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虚象回想  作者: あるぱす
第一章:青光の遺物達
12/15

記録11過去の手掛かり

時間は鬼灯達が襲われたより少し遡る。

蕪野鳥花が美容院に向かったその時まで


「痛てて…さっき鬼灯さんがすごいスピードで走った気がしましたけど、気の所為…ですよね?」


流石に走行中の自転車を横から体当たりで吹っ飛ばすなど人間の芸当ではない、おそらく余所見をした時に道路の少し大きい小石につまづいたのだろう。そう自らの中に結論付け、気を取り直して再び出発した


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「ここが、美容室…!」


今まで簡素な千円カットにしか行ってこなかった彼にとって目の前にそびえ立つ店は入店する事すら憚られる難攻不落の要塞同然だ。


「行くしか、無いよな…!」


精一杯の勇気を振り絞り、今までより少しカッコいい自分になる為鉄線に渡された5000円札がクシャクシャになる事もいざ知らず拳を握り締め、初めての戦場に身を投じるのであった


「今日はどうなさいますか?」


震えながら、「カットでぇ、あ、お願いします」と伝えると、雑誌を見て待っておくよう言われたので、流行りのスタイルなんかが載った雑誌を読んだが、内容はまるで頭に入ってこなかった。

それからしばらくすると名前を呼ばれ、シャンプーをしてもらった後いざ髪を切る場面となった


「Hey!お兄さん!今日はどうするかい?」

「す、少し短…」

「思い切ってバッサリ坊主とか?いやそれ美容室来た意味無いじゃん!なんつって〜」


サングラスを掛けたやたらテンションの高いおっさんが僕に振り当てられた美容師だった。1人で寒いギャグを言ったおっさんは1人楽しく笑っているが僕はそれどころじゃ無い


「いや、普通に短くしてもらえれば…」

「ん!?お兄さん、俺今お兄さんにバチバチに似合う髪型カット『降りて』来ちゃった!良かったらさ、イッパツ俺に任してくんない?」


普通に短くしてもらえれば良い、そう言おうと思ったがオッサンの勢いに負け、項垂れながら小さく「それでお願いします…」と呟くと「イェーイ!おじさん、気合い入れちゃうぞ〜!」とハサミを構え僕の髪を凄まじい手つきで切り始めた


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「疲れた…」


散髪中もサングラスのおっさんは変わらない調子で酷い親父ギャグや「お兄さん彼女居ないの!?」や「おじさんが若い頃はねェ…」と言った反応に困るマシンガントークを仕掛けて来た。

散髪も終わる頃には僕は精神的に疲弊しきっており、緊張や恥ずかしい感情なんかはどうでも良くなっており、クシャクシャになった5000円札を出して支払いを済ませた後、おぼつかない足取りで少し離れた場所に停めた自転車を取りに行った


「それはそうとして、僕、チョットカッコよくなったかも……?」


ふとお店の窓ガラスに映った自分を見ると我ながらかなりカッコよくなった気がする。ボサボサかつ、不揃いだった毛先も切り揃えられ、伸び過ぎて瞳を隠していた前髪も綺麗さっぱり整えられており、全体的にサッパリとした印象を受ける


「あのおっさん、変な人だったけど任せて良かったかも!」


ついでにセットの仕方も教えてもらったので、今の僕は正にキマっているのだ。前より少しだけ格好良くなったこの姿を御礼ついでに早く鉄線さんに見せようと思い、自転車のロックを外して走り出そうとした時、その人は現れた


「ねぇ、キミ!」


突然後ろから声をかけられた

振り返るとそこには20歳あたりの長い青髪を伸ばした女性が立っていた


「キミ、もしかして、鳥花くん?」

「そ、そうですけど…」

「そうだよね!人違いだったらどうしようかと思ったんだけど…合ってて良かったぁ、それでさ、私の事、覚えてる?」


女性は自らの顔を指差し、僕に問いかけるが、生憎見たことのない顔だった


「本当にすみません…覚えて、無いかもしれないです」

「本当に覚えてない?ほら、折り紙教えてあげた、春野 紫苑(はるの しおん)だよ、覚えてない?」


しかし、その小首を傾げた動作はどこかで見たような気がした、だがすっぽり抜けたようにその情景が頭の中で流れることは無く。折り紙も特技ではあるが誰かに教えてもらった覚えは無い。

