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二話 突然の辞職

「アラン・フューリー王宮騎士西区副団長。そなたには転職を命じる!」

「――は?」


 俺は耳を疑った。

 この俺が、騎士団を辞める? 一体どうしてだ? 何があったんだ!?

 騎士団との訓練を終えた俺、アラン・フューリーは急遽王からの呼び出しを受け玉座の間に馳せ参じていた。

 そこで我が主君、ガルシア・ウル・オストリアからの言葉に唖然としていた。


「……今なんとおっしゃいましたか?」

「聞こえなかったのか? ならばもう一度言おう。お主には騎士団を辞めてもらう」

「なぜですか! 理由をお聞かせください!」


 俺は思わず声を荒げてしまう。

 俺は騎士としての勤めをしっかりと果たしてきたつもりだ。それがなぜ急に転職をしなくてはならないのだ?

 しかもこんなにも唐突に……。納得のいかない俺に対して、オストリア王は表情一つ変えることなく淡々と言葉を紡ぐ。


「これは命令じゃ。理由は言う必要はない」

「そんな……納得いきません!」

「お主の忠義には大変感謝しているアランよ。しかし、これはすでに決まったことなのだ。どうか受け入れてくれ」

「ッ……!」


 そう言われてしまえばもう何も言い返すことができない。国王陛下の命令は絶対であり、例え相手が誰であろうとも従うほかないからだ。


「……承知いたしました」

「うむ、良い返事だ。では、ブラム公爵よ。例の書類を」

「はっ!」


 王の横に控えているブラム公爵が一枚の紙を取り出しこちらに差し出してくる。

 それを受け取った俺は、そこに記載されていた内容を見て困惑の表情を浮かべた。


 ”アラン・フューリー殿。貴殿を王宮騎士団の任を解き、【クエスト代行サービス社】への勤務を命ずる"

「――クエスト代行サービス社?」


 なんだそれは? 聞いたことがないぞ? それに騎士団を退団しなくてはいけなくなるほどの仕事とはいったいどんな仕事だというんだ。

 ……というよりそもそも、その会社が存在することすら知らなかったのだが。


「王都の東地区にある小さな会社です。あなたにはこれからそこで働いてもらうことになります」

「東地区にある……小さな会社……?」


 ブラム公爵の言葉に俺はますます混乱する。

 王宮騎士団を辞してまで、こんなよくわからない会社に転職させる理由とは?

