者なんだよね。そんな訳で鳥花くんの捜査を手伝おうにも手伝えない状況が続いてたんだ」
「そこに来たのが私って事ですか」
「その通り!話が早くて助かるね~じゃ、今日は早速最初の仕事なんだけど」
それから彼は本棚から資料を取り出し私たちの前に広げた
「猫探し、ですか?てっきり『恐怖!行方不明者途絶えぬ雪山の謎を解け!』みたいなのかと.......」
「ハハハ、君やっぱり面白いね!記録者に即答でなるって答えた時から変わってるとは思っていたけど良いね、それと僕たち常にドンパチ戦ってる訳じゃないんだよ。普段は喫茶店経営の傍ら何でも屋ってスタンスでイベント設営の手伝いとか、今回みたいなペットの捜索してるのさ。で、今回は基本的仕事の流れを知ってもらう意味で猫探しってワケ」
「俺も一緒だぞ!」
蕪野さんが元気よく返事をして私の前に転がってきた
「今回鳥花くんはいないんですか?」
一瞬ガタリとオフィスの机が揺れた。気になって見に行こうとしたら鉄線さんに服の裾を掴まれた
「あぁ、彼今日は他の以来と日にちが被ってしまってね。あらかたの流れは菜伊が説明してくれると思うから、じゃあコレとコレをうまく使って、ヨロシク!」
鉄線さんは私に猫を入れるためのペット用キャリーバッグと、虫取り網を渡すと、追い出すように私たちの背中を押し、一階の喫茶店へ続く階段の前で「ちゃんとお給料は出るから安心してネ!」と言うと蕪野さんをポーチに詰め込みそれを私に持たせ店の外に放り出した
「急にまくし立ててたけど、どうしちゃったんだ?」
本当は鳥花くんに初めての仕事のついでに朝から様子がおかしかった理由を聞こうと思っていたが故彼に会えなかったのは残念だ
「まぁ細かいこたぁ置いといてさっさとにゃんこ探そうぜ、鬼灯!」
蕪野さんがポーチを開け、真っすぐな眼差しをこちらに向ける
私もそれに応えるようポーチの中の蕪野さんに向かってガッツポーズし、宣言した
「さっさと猫を見つけてお給料ゲットしちゃいましょう!」
「おう!」
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「言われた通り彼女出発させたけど本当に良かったの?話したいって言ってなかった?」
曲入鉄線は心なしかがたがた震えているリビング改め喫茶店酢束二階の事務所の机の裏を覗き込んで、そこでぷるぷる震えていた少年に話しかける
「えっと、それは....................」
「まぁ僕に話してみなさい!何があったか聞いてあげるし、菜伊には黙っておくからさ?」
鉄線は優しく微笑み、机の裏で震えていた少年を先程まで鬼灯と蕪野が座っていたところに座らせ。先程の二人と鉄線が向き合う二人の部分が少年と入れ替わる形で再び話を始めた
「僕は、最低です。火器女さんは僕にあんなに気を使ってくださってるのに、僕は、僕は..........!」
少年は俯き、執拗に自分を責め立てる
その様子に流石に鉄線も焦り、急いで理由を尋ねる
「どうしちゃったの?鬼灯君になんか変なことしちゃった?取り敢えずお話聞かないと分からないからさ、言ってみな?別に大変なことでも後で謝ればだいじょーぶだからさ?」
鉄線は内心でも鬼灯がわざわざ自分に少年の居場所を聞いてきたり、当人の様子から何かあったことは確信していたが彼の性格的に鬼灯に何かヘンな事はしないだろう、というかしたくても出来ないだろうと思っており満に一つ女性経験が無いゆえの理解無き失礼極まりない事もしかねないと踏んでいた。その為内心覚悟を決め、彼がとうとう口からこぼしたことの真相を聞いた。
「今日一度も、彼女の目を見て話せなかったんです..............!」
「やはり君を男子校に行かせたのは間違いだったかもしれないな」
余りにも女性耐性が無い思春期高校生の少年もとい、蕪野鳥花の人生相談が幕を開けた