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ボッチ高校生のおれがJSと仲良くなったワケ

作者: ウィロ

 自分の部屋の中で女の子と二人きり。

 この状況だけ聞けば大多数の人がその相手は彼女であると考えるだろう。

 でも、その相手がJS(女子小学生)だったら?

 好意的に見ればお兄さん的存在だと思う人もいるかもしれないが、悪く見れば誘拐犯だと間違われかねない状況だ。

 いや、もちろん誘拐などしたわけでもなく、彼女は自分の意思でこの部屋へと来ているわけだが。

 それでも、高校でさえボッチの地位を確立してしまっているおれが、こんな風に自分の部屋で誰かと遊ぶというだけで違和感があるのに、その相手が年の離れたJSともなるとありえないとしか言いようがない。

 まあ、こうなったことには当然理由(ワケ)があるのだが……。

 きっかけは昨日のことだった。



 おれはその日もいたって平凡な高校生活を送っていた。

 いや、平凡ではないかもしれない。平凡なのは学業の成績くらいで、運動は全くできず、何より高校二年生の五月という時期において友人が()()だからである。

 え?友人ゼロはさすがにそれは言い過ぎだろって?

 そんなことはない。

 だって今日一日、学校で一言たりとも発していないんだもの。……だもの。

 普通は休み時間の間にバカ話をしたり、そうでなくとも挨拶をしたりくらいはするよなぁ。

 あぁ、もちろん、いじめられていて無視されているとかではない。自然に、喋る機会がないのだ。

 とはいっても、いつもこうというわけではない。ペアワークやグループワークでは少ないながらも会話らしきものはするし、用件があれば普通に話してくれるので避けられているというわけでもない。だからこそ、余計に孤独感が増すのだが。


 もちろん、おれ自身にも原因がある。というか、おれ自身にしかないのかもしれないが。

 休み時間はそんな孤独心を紛らわすために、寝たふりや自習をすることが多いし、イベントごとには積極的に参加する意思を見せない。挙句の果てには面倒だからとクラスのグループラインに入ることすら拒否してしまったからな。

 言うまでもなく部活にも入っていないおれは放課後、見事一日の学校生活の中で一言も話さないという謎の偉業を成し遂げて、早くも帰宅中というわけだ。


 いい加減、おれのボッチぶりは諦めるしかないのかもしれないなどと考えつつ、自分の家にたどり着く。


「ただいまー」


 久しぶりに声を出したななんて考えていると、珍しく返事が返ってきた。


「おかえりお兄ちゃん、待ってたよ!」

「ええっ!?お前が、おれを、待ってた?」


 返事を返してくれたのは一番下の妹の真奈美だった。

 対して、おれは久しぶりに会話をしたこともあってか、なぜか片言になっていた。


「そうだよ、珍しいこともあるもんだよね~。だから早く来て」

「お、おう」


 そんな感じで言われるがままに真奈美の後をついていく。

 この様子だけで分かった人もいるかもしれないが、おれは学校だけじゃなく、家庭内ヒエラルキーにおいても最下位に位置している。

 長男なのにな、おれ……。


 ともかく、真奈美に連れられた場所に行くと、知らない女の子が座っていた。


「お兄ちゃん連れてきたよ」

「……そう」


 真奈美の友達なのだろうか。

 その子は観察するようにおれのことを見てくる。

 何というか、活発な真奈美とは正反対な性格っぽいなという印象は受けた。


「あ、初めまして、兄の壮真です」

「……はじめまして」

「……」

「……」


 あれ?会話が続かないぞ?

 そもそもおれ、何で呼ばれたんだ?


 おれは助けを求めるように真奈美の方を向くと、真奈美は家の遊び道具が入っている箱の中から何かを取り出していた。


「真奈美、何を出そうとしてるんだ?」

「あった、これだよ」


 そう言って真奈美が取り出したものは将棋盤だった。

 え、将棋するの?


「お兄ちゃん、これで美羽と勝負してよ」

「わたし、将棋、強い。真奈美じゃ勝負にならない」


 うおっ!

 びっくりしたー。

 この子、付いてきてたのか。

 急に背後から声が聞こえて驚いたぜ。


「美羽だってお兄ちゃん相手じゃ勝負にならないでしょ」


 真奈美がそう言うと、美羽ちゃんはもう一度こちらを観察するように見てからこう言った。


「この人には……勝てる」


 あれれ?おれのどこを見てそう判断したのかな?

