No.35-My iN siDe-
「ありがちな展開とか、あんま思うなよ?こっちだってお前になりたくてなってるわけじゃねぇんだよ。」
そう言うと、もう一人の純哉、裏純哉は超高速で何もない、真っ白い空間を飛び回る。
どうやら、姿に慣れるための運動の様で、相手は全く攻撃を仕掛けてこない。
「さぁて、もうそろそろいいかな。んじゃ、行くぜ?」
裏純哉の速度は声が純哉の耳に届くよりも速いように錯覚するほどだった。
風、というレベルでは無い。
一瞬で目の前に現れたと思えば、一発で吹き飛ばされる純哉。
何が何だか分からず、純哉はただ口の中で血を味わっていた。
「どうだ?気持ちいいか?」
裏純哉はそんなことを口にしながら飛び回る。
半透明の翼が見え隠れしていた。
恐らく、純哉より、純哉である。きっとあれは純哉自身の持つポテンシャルの塊。
純哉の能力の具現化、とでも言えばいいのか。
「まぁ、意識の集合体である偽者の俺に負けるようじゃ、この先に未来は無い。どれだけ強い仲間が居ようと、関係無い。」
「知ったように……説教かましてんじゃねぇ……!!結局お前は俺じゃねぇか……負けるはずがねぇんだよ……!!」
激痛が走るのに耐えながら、純哉は吠える。
しかし、負けるはずがない、とは言ったものの純哉自身が意識の集合体である裏の自分との戦力差を一番実感していた。
「吠えるだけ吠えてくれ。お前は自身の意識に飲み込まれ、次はお前が意識の海の住人になる。」
裏純哉は手を広げ、笑いながら衝撃波を飛ばしてくる。
純哉は全ての衝撃波をギリギリのところで避けてはいるが、避けるたびに激痛が走る。
それから何度も何度も防ぐ、避けるの繰り返し。攻撃に移ることすら許されない猛攻撃。
それに伴う激痛。感覚すら失われかけている。
(きっと今、一撃でも食らえば間違いなく肉体を奪われる。)
そう、純哉は心の中で呟いていた。
だが、相手に勝つ算段は、無い。
頭の中で響き渡る不安。
もう、正気を保っていられる状況ではない。
(なんなら、痛みを伴わず消すように哀願しようか。)
(そうすれば、望み通りに……)
(違う……違うよな。そんなんじゃ強くなれねぇ。俺は何のために強くなるんだ。)
心の中で覚悟を決め、ゆっくり、ゆっくり歩みだす。
(親友と……決着をつけるためだろうが!!)
心の中で、何度も何度も戦う理由を繰り返す。
強くなるための理由を言い続ける。
「だから、俺は此処に居る!」
過去に無い位、拳を強く握り、内なる自分を恐れずに。