世界が終わる日、名前も知らない少女とキスをした
なんでもない、日常だった。
昨日までなんでもない日常が続いて、今日もなんでもない日常が昇って、明日もなんでもない日常が訪れるはずだった。
そんな、誰に保証されていたでもない日常は、なんの脈絡もなく陥落するものだったらしい。
「――なので、明日は遅刻しないように。では今日は……なんだ?」
突如として鳴り響いた、けたたましく不快なアラートが、帰りのホームルームを遮った。
よく耳を澄ませば、何やら呻き声のようなものが聞こえる。
別に、心霊現象ってわけじゃない。
例えるならそう、町内放送だ。
町のあちこちに反響する声は、安物のマイクも相まって聞き取れたものではない。
それと同じ現象が起きているといえば、わかりやすいだろうか。
唯一違う点といえば、いつもの町内放送にこんな不安を掻き立てる不協和音はないということか。
「……ちょっと待ってろ。確認してくる」
そう言って教室を出る先生の背中を見届けると、教室の空気が一気に緩くなる。
隣の席と顔を見合わせ、笑みを交換する者。
「なんだよ、空襲でも来たってか?」と冗談を言う者。
ここぞとばかりにスマホをいじり始める者――。
「――うおっ!? なんだ!?」
と、今なお鳴り続けているアラートとは比べ物にならない騒音が、教室中を包んだ。
出処は――クラス38人分のスマホのスピーカーから。
耳を劈く騒音が重なり合って、鼓膜を揺すぶる轟音となる。
「――うるせぇ、うるせぇうるせぇ! なんなんだよこれ!」
こうなれば、否が応でもスマホに注目せざるを得ない。
38人分の視線は、ひとりも残すことなく小さな画面に落とすハメになる。
教室というのは異質な空間で、誰がどう見ても異常事態と察することが出来るはずの状況であっても、事の重大さを指し示す者はいなかった。
――スマホに映し出された、たった一文を読むまでは。
「直径200kmの隕石が、地球に接近、中――」
「……え?」
「いやいやいや――そんなこと、ありえないっ、しょ……?」
スマホのアラートも鳴り止み始め、次に訪れるのは奇妙な沈黙だ。
誰もが目を見開き、誰かの救いの言葉を待っている。
ドッキリでした、とか。
誤報でした、とか。
サプライズのための演出でした、とか――。
「ちょ、ちょっと……」
誰に話しかけるでもなく、ひとりの女子がポツリと声を漏らした。
「――そ、空が」
「――――」
上擦った声が耳に届いた順に、窓の外を見やる。
恐る恐る、冷や汗を垂らしながら。
窓の外を、見やる。
世界を焦がす深紅の夕焼けが、すぐそこまで迫っていた。
――世界の終わりは、すぐそこまできていた。
「――う、わぁぁああ!」
「なんだよあれ! なんなんだよ!」
「そ、そんな急に隕石が降ってくることなんてありえないだろ!?」
教室を瞬く間に支配したのは、阿鼻叫喚という言葉が相応しい喚声。
あまりに非現実的なスマホの通知が嘘か実か――ともかく、己の目に映るものを信じるほかなかった。
世界は、終わるらしい。
そんな空想的で超越的な事実は、やがてじわじわと蝕む恐怖となって精神を汚染する。
「――おかあさん!」
「ちょ、どこ行くんだよ!」
「どこって、帰るのよ! 私はここで死ぬなんて嫌よ!」
いてもたってもいられなくなった人たちは、誰かのこんな金切り声を合図に教室を飛び出していった。
「そんなの誰だってそうだろ! でも先生が帰ってくるまで……」
「先生!? そんなのどうでもいいわよ! それにどうせもう戻ってこないわ! こんな大パニックになってるのに、誰も様子を見にこないのよ!?」
「――でも」
「いやでも、たしかにそうだろ……」
「言われてみれば……」
「お、俺も帰るぞ!」
