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竹釘




 霧夜きりやの家にて。

 外壁の竹には損傷はなく、内壁の竹のところどころに棘による損傷があったので、損傷がある部分だけを新しくしようと、古い竹を取り除いては新しい竹をトンカチと竹釘で打ち直すという作業を黙々と続ける中、都雅とがは背を向けたまま反対側で同じ作業を続けている浅葱あさぎに話しかけた。


史月しづきがここに来たって言ってたけど。どうなるんだ?俺たちと『終夜よもすがら』の使者以外、ここに来ちゃだめなんだろ」

「ああ。一応、すぐに史月の目を隠して耳を塞がせたが、あまり意味はなかったかもな。『終夜』の使者が来ていなかったら。いや。どうせ、監視役が常時居て見張っていただろうし、使者が来ていようが来ていなかろうが、関係はなかっただろうな」

「え?監視役なんて居るのか?気付かなかったけどな」

「おまえでも気づけないくらい隠密に長けている連中に任せてるんだろう」

「はあ。そうだったのか。まあ。そうか。そうだよな。ここに閉じ込めておくくらいだから、監視役が居てもおかしくない、か」

「ああ。もう、とっくに『終夜』の本部には知られているだろう。処分は、どうなるのか。俺は。もしかしたら霧夜と同じく、ここに閉じ込められるのかもしれないな。外出は禁止。百年。二百年、が、妥当、か。俺がここに招き入れたようなもんだけど、情報流失はしてないからな。史月の処分は。『終夜』の領分じゃないからな。『払暁ふっぎょう』が何かしら処分を下すんじゃないか」

「落ち着いてるな。もう、史月には会えないかもしれないってのに」

「一生会えないってわけじゃないだろうからな。最悪、死ぬ間際に会えたらそれでもいい。十分、十二分にあいつとは触れ合った。時間にしたら短くても、俺にしては濃密な時間だったんだ。俺にしては、もう、供給過多なぐらいだ。だから、俺はいい。が、」

「史月。おまえに会えなくて泣くんじゃないか?」

「その時はおまえが料理でも作って慰めてくれ。あ。水美にも悪かったと伝えてくれ。五年間付き合う約束だったのに反故にしてしまった」

「まだここに居ないといけないって決まったわけじゃないだろ」

「まあな。だが。もしも、処分が下されなかったとしても。少しの間は、ここに留まろうかと思っている」

「え?」


 とんとんとんとんととん。

 トンカチで竹釘を竹に打つ優しくも清澄な音を小さく響かせていた都雅は、手を止めて後ろを振り返った。浅葱は背を向けたまま、作業を続けていた。


「霧夜がやたら俺にここに残れと言う。何度言われようと振り払って出て行こうと思っていたが。まあ、様子がおかしいのは、いつものことだが………俺もやはり、霧夜に甘いんだろうか?」

「甘いと思うけど。浅葱が決めたことなら、俺は反対しない。ただ、長命になったからと言って、その長い命が長い寿命の限り続くとは思うなよ。史月は結界師だ。魔草の手にかかったり、盗人の手にかかったりして、死ぬ可能性もあるんだ。おまえが望む時に会えない可能性は高い。わかっているのか?」

「ああ」

「使い古された言い回しだけどよ。いつかまた会えるって油断してたら後悔するぞ」

「ああ」

「処分が下されようと下されなかろうと、史月とちゃんと話せよ」

「ああ」


 背を向けたまま作業を続ける浅葱に、都雅も背を向けてまた作業を再開した。


「なあ」

「ああ」

「もしかして、供給過多だから、史月と過ごす時間を減らそうと思って、ここに居ようと考えたってのもあるのか?」

「………」

「『恋人同士の甘い時間に割り込んでくるな』。なんて言葉、おまえの口から出るなんてもう、本当にびっくりした。心臓が口から飛び出す?目玉が眼窩から飛び出す?くらいに」

「………そうだな。今はまだ、実感はないが。数百年後には、慙死ざんしの思いに駆られるかもしれないな」

「そうか。実感がないのか」

「………わからん。実感があるようでないようで。変わっているようで変わっていないようで。嬉しいようで嬉しくないようで。わからんよ」

「浅葱」

「ああ」

「疲れただろう。いいぞまた眠っても。俺が全部しといてやるから」

「都雅。おまえは誰も彼も甘やかし過ぎだ」

「甘やかすばっかりじゃない。口煩い時もあるだろ?」

「ああ。そうだな」


 今すぐ手を止めて床に大の字になって眠りに就きたい。

 とんとんとんとんとんととん。

 この家の中で小さく響かせる、トンカチで竹釘を竹に打つ優しくも清澄な音が、都雅の気配が、心地よい眠りへと誘ってくれるだろう。

 だが、と、浅葱は手を動かし続けた。

 都雅は苦笑を溢したのち、夕飯は何がいいかと尋ねた。

 考える力はないおまえの作ったものなら何でもいい。

 浅葱はそう答えた。












(2024.10.16)




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