No.31-五人の闘い-
三大陸は異様な雰囲気に包まれていた。
活気にあふれていた光の大陸に、かつての様な活気は無く、ただ誰もが戦いの恐怖に怯え、
武器を持ち、疑心暗鬼に陥っていた。
仕様がないと言えば、仕様がない。
三大陸全土を、約1200億人ものヒューマンや天使を巻き込んだ戦い。
自分がいつ殺されるかわからない。昨日までの親しい友人が、家族が、自分に銃を向けるかもしれない。
そんな状況下で、平静を保てと言うのが無理な話なのだ。
「いやぁ………やっぱりこんな状況下だと、静かですねぇ……」
ポツリと弥勒が呟く。
彼らがいる街、『ホープス』は元々光の大陸にて一番活気に溢れた街だった。
実際、数十年前までは此処が光の大陸の首都だった。
ここ数十年の間に文明が更に発達したことで、首都は『ホワイト・ガーデン』に移ってしまったが。
それでも、この戦争が始まる前は、確かに活気にあふれていたはずだ。
「あたりめェだ。こんな状況で、馬鹿騒ぎしてる奴らがいりャァ、誰かが自前の銃で撃ち殺すだろォよ。
戦いの間じャァ、危険因子と見なされたら殺されても文句は言えねェし、誰も咎めねェ。寧ろ喜ぶだろォなァ。」
「い、嫌な世の中です……」
街の中は、紗衣と六葉が話しているくらいで、他の住民は誰も言葉を発していなかった。
住民は訝しげにこちらをチラチラと窺っていた。
歩く中、紗衣は有無を言わさぬ眼力で住民たちを睨みつけ、次々に散らしていった。
「んで、どうするんだ?カシス達とは何時合流するんだ?」
紗衣の行動に全く目を向けず、純哉は他のメンバーに話かける。
弥勒は「彼らもホープスに来るようで、中央広場に向かうそうです。」
と、要点だけを纏めて純哉に返答する。
「んじゃ、中央広場に行くか。」
純哉はそう言うと、地形も分からぬホープスで、中央広場を目指し、前進する。
が、当然のことながら道に迷うわけで。
まだ昼頃だが、既に気温は冬本番並みまでに低かった。天界では秋の終わり頃だが、
どうやら三大陸は既に冬本番の様だ。吹く風は戦争の世の中を象徴するかのごとく鋭く冷たい。
鋭利な風は、確実に彼らの体力を蝕んでいた。
「チッ!純哉コラァ!テメェのせいで道に迷ッたじャねェか!寒いしよォ!」
「すまん……」
紗衣に怒られ、純哉はシュンとしていた。
彼方はハハハと笑い、弥勒はフフフと笑い、六葉はあはは……と笑っていた。
「まぁ、でもしょうがないですよ。何しろ道わかんないわけですし。人に聞ける状況でもないですしね。」
弥勒がまぁまぁと純哉と紗衣の喧嘩を仲裁し、純哉をフォローする。
紗衣は半ば納得できていない顔だったが、素直に言う事を聞いていた。
結局、その場についたのはそれから半時間ほどたってからだった。
光の大陸の空軍所属の初老の中佐、エルメリオ・パドンはホワイト・ガーデンの空を自慢の戦闘機で闊歩していた。
エルメリオは魔法が使えない。だからこそ、武器の扱いを学び、空軍にて中佐というキャリアを手にした。
昔から、どの軍も魔法が扱えるか、若しくは必要ない位の戦闘術を学んでいないと入隊することはできなかった。
しかしエルメリオは、17歳で入隊を志願し、才能が認められ入隊を果たした。
そして異例のスピードで中佐に昇格。以後、数十年以上その地位を不動のものとしていた。
そんな、空のベテランは上層部からの命令を受け、一人ホープスに赴く。
スピードを上げ、自由気ままに空を踊る一台の戦闘機。
「さてさて、もうそろそろホープスかな。」
ホープスの中央広場にある巨大なオブジェがきらりと光っているのが目に入る。
少しずつ減速していくと、エルメリオは次第に高度も下げていく。
高度を下げ、着地しようとしたその時。
ガッ!と得体のしれない何かに機体ごと掴まれた。
エルメリオは咄嗟に戦闘機に装備されていた魔法フィルターを張る。
この魔法フィルター内にある生物や魔力は、どんなものだろうと、一時的に全機能が麻痺してしまう。