「わっ、私もっ!」
そうして、クラス替えからの半年間で育んだ結束ごと、クラスは散り散りになった。
人と人との繋がりなんて所詮はこんなものだ。
いざという時に役に立つのは、どうしたって自分だけなのだから。
■
皆が思い思いの場所で最後の放課後を過ごしている。
恋人と抱き合う者もいれば、家族と寄り添う者もいるだろう。
家に帰る者もいれば、思い出の場所に足を運んでいる者もいるかもしれない。
ただ、あれだけ騒がしかった教室は、一転して深い静寂に包まれていた。
「――薄情なもんだよな。学校大好きです、みたいな面してさ。最期の場所に選ぶ奴はだーれもいない」
「――――」
結局、学校なんてのは青春の舞台装置でしかないのだ。
リアルが充実していれば充実しているほど、学校なんかに囚われる必要なんてありはしない。
むしろ、こんな場所に縛られている僕の方が非リアの象徴みたいなもんなのだろう。
「まぁ、僕だって学校を選んだわけじゃないんだよ。ただ、行く場所もないしさ」
「――――」
「なんか喋ったらどう?」
最後までこの教室に残ったのは、僕のほかにもう一人いた。
クラスメイトの女子で、名前すら知らない子だ。
ただ、親近感の湧く目をしていたから、印象には残っている。
「……あなた、そんなにお喋りだとは思わなかった」
「そう? ま、そうだよね。話す友達もいないから」
「その割には、話したこともない女子に気軽に声をかけるのね」
「別にコミュ障ってわけじゃないからね」
陰キャ。クラスのはみ出し者。ぼっち。根暗。
僕を形容する言葉なんて幾らでもあるが、その全てがネガティブな意味を孕んだものであろう。
とはいえ、別にクラスの連中にどう思われていようが知ったことではない。
不快にも思わないし、寂しくもない。
だからって、それを望んでいるわけでもない。
「君はさ、僕と同じタイプ?」
「……どうかしら。たぶん、違うと思う」
「そっか」
自分が変わり者であることは理解している。
だけど、このクラスで僕と同じ人種がいるとするなら、この子だろうとは思っていたのだが。
「……少なくとも私、人に嫌われるのは怖いもの」
「それじゃまるで、僕が人に嫌われるのも厭わない自己中みたいじゃないか」
「違うの?」
「……いや、どうかな。たぶん、違うと思う」
「そう」
なんてことはない。
僕は、居場所をずっと探しているだけだ。
本当なら、他の皆と同じように友達を作って、好きな人が出来て、ささやかな青春を味わってみたい。
たったそれだけで、たったそれだけが出来ない社会不適合者だ。
当然、進んで人に嫌われたいとは思わない。
だけどまぁ、確かに半ば諦めている部分もある。
僕は、『人と同じ』が出来ない。
『人と同じ』ように、円滑な人間関係を構築することも出来ない。
「……空、赤いね」
「そうね」
「本当に世界は終わるのかな?」
「……わからないけど、終わって欲しいとは思う」
「ふぅん」
死にたいと思ったことはない。
死ぬ勇気がないとか、痛いのが嫌だとか、そんな理由付け以前に、死ぬ理由がないからだ。
これからの人生を考えるとハードモードだろうなとは思っていたが、死ぬ理由にまでは届かない。
ただただ惰性で生きてきた。
これからも惰性で生きていくんだと思ってた。
生きたいと思ったことも、ない。
「ねぇ」
「なに?」
「君は、死にたいの?」
「死にたいわよ。切実に」
「そっか」
ならばやはり、この子は僕とは違う。
やっと同類を見つけたと思ったけど、思い違いだったようだ。
死を切に願うほどの巨大な想いなど、僕は持ち合わせたことがない。
「ねぇ」
「なに?」
「あなたは、死にたくないの?」
「死んでもいいとは思ってるけどね」
「そう」
