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珠景姫 Mikage hime  作者: 美珠夏/misyuka
第7章 巡る季節の思い出( 紬 )
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何気ない日常の青春

 

 一人になった(つむぎ)は、厨房へ向かう。

 部屋を覗いてみると、珠景(みかげ)とリンが二人で話していた。 

 (つむぎ)は壁に張り付き、こっそり耳を傾ける。


「――え。最近、スマホ使ってる?」

 聞こえてきたのは、リンの深刻そうな声。


「言葉を調べる時には使うけど……それ以外は、あまり使ってないかも……」

「音楽聴いたりさ、写真撮ったりもしないの?」

「写真撮るのって時間かかるでしょ? 確か三十秒くらい」

「マジで言っとるんか、姫ちゃん……」


 一呼吸置き、リンは落ち着いた声で告げる。

「つむっち。姫ちゃんに、写真の撮り方教えてあげて」

「あれ、バレてた!?」

「ふっ、甘いな。私を誰だと思っている」

「リンさん」


「いや、そこはさぁ。せめて『な、何者なんだ貴様は!?』ぐらい言ってよ」

「な、なにものなんだきさまはー」

「抜けた声で言わない。茶番は良いから、写真の撮り方を教えてあげて」

 スマホのカメラを起動し、珠景(みかげ)の傍に歩み寄る。


「笑顔で、せーの、かにぃーっ!」

 (つむぎ)の独特な掛け声に、珠景(みかげ)は困惑しつつも笑みを浮かべる。

 二人が笑顔になったタイミングで、(つむぎ)はシャッターを切った。

「撮れた」

「え、もう?」


「思い出を一瞬で形に残せる。それが、現代のカメラなのですよ」

 どこか誇らしげに、撮ったばかりの写真を珠景(みかげ)に見せる。


「……凄い……見たままの景色を、簡単に残せるの?」

「うん。スマホ一つで思い出を振り返れるし、世界の絶景とかも調べれば出てくる」


「便利な時代だね。……百年前にも欲しかったな」

 切ない表情で呟いた珠景(みかげ)は、すぐに笑顔を取り繕う。

「その写真、後で貰える?」

「うん! 今送るね」


 スマホを見つめて数秒。良いことを思いついた。

 写真をコハモで送信すれば、珠景(みかげ)が始めるきっかけを作れる。

 思い立ったら吉日。名案に背中を押され、迷わず前に進んだ。


「……珠景(みかげ)もさ、一緒にコハモやらない?」

「コハモ?」

 可愛らしく首を傾げる珠景(みかげ)を見て、(つむぎ)はリンに視線を向ける。

「リンさん、説明頼んだぁ!」

「大事な所は人任せかいっ!」

 (つむぎ)の頭に手刀を振り下ろすと、リンはコハモの説明を始めた。


 アプリのダウンロードから、アカウント作成まで。リンが手際良く行っていく。

 その様子を眺めていると、練習を終えた(なぎ)(らい)も戻って来た。


「おっ、みんな揃って何しているんだい? 恋バナなら任せてくれ。甘くて心が溶――」

「はいはい、一人でやってて」

「ひどっ! お前の姉貴、ひどっ!」

 リンに軽くあしらわれ、(らい)(なぎ)に矛先を向ける。

「聞く価値ねぇから、お前の恋バナなんて」

「弟の方もひでぇ…… (つむぎ)ぃ、俺の話を……」

「ごめん、何も聞いてなかった……私はうどん派だよ?」

「何の話だ! また飯の話か、食いしん坊」

 わざとらしくため息をつくと、(らい)珠景(みかげ)に目を向けた。


珠景(みかげ)ちゃん……おいらの恋バナ聞いておくれよ」

「こいばな? 良く分からないけど、後で聞かせてよ」

 優しく微笑む珠景(みかげ)を見て、(らい)は魂が抜けたように静かになる。


「……あ、もうダメかもしれん。貢ぎ先が決まってしまった」

「おーい、気持ち悪いこと言ってんぞ。プライド捨てたのか?」

珠景(みかげ)と恋バナ出来るなら、プライドなんて捨てるさ。美人過ぎる」

 (なぎ)の問いかけに、(らい)は清々しい表情で答えた。

 呆れた表情を浮かべた(なぎ)は、(つむぎ)に目を向ける。


「…… (つむぎ)。大根ってあるか?」

「この前貰ったから、ダンボールにあるはず。何か作るの?」

「壊れたこいつの頭に、フルスイングしてやろうかと思って」

「大根折れそうじゃない?」

「先に(らい)の心配してやれよ」

 (なぎ)はふっと笑い、(らい)の頭を軽く叩いた。


「可愛いのは分かるけど、困らせたらナンパ男と一緒だぞ」

「はっ! 俺は、なんて過ちを……すまない、相棒。目が覚めたよ」

「おう」

「目が覚めて気が付いたんだが、お前も過ちを犯したみたいだぞ。相棒」

 (らい)(つむぎ)を指さして、(なぎ)の視線を誘導する。

 頬を膨らませて拗ねる(つむぎ)に、視線が集まった。


「……(なぎ)も可愛い子が好きなんだ。食いしん坊娘なんてさ……大根で空飛びたいよ」

 ブツブツと呟く(つむぎ)を見て、(らい)は冷静な口調で凪に問う。

(つむぎ)の頭も、おかしくなったっぽいけど。大根でフルスイングするか?」

「……する訳ねぇだろ」


「じゃあ、どうする? 俺のおすすめは『お前が一番可愛い』って囁きながら、情熱的に抱きしめる。って感じだけど」


 ため息を(らい)にぶつけると、(なぎ)は厨房の棚を漁り始めた。

 袋に入ったグミを手に取り、油性ペンで何かを書き込む。 

 そして、不機嫌な(つむぎ)にそっと手渡した。

 (つむぎ)は戸惑いを隠せなかったが、すぐにある事に気がつく。


 袋には、(なぎ)の字で『一番可愛い奴にあげるグミ』と書かれていた。

 顔が熱くなり、口元が緩む。


「……ありがと」

 (つむぎ)の頭をぽんっと叩くと、(なぎ)は静かに去っていった。

 厨房に残されたのは、恋する乙女と傍観者達。

 変な空気を吸い込んで、リンは紬に声をかける。


「余韻に浸っているところ、ごめんね。姫ちゃんの登録終わったよ?」

 

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