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海老

 海老は私にとって豊かさの象徴だ。


 初めて一人暮らしをした時、部屋の中には電化製品が何もなかった。

 というか家具すらなくて、あるのは布団とわずかな食器や調理道具、それから衣類とタオルの入った引き出しケースのみ。

 おかげで引越しは楽だった。


 米は炊けないと困るから炊飯器だけは後から購入した。

 食材はその日に食べる分だけ買って、すぐに使い切る。冷蔵庫が無いから保存できないのだ。もちろん電子レンジも無い。

 引き出しケースは、テーブル代わりにもなるので便利だった。

 洗濯はコインランドリーを利用。


 食費は最小限に抑えるよう心がけた。

 毎日のように、安い鶏のひき肉とピーマンを買って炒めものにしていた。


 私は海老が好物で、たまには食べたいと思っていたのだが、手に取って値段を見ると1パック398円だった。

 鶏のひき肉は、少量の1パックが88円。

 私は悩んだ末に海老のパックを元の場所に戻し「いつか必ず、お腹いっぱい海老が食べられる生活をしよう」と心に決めた。



 あれから時は流れて、今は海老を2パックまとめ買い出来るようになったし、その日に使いきれなかった分は冷蔵庫で保存出来るようになった。電子レンジもあるから、冷凍食品だって温め放題だ。


 食い意地が張っていたおかげで、なんとか人並みの生活が出来るようになった。

 海老、さまさまである。


 特別苦労したわけではないけれど、海老が買えなかった日々には二度と戻りたくない。

 でも、あの日々を過ごしたからこそ乗り越えられたことも、沢山あるんだろうなと思う。


 今でもしょっちゅう困難にぶつかるし、「こんなのやってられるか!」と言いたくなるようなこともよくある。

 そんな時は、スーパーの鮮魚コーナーに行って海老を買う。

 そうすると、大抵のことには立ち向かっていける。





 暗闇の中にいると、身動きが取れないものだと思う。

 この先に光があるよ、と言われても信じられないだろうし、そこまで辿り着くことはおろか、立ち上がることすらままならない時だってある。


 そういう状態の人を見かけると、私は自分の無力さを痛感する。

 自分には何もできないと知っているから。

 何もすべきではないとも思っているから。


 ただ「私にとっての海老みたいなものが、その人にも見つかりますように」と、心の中で願うしかないのだ。

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