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虚象回想  作者: あるぱす
第一章:青光の遺物達
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記録6一般男子高校生の苦難

蕪野鳥花は喫茶店酢束があること木の垢ビルの二階にある住居で暮らしている。

そこまで広くないリビング、他にも寝室風呂に勿論トイレも完備、最後に鳥花の研究室と一人がかなり場所を取っている気がするが、二人と一蕪で暮らすにはちょうど良い程度の広さだ。酢束のオーナーとして働いている鉄線からすると出勤時間0秒でなかなかに便利な家だ。

そんな家の風呂に今日一日大変な目に遭った一般男子高校生虚使いこと蕪野鳥花がため息を吐きながら、疲れのせいかいつもより粗雑に髪顔体を洗った後、気の抜けた顔で風呂に浸かり、ひとり呟いた。


「女子とあんなに会話しちゃったよ.......」


大変な目に遭ったどころか死にかけたが彼にとってはそっちの方が大事だったらしい。

中学時代は男子校に通っていた上に、この彼が住処としている酢束にいるのも独身男性と喋るカブのみ、いくら客が来店すると言っても母親とすらコミュニケーションを取ったことのない男に他の女性と喋ったり、関わるなど言語道断であった。そんな「女」という存在から一切の距離を置いて生きてきた彼にとってはいくら緊急事態だったとはいえ、火器女 鬼灯との出会いは衝撃が大き過ぎたらしい


「結局ちゃんと目を見て話すことも出来なかった......」


自らの情けなさに泣きつつ、今日あったことを頭の中で思い返していると、浴室の扉が心地よい音と共に吹っ飛び、鳥花にとってはお馴染みの蕪が中に飛び込んできた


「よぉ!!!!!!!鳥花ァ!少しは頭冷えたか?つってもここ風呂だし熱くなる一方か、ガハハ」

「当たり前の様に扉を吹っ飛ばすのいい加減に辞めてくださいよ、コレ直すのまぁまぁ面倒くさいんですよ?」


渋々浴槽から出て、扉を付けなおす。かくいう扉を吹っ飛ばした張本人(?)の蕪野はこっちの事は見ず知らず、器用に頭の葉っぱでレバーを捻り、シャワーを浴びていた


「なぁ鳥花、あの鬼灯って奴とは今日初めて会ったのか?」

「まぁマトモに会話したのは今日が初めてかもしれませんね」


扉を無事付けなおし、再び浴槽に入り蕪野と言葉を交わす。

その途中、鳥花は思い出したよう口を開き、納得が行かなかった鬼灯が記録者になる件に関して苦々しく言葉を落とした


「僕、やっぱり納得いきません。反対ですよ、火器女さんを記録者にするのは」

「まぁでも、本人が了承しちまったからな...........」

「どうせ鉄線さんは”今回の件”を手伝わせるつもりでしょうが、僕一人じゃダメなんですかねぇ?」

「うん、ダメ」


思わずショックを受ける。鳥花はどうやら蕪野に他の言葉を期待していたらしい

唖然とする鳥花を余所目に、全身を洗い終えた蕪野はぴょんと跳ねて鳥花が入っている浴槽にダイブする


「だってお前、女子と話せないじゃん」

「うっ」


クリティカルヒットである。大ダメージを受けている鳥花にお構いなしに蕪野は追撃を続ける


「お前高校入ったら中学の時よりもっと女子の友達作るとか言いながらよ、入学してから2週間経ってるけどよ、女の影も形も見当たらねーし、それがどうしても気になって学校に付いていった時も案の定だったしな。今回の件は戦闘よりも捜査の方が大事だっつーのに一向に進まねーし、流石の鉄線も痺れ切らしたんだろ」

「返す言葉もありません..........」


人は事実を言われるのが最も傷つくというが、それは虚像(コロド)の中で戦う戦士にも同じことだったらしい。実際の所本人も入学してからパソコン部に入り浸り、鉄線から頼まれていた調査をすっぽ抜かしていたのだ。


「やはりサボっていたツケは払う羽目になりましたか.......しかもこんな形で」

「でもよぉ鳥花、お前本当は内心少し嬉しいんじゃないのかぁ?」


ああ、蕪野はニヤリと笑い鳥花の胸を葉で小突く。こうなった蕪野にはもう真面目な話は出来ない、その事を察し、どこか呆れながらも


「いや、そりゃ、まぁ少しは.....」


鳥花が少し顔を赤らめ頬を掻く様子を見ると、少し安心した様子で蕪野は口を開いた


「なら良かった、俺もお前の気持ちも分かるからさ、その、あんなことがあったら誰でもショックだし、引きずるなとは言わねぇけどよ、それだけに囚われ過ぎて無くて安心したぜ」

