No.2-財布は凍結、魔弾銃は250万円、買うか否か-
皆を飯に誘うなんてやめとけばよかった。
そうだよ。思い返せば他にもアピールの方法はいくらでもあっただろうが!
「お気の毒に。まぁ、今度一人で来いよ。少し位サービスしてやるからよ。」
気前のいい主人だ。俺行きつけの店である『定食屋オズボーン』の主人、オルマさん。
何でもアメリカから日本へ出張中に、交通事故で亡くなったらしい。
もともと日本に住んでいたらしく、日本語は得意らしい。
いい人に会えた気がする。
「オルマさん、今度ホーン肉お願いしますね。」
「はぁ!?それは高いよぉ!もうちょっと安めのランチでお願い!」
ホーン肉、松坂牛とか神戸牛みたいな感じのブランド物といえばブランド物のモンスターの肉だ。
とろみがあり、少しクセはあるが、湯通しするととっても旨い。
あれを使った料理は天使が生みだした最高の料理だと思う。
普段は高くてとても手が出せないが。
ランチか……まぁそれは後々交渉させてもらおう。
簡単なあいさつをして店から出ると、ちょうど雨が降ってきた。
傘など当然持ってきてなどいない。
どうするか………
どうしよう。どうしましょう。
五分以上悩んだ挙句、情報屋で雨宿りさせてもらうことにした。
『喫茶-セルフィッシュ-』
普通の人じゃ見つけられないであろう裏路地にある喫茶店兼情報屋。
ここの店主であるカシスとは結構な間柄である。
カシスは元々アウシ・アタに配属されていて、輸出入の管理を任されていた。
大陸からの帰還後、なんやかんやで物資を持ってきてもらう事が多く、仲良くなったというわけだ。
「お客さん、困りますよ。今は営業時間外です。」
「今日は喫茶店での利用だ。」
「あぁそうですか。なにいたしますか?店主のお勧めで塩水辺りはどうでしょうか?」
「あぁ、くれよ。お前の眼に引っ掛けてやるからよ。」
「やめていただきたいのですが………グスン。」
「冗談だよ、冗談。」
「私の方は冗談ではございません。」
「はいころーす!」
こんなバカな会話をいつもしている。
気の置けない仲間とは、こういう事だろうか。
正直こっちの方に来てから不安だったが、いい感じに仲間ができて感謝している。
大事にしなきゃならんよな。仲間って。
うん。俺いいこと言うなぁ。
「まぁ、それは置いといて。純哉よぅ。今客がお前しかいないから、
裏に回ってくれ。見せたいもんがある。」
「ん?何見せてくれんの?新しい武器でも入った?」
「あぁ。しかも特級クラスのな。」
胸を躍らせ、一度店から出て裏路地の裏路地から店の裏側に入る。
店の裏側が情報屋、というか武器屋的なものになっている。
ここで仕入れる情報は天下一品と言われ、天界の重役たちも情報を買いに来るほどだ。
情報の裏にある信頼は伊達ではない。
実際、カシスが高価な武器などを安価で仕入れられるのは、
そういった重役達がルートを手配してくれているからである。
「はいはいはい、これを見てくれ。」
見せられたのはハンドガンの様な銃器だった。
金で装飾され、スライド部分からグリップ部分にかけて薔薇の様な刻印がなされている。
確かに特級品といえば特級品だが………
「んで、こいつのどこが特級品だ?こんなのはいくつも持ってるよ。」
「いやいや、こいつはただのハンドガンにあらず。こいつは魔弾銃。別に心の弾丸を撃つ銃をパクってるわけじゃないぞ?」
そう言いながら、ペラペラと説明を始めた。
「この魔弾銃、その名の通り魔力を込めた弾丸を発射する銃だ。今までにも狩猟用の銃器の弾丸に、
自分で魔力を詰める事は出来た。だが一発一発の衝撃が大きすぎて、多くて三発撃つと銃器が大破していた。
魔弾銃は最初から魔力が込められた弾丸、魔弾を使用し、魔弾銃自体も魔弾用の設計になっている。
普通の弾丸ももちろん撃てるがな。まだ研究段階にあるが、大陸にて政府の重役向けに配布されていた。
今回そいつを引っ張ってきたってワケだ。」
「要するに、対魔物用の銃器で、護身用はともかく、魔物を効率よく撃破するための銃だろ?」
「理解力がある子は話しやすいね。その通りだ。お前が大陸にて任務をこなしている時に、秘密裏に開発されていた。」
「へぇ。そんなものがあるとはな。面白い武器だ。んで、そいつはいくらすんの?」
「ふふふ。お前なら喰いついてくると思ったぜ。ま、お前レベルの猛者なら使う機会はないだろうが。
こいつの説明をもう少ししておく。値段を言った後に文句言われても困るからな。
この銃に使われている素材は主にヒヒイロカネとオリハルコンだ。
ヒヒイロカネは驚異の魔力伝導率と魔力の増強効果、オリハルコンは驚異的な硬度と魔力の増強効果。
二つが組み合わせ絶妙な配合を施すことで、魔弾の威力を物凄い上げてるってわけ。
しかもオリハルコン製だからほとんど壊れないし、金で装飾されてるから高級感もある。そして」
一呼吸置き値段を発表する。
「注目のお値段ですが、VIP価格で二千五百万メローニでどうでしょうか!」
「高ッ!高すぎるだろそれは!殺す気か!」
メローニ、大陸とこの天使達との間での共通のお金である。
一メローニが日本円の一円とほとんど同じなので、日本円に換算しても
二千五百万円ほどである。
払えない額ではないが、払ったら一ヶ月塩水で生活しなきゃいけなくなる。
それは避けたいのが心情である。
「仕方ないなぁ。だったら………十分の一の二百五十万メローニでどうだ!」
「買った!」
これは買いである。
一ヶ月は安い定食で暮らすことになるが。
でも、いいじゃない。人間だもの。
「さて、もう雨も止んだし俺は帰るよ。じゃーなカシス。」
「おう。じゃあな。」
なんかいい感じに乗ってきた