しかし、その得体のしれない何かは、止まることなく機体を掴み続ける。
エルメリオは高度を上げて逃げようとするが、逃げられない。
『エルメリオ・パドンか。異例のスピードで中佐に所属され、
それ以来その地位から動くことが無いと聞いたが、今貴公がそれ以上に上がれない理由がわかったぞ。』
背筋を凍らせるような、まるで機械音声の様に性格で冷静な人の声にエルメリオは完全に威圧されていた。
まるで、少しこなれて調子に乗った剣士が、何十年もやってきたベテランに威圧されるかのように。
『貴公、自分の強さに陶酔していたようだな。緊急事態に陥った時の対処がまるでなっていない。
これでは、中佐どころか上等兵の器もないぞ。貴公には二等兵がお似合いだ。』
エルメリオがその声を聞いた直後、得体のしれない何かは、機体を地面にたたきつけた。
機体は粉々に破壊され、エルメリオは見るも無残な死体になっていた。
顔は原形をとどめておらず、最先端の技術を持ってして作られた最高硬度のステラ・アーマーも、
完全に機能しないまでに破壊されていた。腕と手は千切れ、血がベッタリと全身を覆っていた。
『残念。最後まで逃げることしか考えていなかったか。
貴公には二等兵の器すらなかったのかもしれんな。無論、この声が貴公に届くことは無いがな。』
ドゴォ!と、巨大な地響きが起きた。
純哉達はその音がした所へ一気に飛んでいく。
たどり着いた先は、巨大な広場だった。
その広場の中央の巨大なオブジェの少し先に、鉄の塊が煙を上げ、不自然に捨てられていた。
「先ほどの音は、きっとこの戦闘機でしょうね……」
弥勒は冷静に状況を分析する。
その後、純哉達は此処が待ち合わせ場所と気づき、広場内をウロウロしていた。
そして彼方が噴水に近づいた瞬間
「動くな!」
彼方は分かりやすく身震いした。
その後ろには恐らく、闇の大陸の兵士が数十人態勢で彼方に銃を向けていた。
他の四人が駆け寄ると、他の部隊に四人も止められてしまった。
そして、一人の兵士はウェポンの簡易牢獄で二人の、しかも見覚えのある天使達を閉じ込めていた。
カシスと仙寿である。
全員が冷や汗をかく中、紗衣だけは一人平然としていた。
その態度が気に食わなかったのか、一人の兵士が紗衣の額に銃を押しつける。
その行動により、弥勒がどうにかして穏便に解決しよう、という計画が台無しになった。
「チッ、テメェら、誰に向けて銃向けてんだよ。あァ!?」
紗衣は紅蓮の怒りを露わにし、兵士の持つアサルトライフルの銃身を持ち、グニャリと変形させてしまう。
弥勒はヤレヤレと、溜め息をついたが、すぐに戦闘モードに切り替える。
そして、それを合図に、彼方も、六葉も、純哉も戦闘モードに切り替わる。
他方からの集中砲火を、紗衣は全く気にせず一人ずつ殴るだけで死体に変えていく。
彼方も紗衣と同じように他方からの銃弾を肉体強化を使い、全て避けきっていた。
そして、一人一人殴り殺していく。
六葉に至っては、何もせずに、ただ棒立ちしていた。
しかし銃弾は六葉に当たらず、銃弾を撃った兵士の銃弾はめり込んでいた。
六葉は他の誰にも見せたことのないような、機械の国での戦いのときに見せたような凶悪な笑いを浮かべていた。
純哉は自身の時空系、の応用である大気圧の壁を作り上げ、速度を倍増させたのち、跳ね返していた。
特殊装甲の兵士に銃弾ははじかれていたが、普通の兵士を一掃すると、巨大な槍を作り上げ、
特殊装甲を串刺しにする。装甲から血が吹き出て、兵士はどんどん倒れていく。
「僕は、あんまり戦いが好きじゃないんですけどねぇ。」
そう、弥勒は口で言っていたが、六葉が見せたような笑みを浮かべ、次々に兵士を黒い箱に閉じ込めていく。
そしてその直後、黒い箱の中で次々と絶叫が巻き起こる。
黒い箱の中で、魔力の槍が全方向から襲いかかったのだ。
槍は箱の壁を突き破り、どんどん外に姿を現す。全ての槍が姿を現した頃には、箱は禍々しい姿に変貌していた。
エルメリオさん………サーセン………