それでも一つ心当たりがあった、幼少期の失っている記憶。その手掛かりをこの人が持っているかもしれないという可能性。だが今まで数えきれない場所を探し回っても兄の名前すら分かっていないこの状況、期待すれば裏切られるだけだ。

そう頭では分かっていたが5年近く停滞していたこの話に突如降って現れた目の前の新たなる存在に僕は期待を抱かざる負えなかった


「実は僕、信じてもらえないかもしれませんけど、小さいころの記憶がすっぽり抜け落ちてて........」


そう口からこぼすと彼女は唖然として固まってしまった


「やっぱり、えっと、初対面なのに、変、ですよね?」


僕と女性の間に一瞬の気まずい沈黙が訪れ、その空気に耐えられなかった僕は急いで立ち去ろうとしたが、彼女の口から零れた衝撃の言葉に立ち止まらずにはいられなかった


「お兄さんの、飛燕(ヒエン)君の事も、覚えていない、の?」

「兄さんは、飛燕という名前、だったんですか?」

「え、う、うん、そうだけどって、な、泣くほど!?」

「な、泣いちゃうに決まってるじゃないですかぁ、ここ5年ずっと存在だけ分かってる兄を追い続けて名前すら分からずに、半分絶望してたのに、こんな所で、分かるなんて!」


飛燕、僕の名字が変わる前だと瑠璃菊だから、「瑠璃菊 飛燕(るりぎく ひえん)」、それこそががずっと探し求めた兄の名だったのだ


「に、兄さんの話、もっと聞かせてもらえませんか?」

「全然いいよ!私もずっと君に会いたくて捜してたし!その前に、少し場所を変えようか」


言われた通りずっと自転車の駐輪場で立ち話をするのも周りの人々の迷惑になる為、彼女に付いていこうとした時、突如ポケットのスマホからブザー音が鳴り、急いで取り出すとそれは鉄線さんからの電話だった


「すみません、一瞬だけ電話に出ます」

「あ、おっけ~、アタシはそこらへんでテキトーに待っとくから」


ありがとうございますと一言言った後、少し人気の少ない路地裏に行って電話に出るとそこからは低く、深刻な様相の声が聞こえてきた


「鳥花くん、急いで帰ってきてくれ、大変なことになった」


声色からただならぬ雰囲気を感じた僕は恐る恐る事情を尋ねた


「詳しい事は後で話すけど、鬼灯君もだが、菜伊が、マズいことになった。端的に言うと、意識が一向に戻らないんだ。君のファルスでどうにか直せるかもしれないから、とにかく早く帰ってきてくれ」


雷に打たれたが如き衝撃が僕を襲った。

軽く状況を聞いたが蕪野さん負けるなんてありえない。だが仮に火器女さんを守りながら戦ったとするなら可能性としてなら全然ありうる


「すみません、実は急用で帰らなければならなくなりまして.........」

「あぁ、じゃ、せめて連絡先交換しよ。アタシも君に聞きたいことが山ほどあるからさ」


やっとのことで目の前に現れた兄の手掛かりに心惜しさを思うところがあるが、断腸の思いで帰ることを決める。別に今でなくたって後で聞ける、そう自らに言い聞かせ踵を返した。


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「って事があったらしい、僕が何とかギリギリで助け出したけど、その頃にはこの有り様で、ね」


酢束に帰って、鉄線さんに一部始終を聞いた。鉄線さん曰く二人の帰りが思いの外遅く、心配でスマホで連絡しようとした所蕪野さんが持っている端末から救難信号が来ているのに気づき、自らのファルスを使って二人を回収したのだとか


