崇拝者
薬草に関することだったら何日でも起きていられるのに、薬草以外のこととなるとその気力は衰えるらしい。
(まあ、徹夜なんて身体に悪いから止めてほしいけどな)
霧夜の家にて。
浅葱と都雅の手によって家の修繕が終わり、きのこたっぷりのビーフシチュー、かぼちゃのコロッケ、オリーブオイルと塩のキャベツ揉みの夕食を眠り眼で食べ終えた浅葱と霧夜が横に並んで布団に入って眠る中、食器を洗い終えて、布巾で拭いてすぐには棚に戻さず自然乾燥させていた都雅は、家の外に出た。
空気が澄んでいて、数多の星が鮮明に見えていた。
きれいだなあ。
都雅は大きく背伸びをして深呼吸して、家の中に戻ろうとした時だった。
声をかけられたかと思えば、茨の影から黒のマントで口元以外全身を覆っている人物が出てきたのだ。
「あなたは都雅さんですね。初めまして。ですかね。ぼくは『終夜』の使者の黛青と言います」
「丁寧にどうも。名前は知ってるみたいだけど、一応。俺の名前は都雅ってんだ。初めまして。おまえ。使者ってことは、監視役じゃないんだな?」
「監視役?いえ。監視役が居るんですか?初耳です」
すっとぼけているのか、それとも本当に監視役は居ないのか。
判断がつきかねる都雅は追究せずに、何か用かと尋ねた。
「はい。申し訳ありません。ぼくの不手際でこちらに魔草を置き忘れたみたいでして。どこかに落ちていなかったでしょうか?小さな円筒状の黒色の硝子瓶に入っていたのですが」
「ちゃんと封印してもらえないか?魔草が暴走したらしいぞ。浅葱と霧夜さんは無事だったが、魔草の放った棘の所為で、家の中の修繕をしなければいけなくなってしまった。ほらこれ。棘はもう処理したから」
何をどう処理したのか、それとも処理はしていないのか。
詳しく聞いてはいないが、魔草を封印した竹筒だと浅葱から手渡された都雅は、ウエストポーチに入れていたそれを黛青に差し出した。
やっぱり。
黛青は一度大きく飛び跳ねてのち、ありがとうございますと深々と頭を下げて、都雅から魔草が封印された竹筒を受け取った。
「今後はこんな不手際は起こらないようにしてくれよ」
「はい。申し訳ありませんでした。このような不手際は起こらないように気を付けます。でも、霧夜さんと浅葱さんだったら、魔草如きにどうこうされるわけがないので、一安心です」
「………おまえ。霧夜さんと浅葱を何でも解決できる魔法使いか何かと勘違いしている類の人間か?」
腰に片手を当てた都雅は、少しだけ首を傾けて黛青を見下ろした。
あ、少し怖くなった。黛青はそう思いながらも縮こまることなく、はいと元気よく答えた。
「この国の寿命を大幅に引き延ばした霧夜さんと、その霧夜さんの唯一無二の弟子である浅葱さん。お二方ともに、ご自分で薬草を育成し、新たな薬草の効果を次から次に見つけ出し、どんな薬草の依頼でもすぐに調合し、お二方の調合した薬草でなければ効果がないと求める依頼人はひっきりなし。そして、魔草の対処もできる。ひょっとして、魔草の調合もできたりするんじゃないですか?」
「魔草のことは知らないが、確かに。薬草に関しては、魔法使いみたいな二人だ。寝る間も惜しんで身を削って、努力して、試行錯誤して、魔法使いみたいに見えている二人だ」
「ええ。十分に存じています。才能だ天才だなんて口が裂けても言えません。たゆまない努力を重ねる方々です。ぼくは、尊敬しています。すごく、」
目が曇った崇拝者かと思ったらそうではないらしい。多分。
(う~ん。今後もわざと魔草を置いて行って、二人の活躍を見るようなやつだったら、懇々と注意しようと思ったけど。今回は本当に置き忘れた。のかな)
「もしかして、ぼく、品定めされている最中ですか?」
「おう。二人とも俺の大切な人だからな。変な連中に付き纏われることが多いし、俺は俺のできる範囲で、守りたい」
「そうですか。ふふ。本当に実直な人だ。話していて清々しいです。少し熱いところもありますが」
黛青は深々と頭を下げた。
「目を見せて話せない無礼をお許しください。また、霧夜さんと浅葱さんを前にすると、どうしても浮足立って、はしゃいでしまう無礼をお許しください。今回の件も。謝罪をお二方に伝えてもらえますか?」
「自分で伝えたいんじゃないか?」
「はは。またはしゃいで余計なことも言ってしまいそうなので。ではこれは確実にこちらで預かりますので。今日は失礼します」
「ああ」
頭を上げた黛青はまた小さく頭を下げてのち、手に持ったままの竹筒に封印された魔草を懐に入れて、踵を返したのであった。
本当はスキップして帰りたかったが、真面目な態度真面目な態度と念じては我慢した。
(よし。印象はよかったはず。めいっぱい丁寧に対応したからな。都雅さんの懐に入れば。ぐふふふふ。霧夜様と浅葱様ともよりお近づきになれる!)
(う~ん。まあ。悪いやつじゃないだろうな。多分。崇拝者っぽいけど。霧夜さんも浅葱もあいつの対応に苦慮しそうだなあ)
(2024.10.17)




