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あの恨みを晴らしにきました  作者: 酔夫人(旧:綴)


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【本編完結】第7話 ワン・モア・チャンス!

「誠くん、いらっしゃい」


 咲羅のお袋さんに抱きしめられる。


「葵さん、次は僕だよ」

「分かっていますよ。はい、貴志さん」


 お袋さんが体を離すと宣言通り次は親父さんに抱きしめられる。離婚した妻の実家でこんな歓迎をうけていいのかと思うが、咲羅が笑っているならいいかとも思う。



「お母さん、お兄ちゃんたちは?」

「咲羅に連絡もらってグループチャットに誠さんがくるって載せたから直ぐ来るわよ」


 本当に直ぐに来た。


 咲羅は四人兄妹の末っ子。由貴が三番目の兄で、残り二人のお兄さんのうち先に来たのは次男の裕貴さん。


「誠、久し振り。俺、結婚したんだよね。嫁さんはいま妊娠中だから今度紹介するわ」

「お久しぶりです。結婚おめでとうございます」


 裕貴さんは「ありがとう」と笑ったあと、お袋さんに向き直り着替えがあるか聞く。お袋さんは由貴の服を借りるように言って、裕貴さんは着替えに……ん? 終わり?


「咲羅、いいのかな?」

「いいんじゃない?」



 着替え終わった裕貴さんにスマホにある奥さんの写真を見せてもらって、そこからスマホのゲームの話になって……そんなことをしていたら長男の智貴さんが帰ってきた。


「何してんの?」

「誠とゲーム、いま友だち登録中。兄さんも友だち登録する?」


「する。誠、久し振り。それレベルは?」

「お久しぶりです。六十五です」


「やり込んでんね」

「頼もしい。兄さん、嫁さんは?」

「夫人会に出てる。誠に会いたいって言っていたから、誠また時間作ってくれな」

 

 頷くと「手を洗って(うがい)してくる」と言って洗面所に……智貴さんもこれで終わり?


「咲羅……」

「いいんだって。こう言うお兄ちゃんたちだって知っているでしょ?」


 はい。



「それじゃあご飯にしましょうね」


 お袋さんの合図で食事が始まると、続々と「久し振り」と言いながら立花一族がどんどん集まってくる。大体が急だから誰かが来られないと言って「また今度」で終わる。


「誠さん、ちゃんと食べてる? 男の子なんだからたくさん食べなさいね」

「野菜も食べないと肌が荒れ……てないわね。誠さん、毎朝スムージーを飲んでるの?」


 飲んでません……テレビだけが唯一の音源だったこれまでの食事とは大違いだ。



「失礼いたします。お坊ちゃまがお目覚めになりました」


 皿がいくらか空いたところでが立花家のお仕着せを着た女性が入ってくる。腕に抱えていた幼児がジタバタ暴れ、彼女は幼児に「分かっております」と言って床に下ろす。


 ヨロヨロしてる。歩き始めたばかりか。誰かの子どもか?


 幼児はヨロヨロとしながら近くにいた咲羅の叔母さんに「ばー」と言って、その隣の従姉に「ばー」と言って、その隣の従妹に「ばー」と言って、お袋さんに「ばー」と言って……。


「全員『ばー』だな」

「二歳児から見れば従姉妹も小母さんだからね」


 その従姉妹たちに冷たく名前を呼ばれた咲羅が首を竦める。


 子どもかあ。


 子どもを抱っこしているお袋さん。隣を見ると咲羅は向かいに座る従妹と子育てについて話しながら笑っている。


 いつか咲羅も子を産むんだなと感じて淋しくなる。


 咲羅を守るためだったと全員が美談にしてくれてはいるが俺が咲羅を守り切れずに離婚したのは事実。


 俺は咲羅の元夫でしかない。


 お暇しよう。この空気に慣れたら寂しくて辛くな……。


「こうして見ると瓜二つね。咲羅に似てると思ったけれど、浅葱ちゃんは誠さんによく似てるわ」


 え?


「……咲羅?」


 その「あ!」という顔に……まさか……。


「ごめん。すっかり馴染んでいたからとっくに言ったつもりでいたわ」


 ええ?