「鬼灯君の方は右手を擦りむいた程度で済んだんだが、菜伊の方が.............」


そう言われ、二階に案内されるとそこには物言わぬ、本当の”蕪”となり果ててしまった蕪野さんの姿があった


「蕪野さん.........」


いつもの生意気かつ、無駄にうるさい返事は一向に帰ってくる気配は無い


「ぁ、鳥花くん、その、ごめ」

「言わないで下さい、火器女さん。それは蕪野さんの思いを踏みにじることになる」


それだけは彼女に言わせたくなかった。火器女さんの右手の包帯や俯き、沈んだ顔から何があったのかは大体想像は付く。蕪野さんはああ見えても、僕らの中で一番責任感が強いし、僕があんなに火器女さんを記録者にすることを渋っていたのに鉄線さんと一緒に押し通したことへの道理を通すつもりだったのだろう。

そういう()だったのは、僕もよく知っている。


「一応言っとくけど、菜伊は死んではないよ」

「え、生きてるんですか!?コレ!?」

「あ、うん、というか前も話したけど菜伊が死ぬ事は基本的に無いよ、昔ミンチになっても平然と立ち上がったし」


火器女さんも鉄線さんの言葉に唖然とし、操作していたスマホもポトリと落としてしまっていた。かく言う僕もそんな話は初耳である為、彼女と同じく開いた口が塞がらない。


「でもね、本当に"意識"が無いんだよ。呼吸も脈もあるけど魂みたいなのだけがすっぽり抜け落ちてる感じなんだ。」

「要はあのクジラに蕪野さんの"意識"を食べられちゃった、って事ですか?」

「その認識で間違いないと思う」

「じゃああのクジラ倒せば蕪野さんは戻ってくるって事ですか?」


火器女さんが食い入り気味に聞く


「それは断言できないね、あのクジラの正体の候補は幾つかあるけど、何らかのファルスである事に間違いは無い。だからこそ予測が出来ないんだよ、基本的にファルスってなんでもアリみたいな側面強いからさ」

「そんなぁ……」


ふと窓を見ると午前中は晴れていた空がすっかり曇りきって、暗い影だけを酢束の中に落としていた


「一つだけ、可能性がある"方法"じゃない、あくまで"可能性"だ」

「な、なんですか!?教えてください」


確実な方法でなくとも、現在の八方塞がりの状況に差した小さな光に僕らは飛びつかざるおえなかった


「鳥花君、君のファルスを使うんだ」

「ぼ、僕ですか?」

「そーだよ、君の『虚像回想』使うんだよ」


鉄線さんの話をまとめると、僕の虚像回想は人の脳や意識と深い関わりを持つファルスだから能力が進化、発展すれば眠ったままの蕪野さんの意識を呼び起こしたり出来るかもしれないとの事だった


「ちょっと待って?鳥花くんのファルスって鳥を出すやつじゃ無いの?そんな人の意識に深く関わる能力なんてあったっけ?」

「鳥を出す奴はあくまで彼の能力一部さ、僕がアテにしてるのは「回想」の方」

「えーと、回想というのはですね……」


いつものノリで説明しようとしたら鉄線さんに遮られた


「説明するより実際に体験した方が良い、鳥花くん、この前真葛が持ってたメモリーチップの中身、今ここで見ようよ。鬼灯君も交えてさ」

「3人同時はした事ありませんし、結構最近発現した能力ですけど…」

「万が一の時は僕がどうにかするから大丈夫だよ」


確かに鉄線さんが居るなら、安心だ、しかし…


「全員で観る関係上、必然的に僕の幼少期まで見られる事になるのですが…」

「そんな事言ってる暇、ある?」


火器女さんの方を見ると、希望に満ちた目でこちらを見つめていた


「そうですよねぇ…」

「それに僕の見立てが正ければ、菜伊を救う手立ては君の過去にあると思うのさ」


言われた通り、僕は自分の部屋に行って真葛から回収した後机の奥に閉まっていたメモリーチップをしっかり手袋をはめて、2人のリビングへ持って行く


「僕が良いと言ったら一斉に触れてください、間違っても僕が言うまで絶対に触れないでください、取り込まれてしまうので」


2人にしっかりと釘を刺しておく、真葛はドーピング薬のような使い方をしていたが、実のところかなり危険なアイテムなのだ


「じゃあ、行きますよ。「回想(パストダイブ)」」


僕の声に合わせて2人もメモリーチップに手を乗せると、青い光が周囲に溢れ出し、僕たち3人は仲間を救う術を探る為、過去への旅へ飛び立った

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