 心なしか馬鹿にされた気がするんだけど。


「侮るなかれ、お兄ちゃんは()()()()は強いのだ」


 うん、真奈美もフォローしてるようで、逆にけなしてるよね。

 まあ、自分でも強そうに見えないのは納得するけど。

 それに、実際のところそんな強いわけでもない。道場に通っていたとかでもないし、大会で優勝したこともない。独学で、何となくネット将棋なんかで長く続けているだけ。

 それでも、JSに負けるほどではないとは思うけど。


「というわけで、一回やってみてよ」

「まあ、暇だし良いけど」


 そんな感じで美羽ちゃん(小学五年生)と対局することになった。

 不思議だね!


 駒を初期配置に並べながら、先ほど浮かんだ疑問を口にする。


「なあ、何でそもそも将棋することになったんだ?」

「うん?それはお兄ちゃんに美羽を倒してほしいからだよ」


 おれの疑問に真奈美がそう答える。


「そうじゃなくて、何で将棋しようなんてことになったんだ?お前、そんな将棋好きだっけ?」


 ルールや駒の動かし方くらいは理解していたはずだが、そんなに好きという感じでもなかったはず。


「ああ、それはね、私がゲーム部に入ったからだよ」

「ゲーム部?」

「そう。何かよくわからないけど木曜日の六限目に部活もどきみたいなものをやる時間があってね、私はゲーム部に入ることにして、そこで将棋することになったの」

「へー、バスケ部じゃなくて?」

「バスケはいつもやってるからいい!」

「あ、そう」


 駒を並べ終わったところで先手を譲って対局開始!

 美羽ちゃんは迷いなく飛車先の歩を突き、おれは角道を開ける手を指して対抗する。


「それで、そのゲーム部で美羽ちゃんと将棋してお前が負けて、おれにリベンジしてもらおうとしたわけだ」

「簡単に言うとそういうこと。そもそもゲーム部の女子の中で将棋のルール知ってるの私と美羽だったけどね」

「ああ、そうなの?まあ女子がやっているイメージはあんまりないよなあ」


 パチッ、パチッ


 そんな風にしゃべりながらもお互いハイペースで指し進めていく。

 だが、徐々に美羽ちゃんの指すペースが遅くなってきた。


「で、どうなの?今どっちが勝ってる?」

「うーん、まだ互角ってところじゃないか?」


 とは言うものの、実はもうかなりの確率で勝てるだろうなということは分かっていた。

 美羽ちゃんが採ってきた戦法は棒銀。

 それに対しておれが採った戦法は四間飛車。

 将棋に少し詳しい者なら分かると思うが、この戦法だとよほどのことがない限り、美羽ちゃんが攻めておれが守る形になる。

 だが、美羽ちゃんの銀は上手く敵陣に侵入できておらず、しかもおれは美濃囲いを完成させてしまっている。まだ駒がぶつかっていないので形勢は互角であるだろうが、穴熊を目指す形にもなってないので、見た目以上におれが有利な展開になっていた。