「蕪野さん............!」


確かにさっきは疲れていたのもあって少し考えが足りなかったかもしれない、今改めて思い返すと鉄線さんの言っていることの方が正しい。僕だけでヴァルキリアから火器女さん守り切るのは無理がある話だ。

別に火器女さんと一緒に何かをするのが嫌とか、そういうんじゃない。ただ彼女を危険にさらしてしまうのが怖い、ただ、それだけで、あんな頑なに否定する必要はなかったのかもしれない。


「てかよぉ鳥花ァ、どうんなんだよ、鬼灯のどこが気に入ったんだ?あ、俺は太もも、お前ら二人のより全然柔らかい、最高だ」

「その発言蕪野さんが蕪じゃ無かったら許されてませんよ」


先程まで久しぶりに蕪野見直していた鳥花だったが、その言葉で状況は一変、昔誰かが人の心は移り変わるが、自然は変わらないなどと言ってた気がするが、喋るカブにそれは対象外だったようだ。

ニコニコでサムズアップする蕪野に鳥花はゴミを見る視線を代わりにプレゼントした、それをものともせず、蕪野は下種な会話を続ける


「でもさ、正直言おうぜ鳥花、本当は鬼灯のどっかにめちゃめちゃ惹かれたんだろ!?顔か、胸か、脚か、そこんトコロは知らんがこれだけは俺でも分かるぜ鳥花、お前が鬼灯といる時常にドギマギしていた事はな!」

「いや!ドギマギは、してないですよ、多分」


嘘である。実はこの男、途中真っすぐ鬼灯の方を見て格好良さそうな台詞を吐いたりしていたが、あの時話していたのは鳥花本人だが、真っすぐ見ていたのは本人では無い。自らの虚像回想(ファルス)を使って投影した自分のアバターなのだ。それに遠隔から音声を付けるというやたら手の込んだ格好つけ方で鬼灯に話していた。そうして前述した通りまともに女性と会話すらしたことのない男が急に同クラスの女子を前に、事実蕪野の言う通り内心ドギマギしながら挙動不審に陥っており、天文学的な確率で鬼灯にはバレていなかったが、鉄線と蕪野の二人にはお見通しどころでは無かったのであった。


「そんなにあからさまでした?僕」

「あぁ、アレは恐怖に怯えるマーモットを彷彿とさせたぜ。で、結局何処なんだよ!」


知らず知らずの内に自分がとてつもなく情けない姿をさらしていたことにショックを受けつつ、鬼灯の事が気に入ったのも事実、しかしそれを他の人にわざわざどこが気に入ったかを話すなんてまっぴらごめんだ。仮に言うとしても本当の事は言いたくないと思い、苦笑いしながら蕪野にダメ元で尋ねる。


「マジですかぁ......................え、これ言わないといけない感じですか」

「言わないとパソコン部に入り浸ってサボってたこと鉄線に言いつけるぞ」

「顔です。ドタイプです」

「最初っからそう言えば良かったんだよ」


自分の膝周りをちゃぷちゃぷ泳いでいる蕪野の顔色を一瞬見て本当の事を言っていない事がバレていないか確認し、様子を見て内心安心する。

ふと手を見ると指先がふやけているのに気づき、長話をしている間に気づけば体も完全に火照っていた。のぼせる前に鳥花は蕪野に声をかけ、上がることにした。


「蕪野さん、そろそろ上がりましょう、茹で蕪になってお風呂が野菜スープになっちゃいます」

「それもそうだな、っつーかよ、その実葛とかいう虚使いが持ってたメモリーチップはどうしたんだよ?」

「道ずれにされそうなった時にどさくさに紛れて回収しましたが........」


───依頼者から万が一にってこれ渡されたモノだけど

この発言がどうしても気になる、以前自らのファルスを使って殺し屋のような仕事をしている人間がいるのは聞いたことがある。実葛もその一種だったのだろうか?だけど仮に金で雇われた殺し屋だったとして謎は多い、いったい誰が火器女さんを狙ったのか、僕の兄の物であるはずのメモリーチップを持っていた「依頼者」とやらは何者なのか........


