表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
林檎ステーション  作者: 校庭PEN銀
4/7

「瀬をはやみ」と責任

「えーっと、瀬をはやみだ、ほら瀬をはやみ」

「え?瀬をはやみ、ですか? 」

「ほら、あの『瀬をはやみ 滝川われて 龍田川 紅葉の錦 神のまにまに』だったかな。この先も会えるよ、みたいな和歌。知っているでしょう? 」

すると彼女はふふふと笑ってこう答えた。

「あら、『瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ』ではなくて? 」

「あれ、そうだっけ? 」

私も笑ってしまう。気付けば二人で大笑いしていた。

「あと純兵さん、これ恋人に送る和歌ですよ」

なんとまあ大恥をかいてしまった。私は大変な間違いを犯してしまっていたようだ。しかし、幸か不幸か彼女は笑ってくれた。いやはや、間違いなく幸である。

「すみません、知らなかった」

「いや、許しません」

もう彼女の涙はとっくに止まっていた。

「責任を取ってもらいます」

「え? 」

彼女はそれっきり、また無言になってしまった。彼女の顔を一瞬見る。目を逸らされた。私は気まずさから空を見上げる。真っ赤な空にはシギが浮かんでいた。彼らは彼女と共に日本へと帰っていくのだ。莫斯科には、きっと来ない。見向きもしない。一心不乱に日本へと競争するのだ。彼らには、海も山も国境でさえも関係ない。私は羨望の眼差しを送る。が、彼らは素知らぬ顔で飛んでいった。

「手紙を書いて、送ってください。一ヶ月ごとに、送ってください」

彼女は言った。今度は少し大きい声で。私が目線を戻すと、彼女の目線と衝突した。その目には星が住んでいた。そのことに気付いた私は一瞬たじろいだ。

「分かりました。必ず送ります。土産も、送ります」

「待ってるわ、日本で」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