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珠景姫 Mikage hime  作者: 美珠夏/misyuka
第3章 夢奥島( 紬 )
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若葉色のワンピース

 

「それで、朝早くにどしたん?」

「一緒にお散歩行くんだけど、珠景(みかげ)に貸せる服無いから、リンさん服貸してぇ」

「お洒落な服あったかなぁ? あ、でもでも、こんな美人なら、何でも似合いそう!」

 リンは表情を緩めると、押入れの戸を開く。


 押入れの中は、小さな洋服屋さんだった。

 多種多様な服が綺麗に並べられていて、中に置かれた棚にはアクセサリーや小物も可愛く飾られている。


「無難にTシャツとスカートとか、テンプレの白ワンピ? パーカー系もあるけど」

 リンは何着か服を手に取ると、分かりやすい様に広げて見せてくれた。

 珠景(みかげ)は手で肌触りを確かめながら、リンと一緒に服を選び始める。


「私も着替えてくる」

 相談しながら服を選ぶ二人に声をかけて、(つむぎ)は自室へ向かった。

 隣を歩くのが国宝級の美少女となれば、可愛い格好をする必要がある。

「んぅ、可愛いやつあったかな……」

 箪笥の中から服を見繕い、畳の上に広げてコーディネートを確認してみる。


 チョコレートカラーのボーダー柄Tシャツに、白のオーバーオール。そして、お気に入りのブラウンのキャスケット。

 以前、リンから貰った誕生日プレゼントであり、(つむぎ)の唯一の勝負服だ。


 普段は動きやすさを重視して、Tシャツに短パンという格好で過ごしているので、こうした可愛い服を着る機会は滅多に無い。

 貰った日に着用して以降、一度も着ていないので、久々のお披露目になる。

 これしかない。と確信した(つむぎ)は、すぐに着替えを済ませた。

 慣れない服を身に纏い、リンの部屋へ戻る。


「着替えてきたぁ」

「あ、それ誕プレのやつ! 着てくれたのは嬉しいけど、流石に暑くない?」

「お洒落は我慢だから」

「わお、哲学的」

「午前中は涼しいし、珠景(みかげ)の隣を歩くなら、可愛い服着ないとヤバい」

「タカアシガニ」


 (つむぎ)とリンが使う言葉の一つに、『タカアシガニ』というものがある。

 確かに。という言葉は『タシカニ』という蟹の一種なのではないかという、(つむぎ)の独特な発想から始まり、『タシカニ』の進化系として『タカアシガニ』という言葉が生まれた。

 大いに納得する。確信を得る。という意味合いで使われる。


 ちなみに、タカアシガニは、足を広げた長さが一メートルを越す巨大な蟹だ。

 (つむぎ)が持っている大きなカニのぬいぐるみも、タカアシガニがモデルになっている。


「つむっちも気合十分だけど、姫ちゃんも負けてないよ?」

 ニヤリと笑みを浮かべ、リンは部屋の隅を指差す。

 誘導された視線の先、着替えを済ませた珠景(みかげ)と目が合った。

「どうかな?」

 不安そうに首を傾げ、珠景(みかげ)は着慣れない洋服に視線を落とす。


 珠景(みかげ)が選んだのは、若葉色のTシャツワンピースだった。

 発色が綺麗で、ウエストリボンが大人っぽさの中に可愛さも演出。

 すらっと長く綺麗な足を活かしたファッションであり、セレブのようなオーラを放っている。

 一瞬で、目を奪われた。


「めっちゃ可愛い……これはずるいよ、リンさん」

「分かるか、つむっち。素材が良すぎて、着せ替えが楽し過ぎたよ」

 二人に見つめられ、珠景(みかげ)は照れくさそうに視線を逸らす。


「うわ、仕草で破壊力を増しやがった。男いなくて良かったねぇ」

「本当ですよ。今から散歩行くのに……変な人に声かけられないかな?」


 同じ女性の(つむぎ)から見ても、羨ましいくらいに綺麗で可愛いのだ。

 リンの言う通り、男性なら簡単に惚れてしまうかもしれない。

 街を歩けば、知らない男性が声をかけてくる可能性だってある。


「あぁ、ナンパって事? そんときは、つむっちが撃退しちゃってよ」

「無理でしょ」

 (つむぎ)は弱々しい右腕をポンと叩いて、非戦闘民族をアピールする。


「ナンパ男はさ、壊れかけの船に詰め込んで嵐の海に送り出すのが一番。これが俗に言う……難破船」 


 リンの声が畳に落ちると、遠くから蝉の鳴き声が聞こえてきた。

 瞬きを二回。(つむぎ)珠景(みかげ)に視線を戻す。


「暑くなる前に行こっ!」

 珠景(みかげ)の手を取り、(つむぎ)はリンの部屋を飛び出した。

 熱を帯びた廊下を踏みつけて、楽しげな足音を響かせる。


「ちょ、つむっち……こら、逃げるなぁ!」

 リンの声に追いかけられながら、二人は玄関へ向かう。

「いってきまーす!」

 お気に入りの靴を履いて、玄関に立つ珠景(みかげ)を見つめた。


 夏空に映える若葉色のワンピース。

 希望に満ちた表情の珠景(みかげ)は、光を揺らす海のように美しい。

 鮮やかな夏の世界に、珠景(みかげ)という名の華を添えよう。


 最後の姫になってから百回目の夏。最高の青春を描くために。

 引き戸を開けると、空を制する入道雲と目が合った。


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