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あの恨みを晴らしにきました  作者: 酔夫人(旧:綴)


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第4話 桜の下でキミを想う。

 眠る、食べる、仕事する。

 眠る、食べる、仕事する。


 二度と俺を誰にも利用させないと決めて、咲羅と離婚したあとはそれだけを繰り返していた。


 「橘斗真の妻が自殺したらしい」という投稿は信じていなかった。咲羅はそんな女じゃないし、SNS上は嘘ばかりだと身をもって知っている。


 それにもし本当なら咲羅の家族が黙っているはずがない。大丈夫、咲羅はあの家族に囲まれて幸せに暮らしている。

 

 そう信じれるくらい、咲羅の家族は愛に溢れていた。施設で生まれ育った俺にとって咲羅と咲羅の家族だけが俺の家族だったからだ。


 咲羅が入院中に離婚届を出したから、咲羅と家族でなくなったと実感したのは病院に咲羅の容体を尋ねたとき。家族以外に患者のことを教えられないと言われて堪えた。


 せめてと拝み倒すように看護師に頼み込んでなんとか退院日だけ教えてもらった。


 咲羅の入院期間は俺の想像よりかなり長かった。それほどの心労だったのだ。退院する日、俺は咲羅の家族が総出で彼女を迎えにきた姿を遠くから隠れるように見ていた。



 咲羅との離婚で俺は家族を全て失った。


 ――― 顔でも何でも使えるものは何でも使って勝ちなさい。勝てば官軍と言うだろう?


 一人になっても俺が生きていられたのは咲羅の親父さんの言葉があったから。そして「あんた、顔は超好みのイケメンだけど性格は最悪!」と初めて会ったとき咲羅に言われたから。


 この顔を使ってなりふり構わなければ咲羅を取り戻せるかもしれないと思っていた。そのために力をつける。皮肉なことにただ純粋に演技を楽しんでいる頃より、明確に目標ができると仕事も色々舞い込んできた。


 眠る、食べる、仕事する。

 眠る、食べる、仕事する。


 顔は咲羅のお墨付き、それならと世間が望む『橘斗真』を演じ続けた。




「俺は……お前なら死ぬほど俺を殴ると思った」

「お前の顔を殴ったら咲羅に恨まれる。咲羅はお前の顔が一番好きだったから」


 好きだった。過去形、か。



「やっぱりここか」


 車を降りれば咲羅の実家の近くの公園。


「花見といえばやっぱりここだろう」


 そう言って由貴はいつの間に用意したのかビールを二缶取り出して、一つを俺に放り投げる。


「ここに車を置いていくのか?」

「ノンアル。時間潰しだって言っただろう?」


 まだ仕事が残っているのか、ご苦労さん。


 仕事が終わった俺は遠慮なくビールを飲む。どうせあとは眠るだけ。睡眠導入剤代わりに飲む酒と違って味を感じるのは由貴と飲んでいるからだろう。


 この公園に初めて来たのは咲羅と恋人になってからきた初めての春。穴場の絶景スポットだと咲羅は言ったが、確かに人は少なくて穴場なものの居る人はほとんど咲羅のご近所さん。


 「お友だちから咲羅が彼氏といるって聞いてきちゃった」と咲羅のお袋さんがお茶目に笑いながらやってきて、突然の家族紹介で「咲羅さんの彼氏です」と間の抜けた挨拶をした。


 春の桜、夏の睡蓮、秋の紅葉、冬の山茶花。公園は季節で雰囲気を変えた。


 ここを咲羅と仲良く手を繋いで歩いた回数のほうが多いが辛うじて。喧嘩して怒った咲羅に謝るため一人で歩いた回数も多い。


 人生で一番緊張しながらここを歩いたのは大学卒業間近の寒さが緩み始めた冬。咲羅との結婚の許して貰うためだった。


 当時俺と咲羅は同棲していたし、咲羅の家族どころか親戚からも仲良くしてもらっていたから「今更?」と咲羅も咲羅の家族も首を傾げていた。咲羅はともかくご両親もって……。


 けじめだからと何と言うか一人悶々としながら歩いていてら向かいから親父さんがきて、お互いに気付かないままいつの間にか向かい合っていて「お嬢さんと結婚させてください、でいこう」と言った俺の練習に「いいよー、では軽いよねえ」と親父さんが答えて……。


 ―――私とお母さん不在でイベント終了ってどういうこと?


 咲羅には怒られ、なあなあであったが結婚の許可は下りた。



「突然笑い出してどうした?」

「結婚の許可をもらったときのこと思い出した」


「二人のせいでイベントは台なしだって咲羅が半泣きしていたやつか。あいつは計画にうるさいからなあ」



 それなら今回のこれもイベントか。


 咲羅なら、そうだな、イベント名は「幽霊から不幸の手紙」といったところか。


 あの手紙を受け取った者は漏れなく不幸が訪れている。左遷されたり、役を降ろされたり、関わる番組が急遽打ち切りになったり。


 次は誰だと皆がわくわくする。SNS上は推理で大いに盛り上がる。


 イベントは計画的に。

 流石だな。

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