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珠景姫 Mikage hime  作者: 美珠夏/misyuka
第6章 最後の姫になる為に( 珠景姫 )
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人生最後の夏祭り

 

「お待たせしてすみません」

 色歌(いろか)の声が聞こえ、後ろを振り返る。

 猫半面をつけた少女が立っていた。


「……変な人に声をかけられたんだけど」

「え、ばかなんですか。鏡を見てきてください。お互い様ですよ」

「冗談だって。宮殿の方は大丈夫そう?」


「ええ。姉さんは疲労により、早めに就寝。 小春(こはる)小鈴(こすず)も、私の指示で不在と伝えてあります。宮殿関係者も帰宅する時間ですし、騒ぎになることは無いでしょう」


「流石だね。色歌(いろか)に任せて良かった」

「もっと褒めてください。準備も含めて大変だったんですよ?」


「良く頑張りました。ありがとね」

 頭を撫でられた色歌(いろか)は、目を逸らして呟く。

「なんか、照れるので……やめてください」

「可愛い奴め」

 面の下で笑い合った後、色歌(いろか)は双子姉妹に目を向けた。


小春(こはる)。お金の管理、ありがとうございます」

 財布を受け取った色歌(いろか)は、中身の確認を済ませる。 

「あの…… 色歌(いろか)さん」

「なんでしょう?」

 小春(こはる)が何かを耳打ちすると、色歌(いろか)はふふっと笑った。


「仕方ないですね。一度だけですよ?」

「ありがとうございます」

 小春(こはる)は嬉しそうな表情を浮かべ、小鈴(こすず)に対して手で丸を作ってみせる。

 すると、双子姉妹が左右から抱きついてきた。

「どうしたの、急に?」


「今日はどうしても、姉さんに甘えたかったみたいです。普段は侍女である以上、こんなこと出来ないですからね」


「そっか。じゃあ、特別な日になったね」

 小春(こはる)小鈴(こすず)の頭も、優しく撫でてあげる。

 心地良さそうに微笑むと、二人は抱擁を解いた。


「今日はありがとうございました。楽しかったです」

「また、金魚すくいやりたいです!」

「私も楽しかった。次やる時は、十匹目指そっ!」

「気をつけて帰ってくださいね。くれぐれも、他の人に見つからないように」

 色歌(いろか)の言葉に頷き、双子姉妹は夜の森を駆けていく。

 すぐに、その姿は見えなくなった。

「私達も行きましょうか」


色歌(いろか)は、何食べる?」

「もちろん、全ての屋台を……と言いたいところですが、しっかりご飯を食べちゃったので。今日は、飴細工だけ買おうと思います」


「金魚すくいとか、輪投げもあったけど」


「時間も限られてますからね。お祭りの雰囲気を楽しめれば充分です。それに、姉さんと遊べることが、何より幸せなので」

 月明かりに照らされて、笑顔の花が咲く。


「ほら、行きますよ」

 楽しげな声と共に、手を引かれて歩き出す。


 社殿の影から、祭りの舞台へ。

 久しぶりに繋いだ手は、どこか大きくなっていた。

 この刹那に、時の流れの速さを痛感する。


 幼少期で止まってしまった姉妹の時間。

 赤ちゃんみたいな手だったのに、今はもう少女の手だ。

 気がつけば、もう七年が経とうとしている。


 人生の半分を、色歌(いろか)は侍女として生きてきたのだ。

 妹として生きた時間は、半分に満たない。

 そして、これからも。増えることは無い。


「これを二つ、お願いします」

 妹の成長を感じている間に、色歌(いろか)は飴細工を購入していた。

 夢みたいな現実に、意識を戻す。


「この後は、どうする?」

「あとは、姉さんに任せますよ」

 飴細工を一つ受け取り、珠景姫(みかげひめ)は少し考える。

「じゃあ……最後にお参りしよっか」

「お祭りは、もう良いんですか?」

「うん。名残惜しいくらいが、丁度良いかなって」


 夏祭りの特別な雰囲気は、充分に味わえたと思う。

 小春(こはる)小鈴(こすず)が無邪気に遊ぶ姿を見たり、色歌(いろか)と手を繋いで歩いたり。

 どちらも、普段の『姫と侍女』の関係では出来ないことだ。


 二人は長姫(おさひめ)神社の社殿へと向かい、作法に則ってお参りを済ませる。

 長姫(おさひめ)神社は、姫として生まれた女子の為の神社でもある。

 御三家の人々は、姫の無病息災や、長姫(おさひめ)の安産をこの場所で願い続けて来た。


「……ありがとう」

 他の人に見られないように狐面を外して、珠景姫(みかげひめ)は笑みを浮かべる。

 十六年間、見守ってくれた神様に、悔いの無い表情を見せる為に――


「帰ろっか」

 珠景姫(みかげひめ)は狐面をつけ直し、後ろを振り返って夏祭りの光景を眺めた。

 篝火の先、参道に立ち並ぶ屋台の灯り、が夜の世界に映えている。

 これが、姉妹で過ごす最後の夏祭り。

 そう思うと、少しだけ切なかった。



 夏祭りの余韻に浸りながら、ゆっくりと夜道を歩く。

 獣道を抜け、トンネルの近くまで戻って来た。

 夜風が髪を揺らし、珠景姫(みかげひめ)は口を開く。

「ありがとね」

「別に大した事はしてないです。こっちの方は、簡単ですから」


「……あのさ、一つだけお願い追加しても良い?」

「良いですよ。その代わり、明日のおやつは全部私が貰いますからね」

「食いしん坊め」

「魅力の一つですよ? それで、お願いって何ですか?」

 色歌(いろか)は立ち止まり、珠景姫(みかげひめ)に目を向ける。


小春(こはる)小鈴(こすず)が迷わないように、傍で見守って欲しいんだ。私が突然居なくなってさ、長姫制度(おさひめせいど)や侍女の立場が無くなれば、戸惑うことも多いと思う、それは色歌(いろか)も同じだけど」


「安心してください。大人になるまでは、侍女の先輩として面倒をみますので。それに……姉さんが居なくなったら、私には彼女達しか居ませんから」


 寂しそうに笑う色歌(いろか)を見て、返す言葉を見失う。

 珠景姫(みかげひめ)の時間だけが、止まってしまった。

「……」


「後の事は、気にしないでください。私が何とかしますから。大丈夫です」

「……うん。色歌(いろか)なら大丈夫だって信じてる」

 珠景姫(みかげひめ)の言葉を受け取ると、色歌(いろか)は再び歩き出した。


「見つかる前に帰りますよ。あ、夜のトンネル怖いので、手繋いでください」

「幽霊が出るから?」

「怒りますよ?」

「はいはい。怖がりな妹を守るのも、お姉ちゃんの仕事だもんね」


 手を繋いだ二人は、真っ暗なトンネルへと入って行く。

 ひんやりとしたトンネルの中では、手の温もりがより伝わって来た。

 お忍びで行った、初めての夏祭り。

 最後の夏に、最高の思い出を描いた――


このエピソードを、

色歌 視点で楽しみたい方はこちら↓

『 珠景色の春風鈴 』:長姫神社の夏祭り

https://ncode.syosetu.com/n9791jo/16/


珠景姫Mikagehime ⇔ 珠景色の春風鈴

✼••┈┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈┈••✼

どちらから読んでも楽しめる物語


❀ 春風鈴→珠景姫(時系列順)

❀ 珠景姫→春風鈴(神島家の姉妹を深く知る)


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