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グランピング

 真冬にグランピングをした。


 グランピングはキャンプ道具や食材があらかじめ用意されているので、アウトドア初心者でも気軽にキャンプ気分を味わえる。


 同行者は、運転手と姫と私の三人。

「何もこんな寒い時期に行かなくても」と思ったけれど、姫の強い要望を受け、私と運転手は半強制的に参加させられた。



 当日は、朝八時にレンタカーで出発。

 二時間半で到着するはずの場所に、三時間経過しても到着しない。


 運転手いわく

「ナビが悪い」

 とのことだったので、車を停めてナビの設定を確認する。


「……高速を使わない設定になってるよ」

 と指摘したら、運転手は

「ナビに騙された」

 と憤慨していた。


 道中、車酔いした姫が車内で吐きまくる。


 吐きまくるくせに

「のどが渇いた」

「お腹が空いた」

 と駄々をこねるので、用意しておいたパンとジュースを手渡す。


 その十分後に、姫は再び吐いた。


 また腹が減ったと騒ぐので

「食べても吐くよ! 着くまで我慢しな!」

 と説得する。


 現地に近付くにつれて雨が降り出し、到着した頃には土砂降りになっていた。



 キャンプではなくグランピングにしたので、宿泊については問題なかった。


 ドーム型テントを模した宿泊棟は冷暖房完備で、室内は快適である。

 ただし、トイレとシャワールームは管理事務所のある棟にしかなかったから、降りしきる雨の中、トイレへ行くたびに傘をさして移動しなくてはならなかった。


 食事も、隣接する屋根付きの炊事場で自炊だ。

 食材は手配してあったので、夕食の時間に炊事場へ届けてもらい、バーベキュー開始である。


 そこへ、一匹の猫が顔を出した。

 真っ白でふわふわの長毛に包まれた愛らしい猫は、一瞬で私達の心を鷲掴みにした。


 しかし、白猫が炊事場へ入り込み、テーブルの上にのって食材を掠め取ろうとした途端、我々は態度を豹変させた。


 先ほどまで

「可愛い〜」

 などと言って写真や動画を撮っていた姫は

「コラーっ」

 と拳を振り上げ、運転手が怖い顔で白猫を追い立てる。


 食材を狙って周囲をうろつく白猫を警戒しながら、食材を焼き始める。


 骨付きチキンや分厚い豚肉、牛ステーキ肉に貝付きのホタテ。

 アルミホイルに包まれたポテトやスキレットに入ったキノコのアヒージョなんかを、どんどん火にかける。


 私が焼き、運転手が切り分け、姫が食べる。

 この流れ作業の合間に、私と運転手も料理をつまむ。


 途中で姫が

「私も焼きたい!」

 と言い出したが、「熱い」とか「ヤケドした」とかうるさそうなので、デザートのプチロールケーキを与えて誤魔化す。


 食事が終わる頃には、雨も止んでいた。


 私と運転手で洗い物をしていると、テーブルを拭き終えた姫が「私もやる」と言い出す。

「水が冷たい」とか「服が濡れた」とかうるさそうなので、洗った皿を拭いてもらうことにした。


「高い金払って、自分で料理や洗い物をするのがグランピングなんだね」


 運転手がポツリと呟き、私は無言で頷いた。


 雨は上がったが、夜空は雲に覆われていて、星など一つも見えない。

 敷地内で行われる予定だったキャンプファイヤーも、今夜は中止だ。

 交代でシャワー室を使い、私達は早々と眠りについた。



 翌朝、目覚めると姫の寝具の上を黒い大きな虫が這い回っていた。

 姫を起こすと大騒ぎになるので、トイレから戻ってきた運転手と共に、虫除けスプレーを噴射しながら撃退する。


 無事に虫をやっつけた後、姫を起こして朝食のサンドイッチを頬張り、近くの水族館へ立ち寄ってから帰路についた。


 帰りの車の中で、姫が

「楽しかったね! 今度は夏にキャンプしよう!」

 と言い出したので、次回は絶対に断ろうと思っている。

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