死にたい理由がないと同時に、生きたい理由もない。
むしろ、巻き込まれるように死ねるなら本望とすら思う。
自分で何かを決めることが、何よりも苦痛で困難なのだから。
「私たち、やっぱり似た者同士かもね」
「どうしてそう思ったの?」
「お先真っ暗」
「そんなの、今となっては全人類がそうでしょ」
「それもそうね」
僕は世界レベルの怠惰なのか、類稀なる優柔不断なのか。
ともあれ、このまま生きていても碌なことにならないのだけは確かだ。
強制的な幕引きは、まさに望んでいたと言ってもいい。
この子にとっては、どうなのだろうか。
強く死にたいと思っていたこの子は、どんな気持ちで世界の終わりを迎えるのだろうか。
自分の手で終わらせられずに悔しい――なんて、思ったりするのだろうか。
やっぱり、理解のできない感情だ。
そもそも、死にたいと思ってるならスパッと死んだ方が自分の心にとってエコロジーなのだ。
すぐに実行に移すほどの勇気と胆力がないなら、余計なことすら考えず――僕のように受け身でいた方が、よっぽど楽なはずなのに。
少しだけ、この子の心が知りたくなった。
「君はさ、なんで死にたいの?」
「そんなのあなたに関係な……まぁいいわ。いじめられてたのよ。それが最初」
「最初? 今は?」
「一回死にたいって思ったらね、その願望は死ぬまで心に巣食うのよ」
「そんなもんなの?」
「そんなもんなの」
やっぱり、理解のできない感情だ。
最初の一回が訪れることなんて、死ぬまでなさそうに思う。
ただ――そんな僕は、恵まれているのかもしれない。
本気で死にたいと思ってる人にとっては、僕は非常に腹立たしい存在であるのかもしれない。
本気で悩むこともなく、生への執着もない。
そんな中途半端で生温いふざけた人間こそが、僕だ。
ま、関係ないけどね。どうせ皆今日死ぬんだし。
「君の目は、絶望してる目?」
「……全てを諦めてる目、かしら」
「へぇ、じゃあ僕と同じだ」
「それはそう、かもね」
それを最後に、しばらく会話が途切れる。
元々、辛うじて会話の形を成していただけの問答だし、無言に戻るのは自然な話だ。
ふたりでひたすらに、灼熱の空を見上げる。
世界はいつ終わるのだろう。
今日か明日か。1年後か、1時間後か――。
なんにせよ後は待っているだけで、全てを終わらせる赤い空が落ちてくるのだ。
まるで漫画みたいな展開に、正直なところ少しだけ心が揺さぶられている。
僕が格好だけの感傷に浸っていると、やがて名前も知らない少女が心地よい沈黙を切り裂いた。
「……私ね。本当は生きたかったの。生きたくて生きたくて、足掻いて、転んで、立ち上がって、また転んで――折れたのよ。心が、ポッキリと」
「なに? ポエム?」
「そんなところかしらね。で、その後はお察しよ。一度折れた心は立ち直ってくれないのね……」
「まぁ、一度折れた枝がくっつくこともないからね」
「あなたもポエマーじゃない」
「バレた?」
沈黙と会話が交互に織り成す空間は、存外居心地のいいものだった。
もし僕に気心知れた友達がいたら――あるいは、甘酸っぱい青春の一幕があったとしたら、こんな感じだったのだろうか。
ちょっとばかし物騒で、後暗い密談ではあるが。
それでも、放課後の教室で女子と二人きり気の済むまで話し込むというのは、僕にとっては知らない世界である。
「君も人のこと言えないくらい、イメージと違ってお喋りなんだね」
「私のこと知ってたの?」
「そりゃ、同じクラスだし、目に入ることくらいあるでしょ。名前は知らないけど」
「そう。私もあなたの名前は知らないわ。ただ……」
「見かけたことはあった?」
「そりゃ、同じクラスだもの。それに、下手したら私より病んでるように見えたわよ」
