記録14オカルト研究会最期の日
あの後すぐに学校に行こうとなったが、その日は金曜だったこともあり、土日を空けて月曜に捜索しようということになった
それから鳥花くんは新しい能力で研究をするそうなので邪魔になると悪いと思い、家に帰った
「最近、帰りが遅いけど、危ない事はしていないんだろうね」
お風呂上がり、寝巻きに着替えていると珍しく基本無口な祖母の方から私に話しかけてきた
「別に、バイト行ってるだけだよ。」
「なら、良いが……」
「もう子供扱いされる年じゃ無いけど、私」
「幾つになってもあんたは姉さんの子供に変わりは無いんだよ」
「はいはい、いつもありがとうございます"お婆様"」
私は髪を結いながらおあばあちゃんにぶっきらぼうに言い放った
「そっくりだね、姉さんに」
「おばあちゃんって意外と優しくないよね」
私の一言におばあちゃんは珍しく笑った
「ははは、そうやってズバッと言い返すのも姉さんそっくりだ。ま、安全さえ守ってくれればなんでもいいんだよ」
おばあちゃんはのそのそ起き上がり、テレビを消すと布団に潜っていった
「..............いつもありがと」
素直にその言葉を言いたくなかったけれど、絶対に伝えなければいけない気がしてぼそりと呟いた。
祖母はその言葉に答えず寝返りを打っただけだった
「そう思ってるなら早く帰りなさい」
消え入るような声で、重々しくその言葉を吐いた
私は耳に入ったその言葉を聞こえなかったフリをして日課のトマトジュースを一飲みして、眠った。
また逃げるように
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「おっはよー!鳥花くん」
「おはようございます、火器女さん」
土日を開けて私たちはまた駅に行くまでの道のりで会った。
その日の鳥花くんにはこの前のような隈もなく、血相も良さげだった
「そういえば今日、新しい先生が来るらしいですよ」
「新しい先生?」
鳥花くんに詳しい話を聞くとここ最近前畑町で失踪事件が相次いでいることや、治安の悪化を受けて防犯強化員として市から派遣されたそうとか
「そんなすごい教師居たんだ.......」
「それでチップに関する話なのですが、あれからもレーダーを確認したのですが人参高校から信号が動かなかったかったことも含めて校舎内のどこかに保管されているとみて間違いなさそうです」
淡々と会話を進めて電車に乗るころには今日の放課後一緒に探すところまで話が決まっていた
「そういえば土曜は急に呼び出して申し訳ありませんでした」
「あ!全然いいよ、寧ろ私がお礼言いたいくらいだよ」
彼から急に連絡が来たときは少し驚いたが、話を聞けば納得の内容だった。
電車の窓から見えるグルグル流れていく景色を余所に、ここ数日の激動の日々を思い出していた。実葛に裏切られた事、鳥花くんに助けられたこと。
そして、あのクジラと蕪野さんの事.........
頭の中で映像を再生していたら学校前の駅まで着いていた
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「今日からウチの学校に防犯強化員として来てくださった、虹泡 爆破先生だ。しばらくの間ウチのクラスの副担任を務めてくださる、挨拶を忘れないように」
「先ほども紹介してもらった虹泡 爆破です、虹泡からとってシャボン先生と呼んでください!」
新しく来た先生はビシッとしたスーツにワックスでカチカチに固められたセンター分けの大人だった。
爺さんばかりのウチの高校には目新しい若い男性の教師という事で一部のクラスメイトは湧いており、教室の四方からヒソヒソ声が聞こえて来た
私も隣に前まで居た真葛に感想を伝えようとしたが、もう居ないことを思い出してほんの少しだけ沈んだのは秘密だ
「一応化学を担当しているので分からないことがあったら質問してください」
「というわけで今日のホームルームは終わりだ、授業に遅れんなよ」
ホームルームの終わりの挨拶をした後幾人かの生徒が一斉に虹泡先生の方へ向かって行った。
私は別に話す人もいない上特に先生への興味もなかったので何も考えずフラっと鳥花くんの席まで行った
「あれ?今日はパソコン開いてないの?」
鳥花くんはいつものパーカーの上からブレザーを着る服装で机に肘を付き、ボーッと外を見ていた
「あ、火器女さんでしたか、実は学校でゲームをするなと虹泡先生に没収されてしまいまして……」
ハァ、と彼はため息を吐いて項垂れる
「そりゃ災難だったね、てゆーか取りに行かないの?」
「学校が終わったら取りに来なさいと…」
「ひえ〜、面倒くさい先生に目付けられちゃったね。まぁ今は取り敢えず1時間目の準備したら?」
「そうします……」
それから彼はのそのそした動きで教科書を用意し、私もそれを確認すると自分の席に戻った。
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結論から言うと虹泡先生は大人気だった、教え方分かりやすいし、動きがいちいち爽やかだし、正に枯葉ばかりのこの学校に一輪咲いた華と言った感じだ
「虹泡先生、大人気だね」
「僕のパソコン没収したのに……」
放課後、今日は5限でいつもより早く終わったので、春を思わせる太陽の柔らかい日光が差す教室で私たちは話していた
「パソコン返してもらえましたけど、原則使用禁止になってしまいました…まぁ今までのもかなりグレーだったのでしょうがないですが」
「でも返してもらって良かったじゃん!」
「それもそうですね、では探しましょうか、メモリーチップ」
「おー!」
鳥花くん曰くあくまでチップが発する信号は曖昧で大体の位置は分かるそうだがこの学校のどの部屋のどの場所にあるかまでは分からないそうだ
