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虚象回想(旧)  作者: あるぱす
第一章:青光の遺物達
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記録1虚像の中

人間のみが使う事を許された、想像の力、(ファルス)

力を振るう者達を彼らは"虚使い"と呼んだ。

虚使いは、鳥花の様に誰かの為にその力を振るう者もいるが、全てがそうであるわけでは無い。

中には、力を自らの私利私欲のために振り回す"悪い虚使い"も居る。

そして、ヴァルキリアとは、そんな輩達の集まりであった。


「ヴァルキリアって事は君も虚使いだよな....」


自らをヴァルキリアの人間だと名乗った実葛と相対した鳥花は、組織のことを思い出していた。

ヴァルキリア、この年に限らず10年ほど前から活発的に活動している組織で純人間の人攫いが相次ぐ原因の一つだ。

奴らの目的はただ一つ、虚の使える人間を攫って利用することだ。

そんな組織を鳥花が見過ごせるわけが無いのだ


「君がヴァルキリアだと分かった以上、ここで倒させてもらう!」


「やれるもんならやってみな!墜落の光掌(ダウン・ダウン)!」


実葛が力を、(ファルス)を発動する。

直後彼女の手が発行し、そのまま近くの電柱に触れ、握り、信じられない事にそのまま小枝を折るが如く電柱を折り、それを鳥花に振りかざした


「見た目にそぐわず大分パワータイプだね!」


鳥花は飛び退きつつ、先程獣人を蹂躙した青い鳥を飛ばすが電柱に打ち落とされてしまう


「それが君の虚か?噂に聞く通り面白いじゃないか!」


「出し惜しみしてるヒマは無いか....!」


電柱を振り回しながら少しずつこちらに距離を詰めてくる実葛に鳥花は”切り札”を切る事を決意する。


「そんな鳥を飛ばしててもどうにもならないぞ、鳥花君!」


「君はいちいち余計な一言が多いな!」


鳥花は懐から稲妻マークと鳥の絵が描かれた5㎝長方形ほどのチップのようなものを取り出し、宙に投げ、それを先程獅子の獣人を倒した蒼い剣、スロウドで一刀両断した


情光武装(ホログライド)!」


一刀両断されたチップから青い鳥があふれ出し、鳥花の体へと集まっていく。

鳥花の体に触れた鳥から順に、ピクセル状に変化し、そこから更に青いパーカーと特殊なメカニックシューズに変化していく。

変化の途中、実葛も攻撃を仕掛けようとするが、溢れ続ける鳥に阻まれてしまい、鳥花には近づけなかった。

全ての鳥が変化し終えた後、鳥花はフードを脱ぎ、実葛に言い放つ


雷鳥装甲(バートニングカスタム)!轟く雷の恐ろしさを思い知れ!エレキステップ!」


鳥花はシューズの機能を発動させ、電磁力から生まれる反発でビルの2階ほどの高度まで飛び上がり、真実を告げる剣を天に掲げる


「ほう、やるじゃ───」


回想(リコール)


