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珠景姫 Mikage hime  作者: 美珠夏/misyuka
第2章 姫じゃない人生( 珠景 )
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彩美リン

 

 厨房へと戻ると、お風呂上がりの(つむぎ)の姿があった。

 美味しそうな料理が並ぶダイニングテーブルに座り、食べるのを我慢している。 

「もしかして、待っててくれたの?」

「だって、一緒に食べたいもん」

「可愛い奴め」

 笑みを浮かべた珠景(みかげ)は、(つむぎ)と向かい合うように座った。

 手を合わせた二人は、声を揃えて告げる。


「「いただきます」」

 お腹が空いていたのか、(つむぎ)はすぐに夕飯を食べ始めた。

 御神体が生み出す霊力によって生命が維持される為、今の存在になってからは一度も食事をしていない。

 八月八日以外はずっと眠っていたので、ご飯を楽しむ機会は訪れなかったのだ。

 気になった料理を箸で摘み、珠景(みかげ)は不思議そうに見つめる。


「これは……何?」

「餃子だよ。専用のタレとかポン酢、醤油に付けて食べると美味しい」

「へぇ。じゃあ、タレで食べてみようかな」

 小皿に出した専用のタレに餃子の端を付け、そのまま口へと運ぶ。

 パリッと音がなると、ジューシーな肉汁と程良い酸味が口の中に広がった。モチモチとした皮と、焦げ目のついた羽のパリパリ食感のバランスが絶妙だ。


「なにこれ、美味しい」

 驚きのあまり、珠景(みかげ)の箸を動かす手が止まる。

 そんな珠景(みかげ)に構うことなく、(つむぎ)は食べる手を止めずに夕飯を楽しんでいた。

 会話もせずに食事していると、廊下の方から誰かの足音が聞こえて来た。

 歩く速さからして、弥栄(やえ)ではない。


「つむっち、今日も泣いたってマジ?」

 厨房に入って来たのは、二十代くらいの女性だった。

 透明感のある茶髪をポニーテールにしていて、引き締まった身体と程よく日焼けした肌は、アクティブな印象を与えてくれる。


「……ちょっ、つむっち! お客さん居るなら教えてよ! もう、すっぴんなのにぃ」

 珠景(みかげ)の存在に気がついた彼女は、慌てて顔を手で覆い隠した。

 しかし、すぐに手を外すと、(つむぎ)の隣に座って珠景(みかげ)に視線を向ける。


「うわっ! めっちゃ美人」

「えっと、こちらは……珠景姫(みかげひめ)の魂を宿した精霊さん?」

 (つむぎ)の紹介を受け、珠景(みかげ)は自己紹介を始める。


「妙な出会いから、ここに住むことになりました。年は死んだ時と同じ十七歳で、名前は珠景(みかげ)に改めました。百年分の時代のズレがあるので、色々とご迷惑をおかけするとは思いますが、何卒よろしくお願いします」


 珠景(みかげ)が頭を下げると、彼女も軽く頭を下げた。


「……マジ? 亡霊やん」

 困惑した様子の彼女の腕をとんとんっと叩き、(つむぎ)は自己紹介を促す。

「気持ちは分かりますけど、ほら、リンさんも」


「私は彩美(あやみ)リン。民宿の経営管理を行う二十三歳、独身。高校生の弟と一緒に、この民宿でお世話になってる。よろしく!」


 彩美(あやみ)家に生まれたリンを見て、ふと思う。

 もし、今も長姫制度(おさひめせいど)が続いていたら、この子が長姫になっていたのかな。と。

 (つむぎ)とリン。

 二人が自由に生きているのなら、命をかけて終わらせた甲斐が有る。


 互いに自己紹介を済ませた後、リンは珠景(みかげ)をじっくりと見つめて、ため息を溢した。


「……んで。なに、この完成度。世界遺産やん」

珠景(みかげ)さんは綺麗過ぎるので、嫉妬したら負けですよ」

「かもねぇ。毎日この顔を拝めるなら、むしろ幸せと思うべきか」

 リンの呟きに、(つむぎ)は餃子を食べながら頷く。


「ねぇねぇ、『姫ちゃん』って呼んでも良い?」

 懐かしい呼び方に、珠景(みかげ)は表情を緩めて頷く。

「なら、私も『リンちゃん』って呼んで良いですか?」

「全然おっけ!」

 リンに向けていた視線を、食事を楽しむ(つむぎ)に向ける。


(つむぎ)って呼ぶから、私のことも珠景(みかげ)って呼んで欲しいな」

「分かったぁ」

「じゃあ、(つむぎ)とリンちゃん。今日からお世話になります」

 笑顔で頷く二人を見て、珠景(みかげ)も安堵の表情を浮かべた。

 改めて挨拶を済ませた後、お椀を手に取り食事を再開する。

 味噌汁は、もう冷めていた。


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