 ……全く理解ができない。


「詳しい話は現地に訪れた際に聞くがよい。さあ、話は以上じゃ。下がってよいぞ」

「……失礼します……」


 釈然としない気持ちのまま玉座の間を後にした俺は、そのまま騎士団の寮へと戻りベッドの上に寝転がった。


「……まさか、騎士団をクビになるとはな……。は……ははは……」


 自分の口から乾いた笑いが漏れ出す。

 まさかこれほどまでにあっさりと解雇されるなんて思ってもいなかった。正直言ってかなりショックが大きい。


「……クエスト代行サービス社……一体何なんだ、チクショウ」


 天井を見つめながら思案するも、答えなど出るはずもなくただ時間だけが過ぎていく。

 そしてしばらくすると次第に眠気が襲ってきたため、俺は素直に目を閉じたのだった。



 * * *



 翌日。俺は共に切磋琢磨した仲間たちに別れを告げたあと、重い足取りで指定された場所へと向かった。

 王都の東地区と言えばあまり治安が良いとは言えない地域だ。俺はそこにある【クエスト代行サービス社】と書かれた看板の前で立ち止まった。

 少し古びた木造建築の小さな建物のようだが、なんだか異様に胡散臭い雰囲気を醸し出していた。


「ここか……。ここで何をしろっていうんだ?」


 立ち止まっていても仕方ないので、さっそく入口の扉に手をかけ中に入る。

 中に入ると受付カウンターのようなものがあり、そこには誰も居なかった。

 どうやら今は無人らしい。


「すみませーん! 誰かいますかー!」


 俺の呼び声に反応したのかカウンターの奥の扉から物音が聞こえると、そこから一人の美しい女性が姿を現した。


「やぁ、ごめんごめん。今受付の子が買い出しに行っててさ。待たせてしまってごめんね」


 そう言いながら彼女は申し訳なさそうな表情をしながらケラケラと笑って答えた。

 俺は彼女のその容姿に一瞬で目を奪われた。

 透き通るような白い肌に、美しく整った顔立ち。腰ほどまである艶やかな銀色の髪は、リボンで纏められポニーテールで整えられている。

 瞳の色は綺麗な蒼色をしており、白いコートと青色のスカートで彩られた姿にどこか神秘的な印象を受ける女性であった。

 年齢は二十歳くらいだろうか。見た目はかなり若く見える。


「えっと……君はどちら様かな? 依頼に来たっていう感じじゃあなさそうだけど」


 彼女が首を傾げながら問いかけてくる。いけない。つい見惚れてしまっていた。


「あぁ、すまない。俺はアラン・フューリー。オストリア王の命により、今日からここで働くように言われたんだが」

「ああ~なるほどねぇ。君がアラン君か。ガルシア様から話は聞いてるよ。私はノア・ハウストゥルム。この会社の社長さ」


 よろしくと彼女は笑顔で握手を求めてきた。俺もその握手に答える。


「立ち話もなんだし、奥で話そうか。さぁ、入って入って」

「あ、ああ……」


 彼女についていく形で扉の奥に入り応接室のような場所に案内された。

 ふと応接室に置かれたソファーに目線を向けると、そこにはまだ十代前半と思われる黒いフードを被った少女が気持ちよさそうに寝ていた。


「あれ? あの子は……?」

「ん? この子のことかい? 君と同じここの社員の一人さ。まぁ、あとで紹介するよ」

「あぁ……わかった」


 彼女の言葉を聞き、改めて室内を見渡す。

 部屋の隅には本棚が置かれており、中には様々な本が並べられている。

 反対側の壁際には執務机が設置されており、その上に置かれているのは書類の山だ。


「とりあえずそこに座ってくれるかい。お茶でも用意するよ」

「ありがとうございます」


 促されるまま俺は少女が寝ているソファーの向かい側にある椅子へと腰掛ける。

 それから程なくして、先程の女性がティーカップを二つ持って戻ってきた。


「はい、おまたせ。熱いうちに飲んでくれ」

「いただきます……」


 紅茶を一口飲むと、爽やかな香りと程よい甘さが口に広がりとても美味しかった。


「おいしい……」

「はは、それはよかった。私のお気に入りの紅茶なんだ。気に入ってくれてうれしいよ」


 彼女はそう言うともう一つの椅子に腰かけ、自分のティーカップを手に取って優雅に紅茶を飲む。

 そんな彼女の様子を眺めながら、俺はずっと気になっていたことを質問することにした。


「ところで、ここは一体なんなんだ?」

「ん? 看板を見なかったのかい? ここはクエスト代行サービス社さ」

「それは見たが……具体的にどんなことをする会社なのか教えてくれないか」

「うーん……そうだなぁ。簡単に言うなら困っている人の依頼を受けて代わりに解決してあげるところさ」

「……それって冒険者ギルドの仕事じゃないのか?」


 俺が疑問符を浮かべると、彼女は微笑みを浮かべたまま説明を始めた。


「確かに仕事内容だけを聞いたらそうなっちゃうかもね。でも、私たちが請け負う仕事はただの依頼じゃない。ギルドが匙を投げだすほどの高難易度な依頼や王族や貴族からの()()の依頼など、冒険者ギルドでは対処できないような依頼を請け負っているのさ」

「……つまり、裏稼業みたいなものか」

「まあ、平たく言えばそういうことだね。私たちはその依頼を完璧に遂行することで報酬を得ている。それがクエスト代行サービス社というわけだよ」


 そこまで説明すると、彼女は再び紅茶を口に含む。

 なるほど、彼女の言っていることは理解できた。要するに、この会社は表向きには言えない仕事をしているということだろう。


「それで、どうして俺がここで働くように指示されたんだ?」

「あぁ、それは私がガルシア様にお願いしたのさ。"剣術に優れた人材を一人派遣してくれ"ってさ」

「なッ! ――じゃあ、あなたが俺を騎士団から追い出した張本人か! 一体どういう理由があってそんなことをした!」


 怒りに任せて思わず立ち上がってしまった。だが、彼女は意に介していない様子でそのまま話を続ける。


「さっきも説明したけど、私たちに依頼をしてくる人たちの大抵がこの国の重鎮たちさ。そんな彼らから依頼される内容は高難易度なものばかり。つまり、それなりの実力がなければ依頼を達成できない」

「………」

「で、今我が社には私を含め三名の社員がいるのだが……。はっきり言って人手不足でね。そこでガルシア様に戦力になりそうな人材の手配をお願いしたら快く君を派遣してくれたよ。ははは!」


 そう言いながら笑い声をあげる彼女を見て少し冷静になることができた。


「……つまり、俺はあなたの都合で国から売られたということか」

「君には申し訳ないとは思ってるよ。でも、私たちの仕事を完遂するためには君のような優秀な人材が必要不可欠だ。まぁ、新しい人生を始めたと思って頑張ってほしい。期待してるよ、アラン君」


 彼女は俺のことを真っ直ぐに見つめてくる。彼女の蒼い瞳からは強い信念のような意思を感じた。

 ――ここはもう腹を括るしかないようだ。


「わかったよ……ここまで来た以上、やるしかないみたいだ。俺もあなたの役に立ってみせるよ」

「ありがとう。これからよろしく頼むよアラン・フューリー君。私たち、クエスト代行サービス社は君を歓迎するよ」

「あぁ、よろしく頼む」


 彼女と向き合った俺は、再び彼女と握手を交わす。

 こうして俺は【クエスト代行サービス社】の一員となった。

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