 その後、美羽ちゃんは無理攻めを開始し、それをおれが無難に受けきり、特に逆転もなくあっさりと勝負はついた。


「はい、これで詰みだね」

「……」


 そう声を掛けたが返事がない。

 もう少し手加減するべきだっただろうか。

 まあ手加減して勝てるほど、おれは強くないのだが。


 真奈美は途中からおれが無言で指し始めた時点で飽きてしまったのか、もうここにはいなかった。

 なので、どうしていいか分からず無言の間が続いていると美羽ちゃんの方が先に話し始めた。


「これ、どうやったら崩せた?」


 美羽ちゃんは一部分だけ駒を動かして序盤の状況を作り出した。


「え?あ、ああ。銀だけじゃこの陣形は崩せないよ。ここの桂馬を使うか角を引いて攻撃参加させるとか何かもう一つか二つ工夫がないと崩せないと思うよ?」


 まさか感想戦をすることになるとは思わず、しどろもどろになりながらそう答えた。


「ふーん、そーまならどうしてた?」


 呼び捨て……まあいいけど。


「おれなら四間飛車相手には右四間飛車で迎え撃つか穴熊組んで持久戦……かな?」

「穴熊は……知ってる。でも組み方が分からない」

「ああ、それはね――」


 軽く最速で穴熊を組む指し方と注意点だけ話すと、今度はこんなことを言ってきた。


「じゃあもう一回、やる」

「えっ、もう一回やるの?」

「当然……勝つまで、やる」


 まじかよ。

 内心、そう思っていたがどうせ暇なので仕方なく付き合ってあげることにした。


 そして始まった第二局。

 穴熊を組もうとする美羽ちゃんに対し、おれは穴熊完成前に潰せるゴキゲン中飛車(ゴキ中)を使って完勝した。

 大人げない?おれには関係ないね。勝負に情けは不要なのだよ。

 などとも考えていたが。さすがにやり過ぎたかもとちょっと申し訳ない気分になっていると、今度は詰んだと理解した瞬間、美羽ちゃんは「今回はどうすれば良かった?」などとすぐに感想戦を始めた。

 そしてそれが終わるや否や、第三局が始まった。


 局面は中盤に入ろうかといったところで真奈美が声を掛けてきた。


「お兄ちゃん、いつまでやってるの。そろそろ美羽が帰らなきゃいけない時間だと思うんだけど」

「え?あ、本当だ」


 時計を見るとすでに六時を回っていた。

 小学生はもう自分の家に帰る時間だろう。いつの間にか熱中し過ぎていたようだ。

 っていうかそれを妹に指摘されるってどうなんだ……もうちょっとしっかりしろよ、おれ。


「あー、美羽ちゃん、もう帰らなきゃいけない時間っぽいよ?」

「ダメ、まだ途中」

「う~ん、でもなあ……」


 将棋は終わる時間が読みにくいゲームだと思う。

 特に今回みたいに持ち時間を設定せずにやる時は。

 局面もまだまだ終わりそうにないので、何とか説得する方法はないかと悩んでいると、真奈美がもう我慢できないと言った感じで一つの提案を口にした。


「あ~もう、じゃあその盤面を写真に撮って明日また続きやればいいじゃん!」


 えぇ、それだとまた美羽ちゃんがまた家に来ることにならない?

 面倒くさくない?それに、美羽ちゃんも他の友達と遊んだりするんじゃないの?などと考えたが。


「分かった。明日、また来る」


 そう言ってさっさと帰る準備を始めてしまった。


「美羽ちゃん、またね~」

「また」


 そんな感じであっさりと別れた。

 これが昨日の出来事。

 そして、今日。

 美羽ちゃんは待ちはからっていたかのようにおれが高校から帰った時には既に家にいた。

 真奈美はおれが帰ってきた瞬間、もう用済みとばかりにどこかへ行ってしまった。


 そして冒頭に戻るといったところだ。

 長々と回想をしていたが、要するに将棋をするために二人きりになった、ということだ。

 そういうわけで今日も将棋をしていたのだが、やがて美羽ちゃんが帰る時間になってしまう。今日はちゃんと時間も気にしてたからね!

 ちなみに今日も全勝。

 一度くらい勝たせてあげても良かったかもなあなんて考えつつ、玄関まで送って別れようとすると帰り際にこんなことを言われた。


「来週、また来るから」


 えっ、また来るの!?



 そんな感じで平日はほぼ毎日美羽ちゃんと部屋で将棋を指すという日々が続いた。

 それだけやっていれば、美羽ちゃんの棋力も嫌でも上がっていたのだが、それでもおれに勝つことはなかった。

 なぜなら生まれて初めて現実リアルで競い合う相手ができたため、テンションが上がってしまい、おれはこれまで以上に将棋について勉強するようになったからである。

 それに、美羽ちゃんだけに勝つことを考えてしまっていたため、やたらと奇襲戦法ばかり使うようになってしまい、それで美羽ちゃんが真っ当に強くなるというのを遅らせてしまったのも原因だと思う。



