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なわ




 数日後のことだった。

 霧夜きりやの家への入出許可がない史月しづきが足を踏み入れた今回の件について。

 『終夜よもすがら』の使者として正式に黛青たいせいから浅葱あさぎに言い渡された処分は、なし。

 史月に対しても、『払暁ふっぎょう』から処分が下されることはないとのこと。


「『霧夜がやたら俺にここに残れと言う。何度言われようと振り払って出て行こうと思っていたが。まあ、様子がおかしいのは、いつものことだが………俺もやはり、霧夜に甘いんだろうか?』そう言ったじゃないか?」


 霧夜の家にて。

 霧夜と共に今回の件に関して黛青の処分なしとの言葉を聞いた浅葱は、じゃあまた来ると言っては霧夜に背を向けた。霧夜はにじり寄っては浅葱の腰を掴み歩みを止めようとしたが、浅葱は構わず霧夜を引きずったまま歩き続けた。


「やはり薬草を知る為にはここにだけ留まっていては駄目だと思い直したので、ここを出て行く。また来るから安心しろ」

「そんなに俺より史月と一緒に居たいのか?」

「史月と霧夜。どちらと共に一緒に居たいのかと問われれば、霧夜だ。じゃあ」

「嬉しい。じゃねえわ。情緒不安定な師匠を置いて行くのか?」

「置いて行く。だが、前よりはこまめに帰ってくる。薬草について色々と問題が起こっているからな。霧夜が必要だ」


 目を見開いた霧夜はついで、目を細めてのち、浅葱の腰から手を離しては胡坐を掻いて、立ち止まった浅葱の背中を見上げた。

 まだまだ小さいと思っていた背中は、やはり小さいままだったが、やけに煌めいて見えた。


「………俺が必要だって。目と目を合わせてきちんと聞きたかった」

「………薬草以外の手土産も持って来る」

「おう。しょうがねえから今回は快く見送ってやる。次は全力で引き止めるからな」

「ああ」


 浅葱は霧夜に背を向けたまま、家を出て行ったのであった。











雪白ゆきしろ。浅葱の薬草を全部枯れさせたのは、やり過ぎじゃないですか?」


 忍灯にんとうは偶然出会った雪白を呼び止めてはそう言った。

 雪白は片眉毛を跳ね上がらせたのち、枯れさせてはいないと胸を張って言った。


「この地を穢す者の薬草だからな。枯れさせてもよかったのだが、本部にまでは生かしたまま運ばなければならない。ゆえに、俺は枯れさせてはいない」

「そう、なんですか。そう。雪白は嘘はつきませんもんね」

「ああ」

「だったら、どうして。水美みずみの話では、あんたから受け取った瓢箪の蓋を開けて、元の位置に戻った薬草たちを見たら、もう枯れていたと言っていましたよ」

「軟弱な薬草たちだ。育てている者が軟弱だから、俺の瓢箪に閉じ込めたぐらいで枯れ果てるのだ」

「浅葱の悪口はゆるしませんよ」

「まったく」


 雪白は鼻息を荒くさせながら、言葉を放った。


「貴様も水美もあの男の毒牙にかかってしまうとは。情けないぞ。貴様ら。あの男はこの地を、この空を、この水を穢す大悪党人になりうる人間なんだぞ!そんなやつを庇うとは!?」

「雪白がどうして浅葱を目の敵にするかはよくわかっていますが。俺っちは浅葱がこの地を穢す人間になるとは思いません。いいえ。なりません」

「ふん。今に目を覚まさせてやる。貴様も。そして、水美もな」


 雪白は忍灯の天突てんとつを中指で軽く押してのち、力強く背を向けて歩き出したのであった。


「水美。怒り心頭でしたよ」


 忍灯は雪白の背中に声を大きくして告げると、ひらり、雪白は歩みながら一度だけ手を振ったのであった。











 師匠ししょうの家にて。


「お世話になりました」

「ああ。またいつでも遊びにおいで。一人でもいいし。浅葱と一緒でもいいからね」

「はい。ありがとうございます」


 史月は師匠にお辞儀をした。

 師匠は史月の隣に立つ浅葱へと顔を向けた。


「いつでも帰っておいで」

「ああ。師匠も霧夜のところに行ってやってくれ」

「結構な頻度で行ってやってるんだけどねえ。まったく。しょうがないねえ」

「じゃあな」

「二人が来るのを首を長くして待ってるよ。ながあくして、な」


 満面の笑みを浮かべる師匠に手を振ったのち、浅葱は家を出ると、史月も師匠にもう一度お辞儀をして、家を後にしたのであった。


「じゃあ。帰るか」


 先に外に出ていた都雅とが季梨きりに浅葱が言うと、都雅は満面の笑みを浮かべながら俺の飯が目当てかと言った。


「ああ。師匠と同じ。おまえの作る飯は俺の帰り飯だからな」

「しょうがないなあ。おまえの胃を掴んじまった責任は取ってやるよ」

「おう」

「都雅ちゃんと浅葱ちゃんは本当に仲良しだねえ」

「ああ」


 肩を組み合って歩き出す都雅と浅葱の背を、季梨と共に見ていた史月は小走りで駆け寄ると浅葱の手を握った。やるねえと口笛を吹いた季梨もまた駆け走ると都雅の手を握った。


「四人並んで仲良しこよしだな」

「あ~あ。僕も浅葱ちゃんの家に住もうっかなあ」

「止めてくれ。僕と浅葱君だけで住むんだ」

「いや。別に構わない。結界師の二人が居たら、もっと多く薬草を知ることができる」

「ははっ。すっかり、結界を受け入れたな。浅葱」

「すべての薬草に結界をかけてもらう気は毛頭ないが。そうだな………あ。俺は別行動を取る。おまえたち、先に帰っていてくれ。薬草を買いに行ってくる」


 浅葱がそう言うや、都雅は肩に回した手を解き、史月は手を握っていた手を解き、駆け出した浅葱を見送った。


「いいの?史月ちゃん。一緒に行けばいいんじゃないの?」

「いや。今日は、見送る」

「じゃあ、三人で帰るか。買い物に付き合ってもらうぞ。多分。水美と、忍灯も居るだろうからな。材料をたくさん買うぞ」

「はいはい。お供しますよ。都雅ちゃん」

「浅葱君が今日帰ってくるかどうかはわからないけど」


 すでに違う道へと向かった浅葱の小さくなっていく背中を見つめたのち、都雅と季梨と共に家路を辿ったのであった。


「僕も少しは手伝うよ。都雅君」











(2024.10.21)




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