にっかり
霧夜の家にて。
「俺たちが薬草と魔草の交配を拒否したから、『終夜』の連中が業を煮やして、命令に従わないなら始末しちまえって、あいつに魔草を放たせたんだ。へへん。ざまあみろってんだ。俺たちが魔草如きに殺されるかってんだ」
「いや、違うだろ。ただ単にここに落としただけだろ」
「っふん。どちらにせよ。はあ。ここから俺は離れられないし。あいつはまた来るだろうし。薬草と魔草を交配しろって迫ってくるだろうし。反対に、薬草と魔草を交配させるなって連中も来るし。まあ、絶対に薬草と魔草を交配なんかしませんけど。俺一人じゃあ。面倒な連中を追い払うのは無理なので戻ってきてください!」
大きく広げた鳥の両翼のような形はしている全身に纏う、大量の鋭く太く短い棘を放った魔草を薬草で瞬時にして眠らせてのち、霧夜と浅葱が家中のあちこちに突き刺さった棘を麻袋に回収する中、霧夜は片膝をついて真正面に立つ浅葱に手を差し伸ばした。
「その話は終わっただろ」
浅葱は霧夜に背を向けて、魔草の棘の回収を続けた。
霧夜は即座に立ち上がると、終わってないと鼻息荒く言いながら、霧夜に纏わりついた。
「俺は了承してない。都雅と師匠が勝手に了承しただけだ」
「それで十分だろ」
「十分じゃないです。俺の了承が必要です。でも俺は絶対に了承しないので、浅葱はここに居ないといけません」
「我が儘を言うな」
「我が儘じゃありません。自然の摂理です。俺たちは離れ離れになったらいけません」
「やけにウザ絡みしてくるが。俺がここに居ないといけない理由があるのか?」
「俺の情緒安定と面倒な連中の追っ払いと薬草について色々知る為」
「言っただろう。薬草について色々知る為にここを出たいと。ここだけでは薬草を知ることはできない。霧夜もそれはわかっているだろう?」
「わかるがわからん」
「とりあえず。今日はここまでだ。史月の様子がおかしいからな。師匠のところへ連れて行く。魔草も持って行く。師匠のところに居る都雅に頼んで『終夜』に持って行ってもらう。あとは棘を回収して、処理しておけよ」
「俺一人で?」
「………」
漆黒の眼帯で隠されている片眼も透けて見えるようだ。
うるうると、涙で濡れている両の目を向けられているように感じた浅葱は、とても深く濃く長い溜息を吐いたのち、また戻ってくると言った。
「おう。助かる」
にっかり笑った霧夜に、疲労感がたっぷりのしかかったような気がした浅葱は、億劫げに口を開いた。
「『終夜』に世話係を頼んだらどうだ?」
「やだ」
にべもない。
「………とりあえず行く。棘の回収は進めておけよ。都雅も連れて来るから、家の修繕はその時にする」
「おう」
浅葱はほったらかにしていた史月を肩に担ぐと、重たい足を動かして霧夜の家を後にした。
(2024.10.15)