そんな訳で私達は学校中をひっくり返して探すことになった
「流石に教室の机の中には…ありませんよねぇ〜」
「次行こ!次」
「男子ロッカーは僕が見て来ます」
「じゃあ女子は私だね!」
ごめんと謝りながら皆のロッカーを次々確認していくがチップらしき物は見当たらなかった。
それからも校庭、玄関、更衣室とありそうな場所を手当たり次第探したがそれらしき物は全く見つからなかった
「無い、ですね」
「無い、ね」
私達の間に沈黙が流れ、2人だけの教室にはグラウンドで元気に活動するサッカー部の掛け声だけが流れていた
「……………………………あ!」
「どうしました?」
「まだ私達が見てない教室あるよ!」
この人参高校には多くの部活がある一方、活動が少なかったり、マイナーな活動を主としている場などはサッカーや野球等のビッグネームに隠れがちである
ボランティア部などは活動が不定期なのに対して進学の為の実績作りに入る人も多いそうだが、カエル生体研究部など存在意義が意味不明な物まである。
その為限られた教室を様々な部が部室にする為常に校内で戦争が起きている、しかしそんな中部活ですら無い同好会が一つの教室を占領しているのである
「その同好会とやらが、この『オカルト研究会』と」
美術室の隣の隣、本校舎から西校舎への渡り廊下を渡った所すぐにある端にある小さな教室、本校舎の生徒会室がよく見えるこの場所にそれは位置していた
「なんかここなら色々集めてそうじゃない?」
「それもそうですね、ではお邪魔します」
鳥花くんが勢いよくガラガラっと心地よい音を立てて扉をスライドして開けるとそこには黒フードを被ってガムを膨らませながらスマホを弄る女子生徒と、私たちの購入したブレザーとは異なる旧式制服の学ランをその身に纏って奥で腕を組んだまま居丈高に構える男の子先輩らしき人がいた
「君たち、もしや入部希望員か!?」
先輩はカッと見開いた瞳をこちらに向け、問いかける姿に一瞬怯むが鳥花くんがすかさず言葉を挟んだ
「いえ、僕らは探し物を………」
「入部希望員だな!?やったー!水仙!オカルト研究部、存続だァー!」
「いや先輩、その子達探し物って言ってますケド」
水仙と呼ばれた女の先輩は黒いフードを脱いで短い茶髪を露わにすると膨らましていたガムをパチリと破裂させ、スマホで男の先輩をチョップした
「あ、申し遅れたけどワタシ2年の槍野 水仙。よろしく、でそっちの暑苦しい男が3年の…」
「暑苦しいとは滅相もない!俺は3年、オカルト研究部代理部長の冬木 苺だ!苺と呼んでくれ!」
水仙先輩は呆れた瞳を苺先輩に一瞬向けた後、彼女のスマホから通知音が鳴った
「あ、先輩私今から水泳なので、お疲れさまでしたー」
「ちょ!おい、水仙!せっかく一年生が来たのに....」
水仙先輩は必至の形相で引き留める苺先輩には目もくれず、やたら早い足取りでプールに向かって行った
「あ、ところで君達探し物というのは」
「じつはかくかくしかじかありまして」
事情説明は鳥花くんがあまりこちら側へ踏み込まない程度に誤魔化しながら説明してくれた
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「なるほど、大事な兄との思い出が入っているのか、それは早く見つけ出さないとな!」
苺先輩はうんうんと一人で頷くと教室の奥にあるタンスの引き出しを開いて「オーパーツ」と汚い字で書かれた黒い箱を取り出して机の上まで運んできてひっくり返すと中からは錆びついた歯車やただの石、頭蓋骨の置物などガラクタの山が出てきたのだ
「我が部の収集物はあらかたこの中にあるのだが.....」
「ところでこのオカルト研究会って何する部なんですか?」
入学当初様々な部活が勧誘をしていたがその中でも特に異彩を放っていたこの部の活動内容は「未定」となっていた為気になっていたのだ
「お!この”部”に興味を持ってくれたか!」
「苺先輩、さっきから”部”だと連呼してますけどここって同好会じゃないんですか?僕の聞く限りはそうなんですけど」
「ぐ、痛い所を突くな、キミ......」
それから先輩はハァ、とため息を吐くとガラクタの山をいじりながら口の中からおもりを零すように話してくれた
「去年まで部として認められていたのだが、諸事情あって前部長が離脱してしまってな、多くの部員が部長に魅せられてこの部に来ていたから、一気に離れてしまい、生徒会の定める部活動の規定から外れてしまってな、今のこの様だ」
「なるほど、そんな事情があったとは...ってそれ!」
鳥花くんは驚いて目を見開くとガラクタの山に手を突っ込むと、正方形の薄いメモリーチップを取り出した
「ありました!これで間違いないです!」
「ちょっと待ってくれ!それが君たちの探している物なのか!?」
「そ、そうですけど........」
苺先輩は一瞬黙り込んだ後、その情熱に燃える瞳を伏せ、言った
「そればかりは、渡せない.........!」
「え!?大事なものだったんですか?」
「そいつは.............」
苺先輩が話そうとした時、再びオカルト研究会の教室の扉がガラガラッと勢いよく開き、大人二人と生徒が一人入ってきた
「苺!久しぶりだな?」
大人二人を後ろに侍らせそこに立っていたのは苺先輩と同じく学ランを着用し、青渕の眼鏡をその白く濁った瞳にかけ、極めつけは生徒会執行部を意味する黄金の徽章を胸に付けている青年だった
「な、生徒会長がこんな辺鄙な教室になんのようだ?」
「「生徒会長!?」」
「今日は苺、貴様に引導を渡しに来たのだ」
会長は驚く私たちに一切気に留めず言葉を紡ぐ
「今日でこのオカルト研究会は完全に『廃部』とさせてもらう!」