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第1話 幽霊の話を聞きたい?

 これは私の昔の話。


 『橘斗真、熱愛発覚!』ってよくある熱愛報道が私の一生をめちゃくちゃにした話。聞きたい?


 そう、聞きたいの。


 有名人の熱愛報道なんて別に珍しくない。珍しくなさ過ぎて大体は「へえ、あの人が」で終わるの。人の噂も七十五日っていうじゃない、ネット社会のいまは噂の寿命はもっと短いのよ。よほどの大物でなければ熱愛報道なんて直ぐに世間から見向きもされなくなるもの。


 でも私はこの噂を「へえ、あの人が」で終わらせることができなかったの、『橘斗真』は私の夫だったから。



 最初にこれを知ったとき「なにやってんの?」って笑ったわ。ドラマの番宣のためのヤラセだと思った。


 彼は下積み時代が長くて、そのドラマは『橘斗真』の演技を気に入ってくれたという人が持ってきてくれた話だと聞いていたわ。色々義理や柵があったのかしらね、そう思っちゃうほどの駄作だった。


 使い古されたフラグばかりの三流恋愛ドラマはあっという間に視聴率が低迷、主役の『橘斗真』の熱愛報道はドラマを注目させるためのよくあるカンフル剤だったのだと思うわ。


 熱愛報道はムカついたけど……当然ムカついたの決まっているじゃない。それで……熱愛報道はムカついたけど特に何もしなかった。


 何で?


 だって彼が頑張っていたのを知っていたもの。


 合縁奇縁というように何がこの先のチャンスになるか分からないから、『橘斗真』が女性と二人で食事をしている写真や仲良く並んでホテルから出てくる写真が出ても我慢ができた。ムカつきはしたわよ、もちろん。


 『橘斗真』の相手が『春沢杏奈』だったこともあるかな。


 首を傾げないでよ。ああやって騒いでいると気が狂っている女だけれど、当時はドラマのヒロイン像と重なって健気で守ってあげたい系の可愛い女性だったの。本性はああだけどね。


 あ、やっと笑った。


 笑っていてよ、あなたは笑顔のほうが似合うわ。あまり暗い顔をしないで、全部終わって私はスッキリしているんだから。



 それで『春沢杏奈』の話だったよね?


 こう言うと強がっているって哂われそうだけど『春沢杏奈』との浮気は疑ってはいなかった。だって『橘斗真』は誰にでも優しい好青年だけど夫の成田誠はああいうタイプは苦手だもの。


 誠とは私の兄の紹介で知り合って、何で私を紹介したのか兄の正気を疑うくらい誠は女嫌いだった。初めて会ったときなんて「はじめまして」の三十分後に喧嘩が始まって……黒歴史よね。


 そんな人と結婚するんだから人生何があるか分からないわよね。お兄ちゃんたちに結婚するって言ったときには「やっぱりな」って笑われたけれど。


 私は……笑っているうちに熱愛報道は終わるだろうって思ってた。七十五日なんてあっという間だって……私は何も知らなかった。


 『橘斗真』と『春沢杏奈』の熱愛の噂は一ヶ月過ぎても下火にならなくて、雑誌やテレビはとっくに違う人の熱愛報道で盛り上がっているのに、SNS上では話題になり続けた。


 おかしな話よ。『橘斗真』は今は人気俳優だけど当時は知る人ぞ知るってくらい。『春沢杏奈』も演技力はないし可愛いけれど容姿で仕事が沢山くるほどの可愛さでもない。


 特にこれというのがない二人なのにSNS上で盛り上がる理由、それは二人の熱愛が「真実の愛」だっていうのよ。『#真実の愛』で大盛り上がり、熱愛どころか不倫なのによ?


 『橘斗真』は既婚であることを隠していなかった、それも当時の人気が知る人ぞ知るの理由。


 どう考えても不倫で、有名人の不倫は全方位から叩くのが日本の文化。それなのに「真実の愛」と持て囃されたのは『橘斗真の妻』がとんでもない悪女だったからなの。世間が不倫を許しちゃうくらい、それどころか不倫を応援しちゃうくらいの悪女……ってすごくない?


 私のこと?


 違うわよ、『橘斗真の妻』。


 SNS上は『#真実の愛』と『#橘斗真の妻』がシーソーゲーム状態。『橘斗真の妻』が悪女になればなるほど『真実の愛』は盛り上がり、『真実の愛』が持て囃されればされるほど『橘斗真の妻』は貶められる。


 『橘斗真の妻』は理想的な、とても分かりやすい悪女になった。


 例えば、「暴行されたと橘斗真を脅して結婚した」とか。『橘斗真』を犬の様に侍らせていた『橘斗真の妻』を見た(・・)って誰かが呟くと凄く盛り上がるの。


 散財が趣味の浪費家というのもあったわ。高級ブランドの袋をいくつもぶら下げて散財している『橘斗真の妻』を見た(・・)って誰かが呟くと凄く盛り上がるの。


 『橘斗真の妻』がクラブに出没しては毎回違う男をお持ち帰りしていくのを見た(・・)、『橘斗真の妻』には愛人が三人いるのを知っている(・・・・・)


 誰も「見た」や「知っている」を確認しないまま『橘斗真の妻』は作られていった。


 この頃はまだ笑えていたかな。

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