病んでるか、病んでないか、で言われれば病んでいないと思う。
僕にはこの子のようにいじめられたこともないし、家庭環境が劣悪だったわけでもない。
ただ、ほんの少し生きづらさを感じているだけの人間だ。
これを病んでいると表現したら、世の中は病人だらけになるだろう。
「……空がさっきより近いわね」
「言われてみれば、そうだね。どうやらもう長く待ってはくれなそうだ」
「ドラマみたいな言い回しにハマったの?」
「そんなわけでもないんだけどね」
さっきのポエミーな言い回しを引きずっていることを指摘され、羞恥心が刺激される。
そして、少女が見上げる空を、僕も見上げた。
よく見れば気付くが、この焼けるように赤い空は、厳密に言えば空ではない。
文字通り、真っ赤に焼けている巨大隕石なのだ。
気付けば教室は蒸し風呂のように焦がされ、汗がダラダラと零れている。
衝突する前に熱中症でくたばってしまうのではないかと心配になるほどの高温が、隕石によってもたらされた。
我慢ならなくなった少女は、教室中の窓とドアを閉め、エアコンのスイッチを入れた。
「もうすぐ死ぬのにエアコンって」
「もうすぐ死ぬからよ。私、汗べっとりで死ぬのは嫌だもの」
「この上なく贅沢に死に方を選んでるね」
時計を見ると、時刻は19時を回っていた。
かれこれ3時間ほど、放課後の教室でこうしていたことになる。
そして、明らかに3時間前より空は明るかった。
もうこの世界に、夜は来ない。
「あーあ。昨日が最後の晩餐だって分かってたらもっといいもの食べたのになぁ」
「変な未練ね。この期に及んで食べ物のことを考えるなんて、よっぽど食べることが好きなのか、他に考えることがないほど空っぽなのか……」
「後者に決まってるじゃん。君もそうでしょ?」
「悲しいけど、その通りね。まぁ私も昨日は目玉焼きしか……あ。はい、最後の晩餐」
少女はおもむろにポケットをまさぐり、二粒ばっかしの飴玉を取り出した。
片方はぶどう味で、もう片方はりんご味。
なんの面白みもなく、特別感も何もない。だけど、僕らにとっては理想と呼べる最後の晩餐だ。
りんご味を受け取り、口に放り込む。
「甘酸っぱいね。本当はこんなのを求めてたのかな?」
「今さらよ、そんなの。私だって青春に興味がないわけじゃないわ。何の変哲もない、平凡なヤツをね」
「僕ら、もうちょっと早く話せてたら青春できたかな」
「はみ出し者同士、気は合ったかも知れないわね。でもこんなことにでもならなかったら、話すこともなかったわ」
「お互い心の壁が厚いからなぁ」
そしてまた沈黙のターンが訪れる。
たまに飴玉と歯がぶつかる音が聞こえるだけの、静かな空間。
エアコンも効き始めてきて、実に快適といえる。
時折挟まれる会話がいいアクセントとなって、最高の最期を演出してくれるに違いない。
しかし、お互いの心の内に隠し持った感情というのは、この場で曝け出すことはないだろう。
そして、この場で曝け出さないということは、墓場まで持っていくことを意味する。
なんとなくそれが、寂しく思えた。
なにか声をかけたいと、そう思った。
「……青春、始めるにはまだ遅くないんじゃない?」
「……なにそれ、あなたとキスでもしろって言うの?」
「嫌?」
「嫌っていうか――ん、いいわ。こっち来て」
言われるがまま、窓際で空を見上げる少女の隣に立つ。
少女は真っ直ぐ僕の方を向いて、少しだけ顔を赤らめて言った。
「――言っておくけど、私初めてだから」
「だろうと思った。ちなみに僕もだよ」
「お見通しよ――ん」
少女は目を瞑りながら、15cmの身長差を埋めようと必死につま先立ちをした。
直立してる僕にはすんでのところで届かないようで、気を利かせた僕はちょびっとだけ腰をかがめる。
