直立不動
まあでも。
黛青は大きく跳ね飛びながら霧夜の家へ駆け走る中で、何にもないだろうなあと思った。
魔草は協力してくれている魔草師によって厳重に封印されている上にその封印はその魔草師しか解けないので、落っことしたぐらいでどうにかこうにかなるわけがないのだ。つまり、
「霧夜様と浅葱様の華々しい御活躍は見られない。薬草の知識を集結して、暴れ回る魔草を、一心同体さながらのコンビネーションで一網打尽!が!見られない!けえどお!お二方にまた会える!もしかしたら魔草を探すのを手伝ってくださるかもしれないそうだったら長い時間を一緒に過ごせるかもしれないああまともに話せないけどいっぱいいっぱい武勇伝を聞きたいけどあの公害についてもお聞きしたいけどきっと今回もお聞きできないけどそれでも嬉しい!」
やったあやったあるんらららん。
黛青はさらに大きく飛び跳ねながら、霧夜の家へと駆け走る。
霧夜の家にて。
浅葱によって、目をハンカチで覆い隠されて後ろで結ばれ視覚を遮断、丸めたティッシュで耳の穴を塞がれて聴覚を遮断された史月は、未だ一歩も動かされていない状態を疑問に思い、近くに居るだろう浅葱の名を呼ぶのだが、返事はなかった。
(勝手に目を隠す布と耳の詰め物を取ったら。いけないのだろうな。ここは限られた人間しか来てはいけない場所だと、都雅君に教えられたし。ああ。浅葱君に迷惑をかけてしまった。っは。まさか、『終夜』に罰せられたりするのだろうか。もしかして僕も『払暁』に罰せられる可能性も、ある、よ、な。もしかしたら。僕と浅葱君の契約を破棄させられるかも。そうだとすると浅葱君との同居も解消。僕と浅葱君は離れ離れにさせられる。交流も一切許されない。交際を始めたばかりだというのに。こんなことがあっていいのか?)
早く、この場を離れなければ。ここに居た事実を消し去らなければ。
(っは。だけど。僕は『終夜』の使者に姿を見られていたんだ。今頃、あの使者は僕のことを報告しているのかもしれない。あああああ。何だって、僕は浅葱君に会いたいなんて、思ってしまったんだ。いや、会えて嬉しいけど何事もなく無事な姿を見られてよかったけど。どうすればいいどうすれば。まずはあの使者の記憶から自分を消去して、いやその前に早くここから自力で居なくならなければ魔草だ絶対魔草の仕業だから会いたい人会いたい人を思い浮かべばここから居なくなれる都雅君季梨君師匠さん都雅君季梨君師匠さん!)
「おい。ぬしの恋人、大丈夫か?急に顔色も悪くなったし、汗が大量に流れ落ちているぞ」
「ああ。体調が急に悪くなったんだろう。早くここから出て、師匠のところに戻った方がいい。が」
霧夜と浅葱は、直立不動のままの史月から視線を移した。
大きく広げた鳥の両翼のような形はしていて、羽の代わりに鋭く太く短い棘が大量に備わっている、摩訶不思議生物、ではなく、魔草へと。
「さっさと片づけるぞ。浅葱」
「ああ」
(2024.10.15)




