幽霊はいるのか
幽霊を見たことはない。
一度も、ない。
けれども、ゾッとする体験は何度かしたことがある。
と言っても大した話ではないのだが。
最初の鳥肌体験は、友人と北海道を訪れた時のことだった。
その日の宿は小綺麗なペンションで、建物もまだ新しく、とても居心地が良かった。
到着した日は何事もなく過ごしたのだが、翌朝目を覚ますと、友人の様子がどうもおかしい。
どうしたのかと尋ねると、ためらいがちに口を開いた。
「夜中に幽霊を見た」と言うのである。
我々はツインの部屋に宿泊しており、二つのベッドの間には小さな棚と電気スタンドが置かれていた。
その狭いスペースに女の人が立っていて、眠っている私をじっと見つめていたのだという。
「怖っ」と思ったが、実際に目撃してしまった友人はもっと怖かったようで、早くチェックアウトしようと急かされた。
次に泊まった宿は、いかにも幽霊が出そうな古めかしい建物だったけれど、そこでは何も見なかったと言われたので、私は胸を撫で下ろした。
二つ目の恐怖体験は、介護施設に入居していた祖父のところへ行った時のことである。
「足が寒いから厚手の靴下を履かせてくれ」
というので、私は祖父を椅子に座らせ、室内の入り口に背を向けて屈み込んだ。
その時、祖父が声を上げた。
「こんにちは」
誰か来たのかと思って振り向いたが、誰もいない。
きっと通り過ぎちゃったんだな、と思いながら体を戻し、靴下を履かせていたら、再び祖父が声を発した。
「さっきからそこで、何してるんですか?」
私は恐る恐る振り向いたが、やはり誰もいない。
「……おじいちゃん、冗談やめてよ。誰もいないじゃん」
「いるじゃないか」
「いないよ」
「いる。さっきからずっと入口のところに立って、こっちを見てる」
そう言って、祖父はうっすらと笑った。
私をからかっていたのか、祖父の見た幻覚だったのか、はたまた本当に幽霊がいたのかは、いまだに謎のままである。