「それって……」

「説明するからちょっと来て。お母さん、浅葱をよろしく」


 咲羅に腕を引っ張られて立ち上がらせながら俺の目は子どもに釘付けだった。咲羅を見た子どものさくらんぼのような唇が動く。


「まー」


 ……へえ……。


「『ばー』じゃないのか」

「うちの家族も大概だけど誠も大概だと思うわ」


 俺を引っ張りながら「そこを気にするのか」と咲羅が笑い、俺をサンルームに押し込んで後ろ手で扉を閉める。


「咲羅、あの子どもは俺の子?」

「そう。名前は浅葱」


 俺と咲羅の……咲羅が産んでくれた俺の子ども。


 浅葱……新選組から? 院長先生が新選組好きで「誠」と名付けられたことを咲羅に話した……いやいや、それは今は関係ない。


「いつ分かったんだ?」

「離婚しようと言われたあと。でも言わなかったのは離婚が理由じゃないの」


 咲羅の瞳が揺れる。それは不安の証。思わず頬に触れてしまい慌てて離す。


「ごめん……」

「ありがとう……大丈夫。妊娠が分かったときお医者さんに子どもは無事に産まれないかもしれないと言われたの。実際に早産で九百グラムの未熟児だった」


 医学的には超低出生体重児、小さ過ぎたということだ。体の器官が未熟なため長く新生児用の集中治療室にいたらしい。


「この先障害を持つ可能性もある。それは私のせい。本当にごめんなさい」


 妊婦に相応しくないサプリメントを飲んだ自分のせい。大事にするべき時期に食事を抜いた自分のせい。


 分からなかったのだから仕方がない。咲羅のせいじゃない。色々言葉が浮かんだけれど、本当にそう思っているけれど、それでは咲羅が救われない気がして咲羅を抱きしめるだけにする。


 声を殺して体を震わせて泣く咲羅を抱きしめる腕に力を込める。


 子ども。


 予想していなかったけれど想像したことがないわけではない。 


 作ろうと思って抱いたことがないだけで、結婚してからは子どもが出来る可能性がある抱き方をしたこともある。そのあとに咲羅に生理がくると残念だと思ったりしていて、子どもはいつかできるんだろうなと漠然と思っていた。


 子どもか。


 子どもが出来たらと想像していたこと現状で違うところはあるけれど、それを言えば俺が咲羅と離婚しているこの状況こそ想像していなかった。


 子どもね。


 あのときこうしていれば。この気持ちはこれからも何度だって湧いてくるだろう。俺も咲羅も。それはどうにかして飲み込むしかない。俺も咲羅も。


 咲羅が産んでくれた俺の子ども。それだけでいい。それ以外は全て、後悔も不安もどうにかしてみせる自信がある。そう思えるのはこの三年間のおかげかもしれない。



「咲羅、もう一回結婚してくれないか?」

「え?」


 驚いた声をあげて腕の中でもぞっと動いた咲羅をぎゅうっと抱きしめる。


「力をつけたら咲羅に会いにきてもう一度結婚を申し込むつもりだったんだ。証拠なら三年前に買った指輪とその明細がある」

「先にお付き合いをして勝算があったら買いなさいよ。断られる可能性のほうが高いのよ、この浮気男」


 それは……あのときの言葉を信じていないと言っているようなもんだ。なにそれ幸せ。


 それに……求婚した俺の腕の中に居続けるってことは了承したって解釈するけどいいよな。なにこれ幸せ。


「断られても諦めないから。お前が好きなこの顔をフルで活用する」

「だから毎朝スムージー?」


 飲んでないから。


「女が夢みるロマンス系主人公から、男が喜ぶハード鬼畜系主人公までシナリオも色々用意してある」

「怖っ!」


 そうだよ。子どもがいれば咲羅は俺からもう離れられなくなると考えたことがあった(ハード鬼畜系)。そうだ、もういるじゃないか。


「だから諦めてもう一度俺のものになって」

「だからって何?」

「俺に縛りつけるものがまだ必要というならいくらでも協力するけれど?」


 それが何か分かるように思わせ振りに咲羅の腰を撫でる。腕の中でジタバタと暴れるけれど逃がさない。咲羅が痛くないぎりぎりの力加減はまだ覚えている。


「ああ、良かった」

「何が?」


「痛いって泣かせないですみそう」

「いや、久しぶりは痛いって聞くよ?」


 ん? それって……。


「全部OKってこと?」


 結婚も、結婚してからの色々も。今度は「できれば」なんて甘いこと言わず作ろうという意志を持って励むけど。咲羅の兄妹に憧れているから子どもは沢山欲しいし。


「……いいよ」

「咲羅……」


「チョロい女だなって自分でも思うけど好きなんだからしょうがないよね。違う人と結婚するのは来世に期待する」


 ……へえ。

ここで一度完結にします。明日もう一話投稿した後は不定期更新します。

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