 そんな生活が一カ月、二カ月と続いたころ。

 ついにその日がやって来た。


「王手」

「……負けました」


 美羽ちゃんと初めて将棋を指してから二カ月と少し。

 初めておれが負けた瞬間だった。


「おお~、やったじゃん美羽」


 その日はたまたま真奈美も家にいたので、友人の勝利を素直に祝福していた。

 まあ、そろそろ負けるだろうなという予感はあった。

 もうとっくに奇襲のネタも無くなっていたし、おれにとってはテスト明けというブランクもあった。

 それでもおれが勝てていたのは、美羽ちゃんが最近、勝利目前になるとありえないようなミスをしてくれていたからだった。

 まだまだ実力的にはおれの方が上だろうが、一番得意の四間飛車を指したときに負けたのだから言い訳の余地もない。


「まさか本当に勝つまでやるとは思わなかったよ」


 思えば長いこと続いたもんだ。

 でも、そっか。

 美羽ちゃんと対局するのはこれが最後になるのか。

 そのことに少し寂しさを感じていると真奈美がこんなことを言い出した。


「私も。勝つにしてもお兄ちゃんが手加減してだと最初は思ってた。でもね、お兄ちゃん、美羽ってあれからゲーム部で男子に勝負吹っ掛けたり、図書館で将棋の本探して借りてたりしてたのを見てたからね、いつかは本気で勝つと思ってたよ」

「へ~、そうだったのか」


 何か、それは、嬉しいな。

 おれなんかにそこまで勝ちたいと思ってもらえるなんて、ちょっと変な気分だ。


「ま、美羽ちゃんに会うのも今日が最後になったってわけだ。今まで楽しかったよ」

「っ――」

「ちょっとお兄ちゃん、それはないんじゃないの」


 おれがなぜかさっきから無言の美羽ちゃんに向かってそう言うと、真奈美が割って入って来た。

 おれ、そんなおかしなことを言っただろうか。


「何が?美羽ちゃんはおれに勝つまでやるって言って、今日勝ったんだからもうこれでお別れってことだろ?友達でもないのに用もないのに会うってことも――」

「お兄ちゃんと美羽はもう友達でしょ!?」

「えっ……」


 おれと美羽ちゃんが友達?

 いやいや、それはないだろ。男子高校生と女子小学生だぞ?それに、やったことと言えば一緒に将棋をしたことということだけ。そんなんで友達といえるわけな――


「大体、ほとんど毎日一緒に遊んでおいて友達じゃないはおかしいでしょ。美羽もそう思うよね?」

「……たしかにそーまは普通は友達にはやらないような手を使ってくるし、感想戦でも地味に情報操作してくるし、小学生相手でも一切手加減してこないし、相手を思いやる気持ちも少ないし、友達少ないだろうなとは思う」


 うっ……痛いところを突いてくる。

 っていうか感想戦の時、次の対局に都合がいいように話してたのばれてたのか……。


「でも、友達だとは思ってるよ。また一緒に遊びたいとも、思ってる」

「美羽ちゃん……」


 そうなのか?

 おれと美羽ちゃんが友達ってことでいいのか?

 おれが勝手に『友達』のハードルを上げ過ぎていただけなのか?


「ほら、美羽もそう言ってるんだし、お兄ちゃんと美羽は友達なんだよ」

「そうなるのか……」


 何だか信じられない気分だ。


「だから二人っきりで遊びに行っても全く問題なし!もうすぐ夏休みだし二人でプールにでも行ってきなよ。将棋ばっかじゃつまんないでしょ」

「真奈美……ってお前、絶対変なこと考えてるだろ!おれはロリコンじゃないからな!」

「私、そんなこと何も言ってないけど?」

「そーま、ロリコンって何?」


 そんな感じで騒ぎ合って。

 初めて美羽ちゃんと仲良くなっていたという実感がわいた。

 もし、美羽ちゃん(JS)と仲良くなった理由ワケがあるとするならば。

 それは、間違いなく真奈美と将棋のおかげなのだろうけど。

 今度は自分の力でもっと仲良くなりたいなあ、なんて。

 柄にもなくそんなことを考えるのだった。


読んでいただきありがとうございます。

この作品を読んで少しでも将棋に興味を持ってくれる人が増えたらなあと思います。

……無理か。そんなに将棋の内容入れてませんもんね。

しょうがない部分もあると思いますけどね。作者自身、将棋○ォーズ3級とそこまで強くないので突っ込んだ内容をあまり書けないというか。将棋歴もまだ1年半ぐらいですしね。

ちなみに設定としては壮真は2級→1級、美羽ちゃんは6級→4級くらいのイメージで書いてます。

矛盾点などがあれば感想欄などで教えてください。

もちろん、別のことでも何でも感想があれば大歓迎で嬉しいです!

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