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しっちゃかめっちゃか




「やっぱり、僕が霧夜きりやさんのところに行ってしまったから、『終夜よもすがら』から処分が下されてしまったのかい?もしそうなら、僕が『終夜』の長に直談判しに行くよ。僕だけが悪いんだ。浅葱あさぎ君は何も悪くない」


 史月しづきはペンを動かしていた手を止めて、紙から正面に座る浅葱へと視線を移し、真正面から浅葱を見つめた。


「いや。『終夜』からは何も処分は下されていない。今のところはな。だが恐らく、百年か、二百年は、霧夜のところに留まるよう処分が下されると思う。おまえは悪くない。おまえはただ俺に会いに来たんだろ。霧夜に用はなかったんだろ」

「霧夜さんには。いや。どうかは、わからない。君に会いに行ったのかと僕も思っていたけど」


 悠揚な浅葱の言葉を受けたのち、不意に言葉を途切れさせた史月は、少しだけ間を置いて、言葉を紡いだ。


都雅とが君から君の師匠が居ると聞いて、僕は会いたいと思ったのかもしれない。魔草の所為で師匠ししょうさんのところに飛翔したように。君にも誰にも聞いたことがない師匠さんの元へも僕は会いに行ったんだ。うん。多分、僕はもう一人の君の師匠である霧夜さんに会いたいと思ってたんだ。だから、君にも会いに行ったし、霧夜さんにも会いに行った。だから僕に責任はある。処罰の対象だ。処罰が霧夜さんの家の滞留なら、僕が受ける」

「おまえが罪を感じる必要はないんだ」

「いいや。僕に罪はある。浅葱君にはない」

「………おまえを霧夜の家に引き寄せてしまった俺の罪は消えない。おまえが何をしようともだ。そして、おまえが罪をあると認めたところで、『終夜』から処罰は下されない。『終夜』と協定関係にある『払暁』からは。もしかしたら何らかの処罰が下されるかもしれないが。俺が何とか取り消すように『終夜』に頼んでみるから、多分。何もないと思う」

「だから、僕が悪いと『終夜』の長に直談判しに行くよ。君は悪くない僕が悪いって」

「堂々巡りになる。もうこの話は終いだ。紙に書く作業を続けてくれ」

「浅葱君」

「悪かった。俺が変なことを言った。続けてくれ」

「いいや。必要だと思ったから、その可能性があると思ったから、僕に尋ねたんだろう?話そう。ちゃんと」

「………」

「僕は一生会えなくなるのは嫌だ。百年も嫌だ。二百年も嫌だ。だけど、待っていてくれと浅葱君が言うなら、僕は待っている。浅葱君の家で待っている。罪が逃れられないというなら、長い間、離れ離れにならなければいけないなら、それは受け入れるけど。それが原因で別れを切り出されることは嫌だ」

「………そうか。わかった。俺は、すでに供給過多で、万が一、おまえと一生会えないとしても、今までおまえと過ごした時間があれば、負の感情は湧かない自信があるが、おまえは違うんだな」

「………浅葱君。もしかして、僕から一時的に離れたいと思っているのかい?」

「………二人で居ると、二人共に奇妙奇天烈な言動が出てきてしまうだろう?」

「それが嫌だと?」

「いや。まだ嫌だという感覚がない。感覚がないことにも激しい感情は生まれていない。ただ、冷静になる時間が必要ではないかと思ってしまった。が。一晩寝て、その必要はないのではないかと思い直した」

「つまり、僕とのことを考えることが面倒になって来た、流されてしまえと思い始めた?」

「ああ。深く考えるのは、薬草のことだけでいいだろう。と。開き直ったといってもいい。おまえとの付き合いは、流れに任せよう。と。現段階の考えだ。徐々に変わっていくこともあると思う。すまない」

「いや。いいよ。流れに任せよう。奇妙な言動を取ったり、少し距離を置いたり、付き合う前の僕たちみたいになったり、距離を一気に縮めたり。しっちゃかめっちゃかになろう」

「別れようとは言わないんだな」

「言わないよ。僕は君を諦めはしない。水美君に渡しはしない」

「………そうか。わかった」


 浅葱は言葉を途切れさせたかと思えば、両の手で勢いよく前髪を上げて、目を露わにした。

 雷に打たれたような甚だしい衝撃を受けた史月は、目を見開いた。


「この、人を呪いそうな目つきが嫌で、前髪で隠していた。霧夜と師匠と都雅以外には、見せたことはない」

「うん」

「付き合っているからと言って、お互いすべてを曝け出そうなんて言う気はない。今、俺の目を見せたのは、今、見せたいと思っただけだ」

「うん」

「………俺の目を見せることで、おまえを試そうとか、おまえの気が変わらないと確信を持ちたいとか。そんな考えはない。ただ、見せたかった」

「うん」

「………何故そんなに感極まっているんだ?」

「うん………僕も、わからない」


 涙で潤う瞳、赤に染まる頬、震え出し、産毛立ち、熱が帯びる身体。

 ツキツキと、どこもかしこも痛み出す。

 あらゆる感情で、胸が、喉が、目が、触れることも見ることも叶わない、魂と心がいっぱいになる。

 痛い、苦しい、嬉しい、幸せだ。

 しあわせだ。

 頬にしか伝っていない熱い涙が、まるで全身に流れているようだ。

 ひどく、熱い。熱が上昇していく。


「浅葱君。ありがとう。僕を受け入れてくれて。僕に君の目を見せてくれて。ありがとう」

「泣くな、史月」

「うん。ごめん。書くの、少し後でもいいかい?今は、君を抱きしめたい」

「………しっちゃかめっちゃか。か」

「うん」


 浅葱は朗笑をひそやかに響かせてのち、背もたれのない丸い椅子から立ち上がると史月の元へと向かうと、腕を大きく広げた。

 史月はやおら椅子から立ち上がると、身体を横に向けては浅葱へ真正面に向かい合い、そして、ゆっくりと浅葱を抱きしめたのであった。











(2024.10.20)




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