「やっぱり埋めたままにせず持ち帰って尋問するべきだったかな?」

「オイオイ鳥花、確かそいつお前の脚を掴んだまま、直立の体制で地中に沈んでいった挙句最終的に気絶して一人で沈んでいったんだろ?無理だ、子供二人じゃ日が昇っちまう、それに仮に掘り起こしたとてウチにはそんな凶悪虚使いを拘束する設備は無いからな!」


それもそうかと思いつつ体を拭いた後寝巻に着替え、風呂の栓を抜いてお湯が抜けるまで少し待った後二人で軽く浴槽を洗った後、洗濯機を回すとリビングの方からペコペコのお腹をさらに空かせるような良い匂いと二人を呼ぶ声が飛んできた


「菜伊、鳥花くーん、夜ご飯出来たよ、早くおいで~」

「はい」「今行くぜ~!」


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「今日はですか?」

「うん、最近卵が値下がりしててね、ケチャップも丁度残ってたから作ったんだ。さ、冷める前に早く召し上がって!」

「鳥花と鉄線は良いよなぁ、いつもウマそうなもん食えてよぉ」


蕪野さんは当たり前だが口が無いから人間の食べ物は食べれない、摂取できるのは基本的に水だけだ。いつも僕たちがご飯食べてる様子を見て落ち込んでいる、そこだけ本物の蕪に忠実なのは可哀そうだ。一人申し訳なくなっていると鉄線さんは懐から笑顔でペットボトルを取り出した


「今日はそう言うと思って、はいコレ!ヒラマヤ山脈から直接取り寄せた天然水~!」

「おぉ~!鉄線やっぱお前最高だぜ!」


蕪野さんは満面の笑みでペットボトルの蓋を開けひっくり返して頭から浴びる、本人曰く水はどこからでも摂取可能らしい。うまいうまいと言ってペットボトルの中身はあっという間に空になってしまった。机に上で浴びていたが蕪野さんが立っていたところは水滴一つない、相変わらず凄い吸収効率だ。


「じゃ、僕もいただきます。それと...........」

「すいませんでした、は要らないよ、鳥花くん。寧ろ謝るのは僕の方さ、君の事を考えずに言い過ぎた、ゴメンネ。」


そう言って鉄線さんは僕に頭を下げる。僕は一旦オムライスを食べるために持ち上げたスプーンを机に置いて鉄線さんに頭を下げた


「やっぱり僕も謝らせてください、あの時の僕の発言は論理性に欠けていました。鉄線さんが冷静に意見をしていてくれてたのに、真っ向から感情論だけで否定してしまいました、ごめんなさい。」

「鳥花くん.......!うん、やっぱり酢束に来たのが君で良かった。じゃ、この件はオシマイ!冷めちゃうからさ早く食べな!」

「はい!いただきます!」


勢いよくスプーンでオムライスをすくい、ほお張る。噛むとフワフワなオムレツが僕を出迎え、更にもぐもぐ食べると少し濃いめのケチャップで作られたチキンライスが僕の舌を喜ばせた


「流石鉄線さんですね、相変わらずの絶品です」

「そりゃ良かった、じゃあ早速鬼灯君のこれからに関する話なんだけど、やっぱり僕の中でもいきなり”あの件”の調査に参加させるのはどうかと思ってね。まずは記録者の基本的な仕事を覚えてもらう意味も込めて、今来てる簡単な依頼を頼もうと思うんだ」

「分かりました。因みに簡単な依頼って何を頼むんです?」

「猫探し」


蕪野鳥花は安心した上に少し喜んだ、最近は”あの件”に関する調査でずっと行き詰まっており、精神も擦り減っていたので久しぶりにほんわかした依頼だということに加え、今までは孤独に調査していたが、なんやかんやクラスメイトの女子と一緒にそんなことが出来ることに心を躍らせていた。


「鉄線さん!僕は今回何をすればいいですか!?」


ここは火器女さんにカッコいい所を見せる絶好のチャンス!颯爽と猫を見つけ出すぞ~と張り切っていた


「あ、今回鳥花くんは別件ね?」

「へ?今なんと?」

「今回鳥花くんは僕個人のお願いで別件。だから菜伊に頼むことにしたよ」

「そんなぁ...........」


涙を流しながら口まで運んだオムライスは気のせいかさっきより少しだけしょっぱく感じた

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