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弓張り月




(寝ているし)


 良夜だったので、屋根に上って、一献だけ飲みながら月見でもしようかと、ぼんやりと思いながら、一階に降りてみれば、食卓に突っ伏している浅葱の姿が目に入った。


 幾度も幾度も見てきた光景だ。

 その度に別段何もしなかった。

 起きろ、とか、風邪ひくぞ、とか、声をかけることも。

 そっと毛布なりマントなりを身体にかけることも。

 何も。


(結界縄を持って行っても、できたぞ、置いといてくれで会話終了だしな)


 干渉せず生活保障有のほぼほぼ自由気儘な日常。

 心地いいはずだろう。


 なのに、どうして。

 こちらから一歩を踏み出した。


 どうして、

 盗人たちが結界縄で護られていない薬草に触れることを厭うのだ。


(そもそもこいつが結界縄で護ってないのがいけない)


 理由など訊いたことなんぞないが。

 きっと大層な理由があるのだろうが。


(あんなに口元を綻ばせる薬草を危険に晒す必要がどこにあるんだ)


 あ、何だろう。

 むかついてきた。


(よし)


 軽く殴ろう。

 決断した史月がそろりそりろと浅葱に近寄り、天井へと上げた手を広げて、のろのろと下ろして、叩こうとして、浅葱の髪に触れた。

 その瞬間、史月は思わず口を大きく開いた。

 元気な色とは裏腹に、どうせ枯れ葉のようにカサカサしているのだろうと予想していた髪が。

 もっふもふしていたのだ。


(もふもふ)


 いけないものを触ったかのように、勢いよく浅葱の髪から手と言わず、身体も遠ざけた史月は、そろりそろりと階段を上り、ベランダに出て、梯子を上り、屋根の上で膝を抱えて、月をぼーっと眺めた。


 弓張り月だった。











(2021.10.8)



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