実葛が言葉を言い合えるよりも先に鳥花は虚を発動させて雷を呼び出し、掲げた剣を雷に当てる事で帯電させながら上から切りつけた。


「ぐおぉあっ!?」


実葛は寸前で直撃を避けたが雷の衝撃波によって飛ばされ、背中からビルに埋まり込んだ。

そこで出来た隙を鳥花は見逃さず、再びエレキステップで飛び上がり、追撃を入れに行く


「トドメだ!」


蒼剣の一突きが実葛を貫くよりも早く、実葛自身の手が、刀身に触れた。

その瞬間まっすぐ突き進んでいた真実を告げる剣(スロウド)は突然地面に叩きつけられた。


「なっ───」

「驚く暇は無いぜ?鳥花君!吹っ飛びやがれ!墜落の光掌(ダウン•ダウン)!」


実葛の紫色の光を宿した掌が鳥花の足に触れる。

途端に鳥花は突然の浮遊感に襲われる、そしてその刹那、反応する暇も無くそのまま実葛に投げ飛ばされた。


「───っぐ……痛い」


投げ飛ばされた鳥花は向かい側のビルに背中から叩きつけられ、そのままコンクリートの壁にめり込んだ

幸い先程装着したパーカー型のアーマーをその身に身に纏っていたお陰で致命傷は免れたが、無視出来ないほどのダメージを受けたのは事実だった。


「今のを耐えるとは……噂に聞くだけはあるじゃ無いか」


実葛は澄まし顔でわざとらしく拍手しながらこちらに歩き向かって来た。

急いで迎撃する為鳥花は壁から抜け出し、剣を構える


「だから(それ)は意味ないよ?」


「意味が無いからって、やらない理由にはならない……!」


「じゃあそんな分からず屋の君に、私の(ファルス)を教えてあげるよ」


そう言い放った実葛は戦いの余波で飛び散った小石を拾い上げ、再び掌に光を灯した


墜落の光掌(ダウン•ダウン)はね、手で触れたものを"堕とす"事が出来るの。例えば、こんな風にね」


実葛はそのまま目の前で小石を離すと、小石は凄まじい勢いで落下し、コンクリートの道路に穴を開け、地面に埋まった


「今のは小石の"座標"を"堕とした"の……分かってると思うけど私が堕とせるのは座標だけじゃない。さっき貴方にしたみたいに質量を堕とす事も出来るのよ?」


鳥花はそこで初めて先ほどの浮遊感の正体に気づく。


恐らく、この目の前の女が言っている事がすべて事実であるのならば、先ほどの浮遊感は突然軽くなった自分の質量に脳感覚が追いつかなかったのだ。

そして、最初の電柱振り回し、今思い返せばまるでこちらに接近を促す様な戦い方だった。

剣を避けずにわざわざ手で受け止めた……

これらの事実が意味する事、それは実葛の(ファルス)の発動条件が、"手で触れる"という可能性が高いという事。

推測による賭けとなるが、鳥鼻はそこに勝機を見出す。


「……実葛だっけ?わざわざ自分の(ファルス)の開示ありがとう。って言っても、それも戦略の内なんだろうけど」


敵におずおずと自らの手の内を明かす行為……一見すれば愚行にしか捉えられないそれは虚使い同士の戦いにおいては少し違う意味を持つ。

想像の力……イメージが最も大事な虚使いに自分の能力を説明する、それは相手に自分の(ファルス)の明確なイメージを持たせる事で力にかかりやすくするという効果がある。

しかしそれと引き換えにしても、相手に手の内を知られる事は戦闘における致命傷に等しい。

仮に逃げられれば、次はかなり不利な状態で戦いを始めることとなる。

それを承知で行った事が意味するのは……ここで鳥花を始末するつもりなのだ。

しかし、それを理解している鳥花は、先程見出した勝機を確実に掴む為、行動を始める。


「俺もここで死ぬわけには行かないんだ!回想(リコール)!」


「そんな馬鹿の一つ覚えみたいに鳥を飛ばしても無駄だよ!」


青い鳥はすぐに突撃せず、実葛の周りを飛び回り始める。

数秒後、結局実葛向かって突撃した。


「いくらやっても無駄!墜落の光掌(ダウン•ダウン)


実葛が鳥に手をかざした瞬間、鳥花はそれを待っていた様に、青い鳥をUターンさせ、手元まで戻らせると同時に、鳥の足についていた何かを引っ張る。

突然の鳥の奇行に、実葛ら困惑する。

ただのフェイントとも捉えられたその動きは、小さい様に見えて、戦いを決定づける一手だったことには鳥花のみが知っていた


「……何!?」


一瞬呆けていた実葛も、その身の異常に気が付く、しかし抵抗するにはもう遅く、透明な何かが急に実葛を縛り上げ、身動きが取れなくなった実葛はその場に倒れ込み、身を捩ってもがき始めた


「───残念だけど特製ワイヤーだから人間には切れないよ」


それでも必死にもがき続ける実葛に鳥花は続けた


「それ以上無理にもがけば、傷付くのは君だぞ」


「クソッ……ぐぅっ…………!」


その言葉に、実葛もとうとうもがくのをやめた


「もう気づいてるだろうけど、さっきの鳥の足ににワイヤーを巻きつけてたんだ。」


鳥花は先程実葛と話していた時に、背中に手を回してこっそり鳥の足にワイヤーを巻きつけていたのだ。


「一つ質問いいかい?返答次第では君を見逃す」


「…‥随分とお優しいね」


鳥からワイヤーを外し、そこら辺の電柱に結んで実葛が逃げられない様にした後、剣を再び呼び出し、実葛の首にかけた


「チップを……いや、兄さんが作った物のコピーを街にばら撒いたのは君か?」


「そうだと言ったら?」


「この剣を振り下ろすだけだ」


鳥花の睨みと脅しの言葉に対して、実葛は声を上げて笑い出した


「笑う場面じゃないぞ」


「……いや、君の様な甘ちゃんがそんな脅しが出来たことに驚きでね」


「俺は本気だよ」


「聞いてるよ?君が私以外のヴァルキリアの人間を倒してる話はね、あ、勿論毎回見逃してる事もセットでだ」


実葛の話は事実だった。

鳥花は日々育ての親であり、鳥花の所属する組織での上司に当たる人物の曲入 鉄線から日々依頼を受け、ヴァルキリアを倒し続けていた。

しかし、毎回全治3ヶ月程の怪我を負わせた上で見逃していた事も事実であった。


「……結局答えは?」


「私じゃない、嘘を言っていると思われるけど、私も上の者からアレを配れと指示を受けただけなんだ」


「上の者ってのは誰だ?」


「そいつは流石に口が裂けても言えないなぁ……」


実葛のニヤつい顔に、痛みで吐かせるしかないと判断し、首に切り込みを入れようとした時だった


「ボス!捕まえて来ましたぜ!」


どこかで聞いた喋り方だったが、その声はハイエナでも、獅子の獣人でもなかった。

急いで振り返るとそこには瞳に涙を浮かべ、襟根っこを持たれている逃げたはずの少女と、先程確かに気絶させた狼の獣人の姿があった。


「ご、ごめん、捕まっちゃったぁ……」


少女は体を震わせて鳥花に謝罪する。

しかし、人間が狼の獣人に脚で勝てるわけがない、一回気絶させて油断していた鳥花のミスだった。


「おい!そこのガキ!この女を殺されたくなけりゃボスを解放しな!」


「……………」


自体は完全有利から五分五分、互いに人質を一つずつ持つ形となった。

鳥花は喋らず黙っていた。


「鳥花君、私と取引をしないかい?」


「取引……?」


「君はさ、彼女の……鬼灯ちゃんの価値を理解してない」


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