ガチン、という音が鳴った。
「っ――ちょっと、急に屈まないでよ!」
「ごめん、なにぶん慣れてないもんで」
「……いいわ、椅子に座って」
言われるがまま、誰の席かも分からない椅子に座ると、僕は少女を見上げる形になる。
こうまじまじと見つめると、儚げな夜の瞳に吸い込まれそうになる。なんとまぁ、美しい瞳だ。
もう訪れることのない夜は、ここにあった。
「……ねぇ。目を閉じてよ」
「おっと失礼」
ゆっくりと目を閉じると、静寂の中にうるさく脈打つ鼓動の音が気になりはじめる。
この主張は僕のものか、はたまた少女のものなのか、それすらもわからないほど混じり合っていく。
やがて、溶けるほど熱い温もりを感じると同時に、ついにふたりの境界線はなくなった。
唇に触れる確かな柔らかさが、現実と空想すらもごちゃ混ぜにしていく。
ただ唇を合わせるだけのキスは、初めての渇望の味がした。
恋焦がれ、求め合う男女の形を、初めて理解した。
愛し合う真似事は『普通』から外れた僕らには刺激的すぎたけど、どちらからとも離れようとはしなかった。
「――――」
そんな僕らの口づけは、ふたりの間を伝う一筋の熱により終わりを告げることとなる。
「――泣いてるの?」
「――――」
「……もしかして、後悔した? これまでを振り返って、嫌になったとか?」
「――違うわ」
吸い込まれるような深い夜と同じ色の瞳から流れるのは、間違いなく涙の雫だ。
涙の理由なんてものは可能性を考えればいくらでも出てくるものだが、ことこの場においては、身を切るような苦しみからくるものに他ならないはずだった。
だけど、少女の口から紡がれたのは、そんな生易しい理由ではなかった。
「――生きたく、なったのよ」
「――――」
それは、想定していたどの理由よりも残酷なものだった。
僕は少女のことをよく知らない。だけど、どす黒い悲しみを背負い、人生に絶望し、死にたいと切に願うようになった少女が、僅かな温もりを知って生きたいと思えるようになった――ということくらいは、わかる。
そして、もう叶わぬ望みだということも。
その蜘蛛の糸のような希望を垂らし、すぐに摘んだのが、僕だということも。
「――はぁ。私って案外、単純な乙女だったのかもね」
「……もう一緒に生きていくことは出来ないけど、一緒に死ぬことはできるよ」
「あら、ちょっとキスしたくらいで彼氏気取り?」
「うんにゃ、罪滅ぼし」
茶化すような少女の言葉を、真面目な言葉で上塗りする。
その雰囲気を感じ取ったのか、ニヤけていた少女も儚げな表情に戻り、呟く。
気付けば空は、だいぶ低いところまで来ていた。
「私、あなたのこと結構好きよ」
「え? ちょっとキスしたくらいで?」
「言ったでしょ。私、案外単純だったみたいなのよ」
「――――」
「さっき生きたいって言ったの、ナシ。死にたい――ええ、死にたいわ。あなたと一緒に、死んであげる」
性格も、素性も、過去も、名前すら知らない。
いや、必要ない。
ただ最期の最期に、ここまでそれなりに頑張って生きた意味を見出すための出逢いが、ここにあるだけ。
それだけで、何者でもない僕らは救われたのだ。
「ねぇ、キスをしましょう」
「うん、キスをしよう」
ファーストキスの繰り返しだけではない。
もっと熱いキスが、ふたりを溶かしていく。飴玉の味が、交互に変わっていく。
永遠にも思える時間を共有し、ひとつになっていく。
ただの男と女になった僕らは、人生で一番生きていた。
劣等感も、敗北感も、しがらみも、やるせなさも、全て関係のない場所。
この教室は、僕にとって死ぬ理由になり得る。
なにも決断しなかった僕は、初めて心の奥から叫んだ。
「――このまま、死んでしまいたい」