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珠景姫 Mikage hime  作者: 美珠夏/misyuka
第6章 最後の姫になる為に( 珠景姫 )
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猫半面と金魚すくい

 

 太陽が姿を消し、夜の帳が降りる頃。

 珠景姫(みかげひめ)と双子姉妹は、宮殿からの脱出に成功した。

 御神体に繋がるトンネルの中を歩きながら、珠景姫(みかげひめ)は口を開く。


長姫(おさひめ)神社って、御神体の方にあるんだっけ?」

「本当の入り口は、反対側にあります」

「この先に、裏道があるんですよ!」

 人目につかない道を使うのも、色歌(いろか)の指示なのだろう。

 色歌(いろか)の念入りな準備のおかげで、ここまで来ることが出来た。


 暗闇を抜け、夜空が広がる。 

 トンネルの先、立派な御神体が姿を現した。


「こっちです」

 小春(こはる)の案内で、トンネル脇の獣道へと足を踏み入れた。

 足元に注意を払いながら、行燈の明かりを頼りに進んでいく。

 どこからか、祭囃子が聞こえてきた。


「もうすぐですよ!」

 小鈴(こすず)が声を弾ませる。

 斜面に生えた木々の向こうに、明るい場所が見えてきた。

 獣道の先、長姫(おさひめ)神社の社殿が姿を現す。

「これが、夏祭り……」


 祭りの雰囲気に酔いしれた世界へ。


 夜空の下、長姫(おさひめ)神社の境内に足を踏み入れる。

 参道の両脇には多種多様な屋台が並んでいて、多くの人で賑わっていた。

 赤や緑の塗装が鮮やかな社殿は、篝火の炎によってほのかに照らし出されている。


 子供のように目を輝かせ、狐面の下で笑みを浮かべた。

「早く行こっ!」


 狐面と猫半面。

 顔を隠して歩けば、それなりに注目を浴びると思っていた。

 しかし、夏祭りの雰囲気のなかでは、あまり目立たないのかもしれない。

 屋台を巡る三人を見て、表情を変える人は居なかった。


「あっ! 姫――」

「しぃー!」

 小鈴(こすず)が『姫様』と呼ぶ前に、小春(こはる)は人差し指を口に当ててみせる。

 止められた意味を理解した小鈴(こすず)は、両手で口を押さえた。

 二人の可愛いやり取りを見て、珠景姫(みかげひめ)は笑みをこぼす。

「ふふっ、どうしたの?」


「あれ、一緒にやりたいです」

 小鈴(こすず)が指差していたのは、金魚すくいの屋台だった。

 金魚すくいを楽しむ子供達を見て、珠景姫(みかげひめ)は明るい声で答える。

「楽しそうじゃん。小春(こはる)も良いよね?」


「私が決めて良いんですか……? 色歌(いろか)さんには、『お面を外さなければ好きに楽しんで良い』と言われていますけど」


「なら大丈夫。三人でやろ?」

「「はいっ!」」

 双子らしく声を揃えて返事をすると、猫半面の下で笑顔を見せた。

 先に遊んでいた子供達が居なくなってから、三人は屋台へ歩み寄る。


「お、嬢ちゃん達もやるかい?」

 お金の管理を任されている小春(こはる)が、三人分の支払いを済ませる。

 小さな竹の輪に和紙を貼ったものを手に取り、屋台のおじさんは説明を始めた。


「ええか? これを使って、金魚を掬うんだ。和紙が破けるまでは、いくらでも取って良い。お椀に入れた金魚は持って帰って良いぞ」


 和紙付きの竹枠を受け取り、金魚に目を向ける。

 赤と黒。二色の金魚が、木製のたらいの中を悠々と泳いでいた。


「よし!」

 ふぅと息を吐き、珠景姫(みかげひめ)は和紙を水面に近づける。

 狙いを定めた金魚の動きを目で追いながら、その時を待つ。


 一瞬の出来事だった。

 赤い金魚が宙を舞い、水滴と共に光を浴びて輝く。

 水の世界から連れ出された金魚は、小さなお椀へと滑り込んだ。


「お、やるねぇ嬢ちゃん」

「これ、楽しいっ!」

 無邪気に笑う珠景姫(みかげひめ)の隣で、双子姉妹も金魚すくいに挑戦する。

 小春(こはる)は丁寧に掬おうとしたが、水に浸し過ぎて和紙が破れてしまった。

 対照的に、小鈴(こすず)は勢い良く掬い上げたが、その一回で派手に破れる。


「「あぁー」」

 残念そうな声を漏らした双子姉妹は、珠景姫(みかげひめ)に目を向ける。

 和紙が破れていない珠景姫(みかげひめ)は、その後も金魚を掬いあげていく。

「あっ」

 限界を迎えたのは、六匹目を狙った時だった。

 結果は五匹。初めてにしては上出来だったと思う。


「全部持ち帰るかい?」

 珠景姫(みかげひめ)は、首を横に振る。

「きっと、怒られちゃうので」

「厳しい家なんやなぁ」

「でも、凄く楽しかったです!」

「楽しめたんならええか。また来てや」

 金魚とおじさんに手を振って、三人は次の場所へ。

 屋台を見て歩きながら、社殿の裏へと向かう。

 人気のない場所に身を潜め、色歌を待つことにしたのだ。


「二人も、お祭り楽しめた?」

 双子姉妹は、焼き鳥を食べながら頷く。

 普段は侍女として働いているが、まだ十歳。

 侍女という立場を忘れて遊ぶ時間も大切だろう。


「お待たせしてすみません」

 色歌(いろか)の声が聞こえ、後ろを振り返る。

 猫半面をつけた少女が立っていた。


「……変な人に声をかけられたんだけど」


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