表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/36

お話作り

 近所に住む親戚の子供は、お話作りが好きだ。

 まだ小学生になったばかりだが、言葉もよく知っている。


 うちに来ると、彼女は決まって

「お話作りをしようよ」

 と誘ってくる。


 我々のお話作りは、交互に話を繋げて物語を作り上げていくスタイルだ。

 先日は、こんな感じで彼女の方からお話作りがスタートした。


「『ある日、森の中で女の子が大きな宝箱を見つけました』はい、続けて!」


「それだけ? もうちょっと話を膨らませてからバトンタッチしてよ」


「いいの!」


「はいはい、それじゃ続けるね。『女の子は宝箱を開けましたが、中身は空っぽ。奥を覗き込むと、誰かに背中を押されて宝箱の中へ落ちてしまいました。パタン。ガチャガチャ。大変です。外から鍵をかけられて閉じ込められてしまったのです』はい、続きをどうぞ」


「えーっと……『女の子はビックリしましたが、魔法を使えたので大丈夫。すぐに外に出られました』はい、次!」


「え? すぐに出ちゃったの? それじゃあ女の子を閉じ込めた意味がないじゃん。閉じ込められたままどこかに運ばれちゃうとか、宝箱の中が他の世界に繋がっているとか、他にもいろいろ広げ方はあると思うんだけど」


「いいの! 閉じ込められちゃうなんて、女の子がかわいそうでしょ! 閉じ込める話にする方がおかしいよ! せっかく宝箱が出てくるんだから、宝物を見つける話にしてよ!」


「宝物? 宝物ねぇ……。あっ、思いついた。『女の子は宝箱の外に出てから考えました。誰が、どうして私を閉じ込めたのかしら? すると妖精が出てきて言いました。“あなたは森のヌシの宝物。さあ、宝箱に入って下さい。私達が森のヌシのところまで、あなたを運んであげますから” それを聞いた女の子は、目を丸くしました。なんということでしょう。この大きな宝箱は、女の子を入れるために用意されたものだったのです』これでどうだ!」


「……つまんない」


「え?」


「宝箱には、ドレスとかリボンとかお化粧セットが入っていて、女の子はお姫様になるっていう話にしたかったのに」


「そうなんだ……。じゃあ、森のヌシの正体が実はカッコイイ王子様で、ドレスやリボンをプレゼントしてもらうっていう展開にすれば?」


「嫌だ。王子様とかいらない。ドレス着て、クマやウサギやリスと一緒にごちそうを食べたい」


「あのさ、いつも思うんだけど……二人で話を作るよりも、一人で物語を作った方が楽しいんじゃない?」


「いいの! 早く宝箱からドレスを出してよ!」


 こんな感じで、毎回ダメ出しをされる。

 お互いに全然楽しくないと思うのだが、彼女は何故か毎回「お話作りをしよう」と持ちかけてくるのだ。

 そして、私も何故か毎回その誘いに応じてしまう。


 彼女と作るお話は、最終的にはいつも動物達とごちそうを作って食べるという結末になる。


「何だこれ」と思いつつも、満ち足りた表情でお話作りを終える彼女を見ていると、最初からこの子が喜ぶ展開にしてあげれば良かったかな、と反省することもある。


 けれども、ついつい違う方向へと話を進めたくなってしまい、結局ダメ出しをくらうことになるのだ。


 彼女と私の感性は、大いに異なっている。

 それゆえに、分かり合えないことも多い。

 にもかかわらず、私達は会うたびに二人で物語を紡ぐ。

 気の合わない相手と、意見をすり合わせながら、共にエンディングを目指すのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