イーハトーヴ
青空文庫で、宮沢賢治の『どんぐりと山猫』という話を久しぶりに読み返した。
表現の一つ一つが、水面に反射する太陽の光みたいにキラキラしている。
奇妙でユーモラスなキャラクター達が織りなす物語は、一度読んだら忘れられない。
続けて『雨ニモマケズ』を読む。
「小学生の頃に学校で暗唱させられたなぁ」と懐かしい気持ちになる。
そして最後の方まで目を通した時、子供の頃とは違う感想を抱いた。
『ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ』
昔この部分を読んだ時は「褒められる人になった方が良いのに」と感じていたが、今では「褒められもせず、苦にもされず、というのも気楽で良いかもしれないな」と思っている。
役には立たないけれど、邪魔にもならない存在。
お互いにそう思えるような相手と過ごす時間は、なかなか居心地が良さそうだ。
さらに他の作品も読み進める。
青空文庫は昔の作品を無料で読むことが出来るから、とてもありがたい。
宮沢賢治の作品に登場する人間や擬人化された動植物達は、みんな個性的だ。どこか風変わりでありながら、妙なリアリティーがあって親しみがわく。
いろいろ読んでいるうちに『注文の多い料理店』の広告文というものを見つけた。
生前に出版された作品集についての広告文を、宮沢賢治本人が書いていたようだ。
その中に『イーハトヴ』という言葉について説明されている箇所があった。
かなり省略して引用すると『イーハトヴは一つの地名』であり『ドリームランドとしての日本岩手県である』ということらしい。
元の文章はもっと長くて、詳細な説明が記されている。
『注文の多い料理店』の序文というものも、青空文庫で読める。
『わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます』
という文から始まり、この後にも印象的な美しい文章が続く。
今までに読んだ宮沢賢治の作品の中で、この序文が一番好きかもしれない。
ありもしないはずの出来事が、とても鮮やかに、まるで本当のことのように描き出されている、宮沢賢治にしか創り出せない唯一無二の世界。
この人の本がどうして生前に売れなかったのか、私は不思議でたまらない。




