使者
会いたい人のところへ飛翔する。
そんな摩訶不思議な現象をもたらす、魔草師の桜桃が管理している魔草の効果がまだ切れていなかったのだろうか。
きっと、まだ効果は持続中なのだろう。
そうでなければ、
「史月。どうしてここに。いや。おまえ。早く帰れ」
「お~~~。ぬしが浅葱の恋人の史月か。うんうん。よく来た。よし。一度見たら十分だ。帰れ帰れ。今は取り込み中だ」
「いや。え」
浅葱と、霧夜、それに黒のマントで口元以外全身を覆っている人物の視線を集めている史月はもしかしたらこれも夢ではないか現実ではないのではないかと混乱しながら、浅葱に視線を留めて、いつの間にかここに居たんだと訴えた。
「多分、以前触れてしまった魔草の効果が持続しているんだと思う。ほら。以前、君のところに突然姿を見せて忽然と姿を消したことがあっただろう?」
「………………ああ。そう。だった。な。そうか。魔草の。だったら、おまえの意思でどうこうはできないな。じゃあ、とりあえず、史月を師匠のところへ連れて帰るから、話はそれまで保留だ。霧夜。あ。その前に。秘密保持の為におまえの目と耳を隠させてもらう」
「え?」
浅葱は箪笥の引き出しを開けてハンカチとティッシュを取り出すと、史月に近づいては目をハンカチで覆い隠しては後ろで結んで、丸めたティッシュで耳の穴を塞いだ。
「じゃあまたな」
「え~~~。おい。行くなよ。こいつと二人っきりにするなよ。嫌だよ。こいつと二人っきりになるの。しつこいんだよ、こいつ。魔草と薬草を交配させろってしつこいんだよ。俺は薬草しか食指が動かないんだよ。魔草なんか興味ないんだよ。って、何度言えばいいんだよ。さっさと帰れよ」
「いいえ」
甲高い声を出しながら、黒マントの人物は霧夜に迫った。
「薬草だけではもはや薬草の効果を発揮できません人間を救えません魔草です魔草しか薬草の効果を引きずり出すことはできませんあの摩訶不思議現象を頻発させる魔草に食指を動かしましょう。ほうっら、まっそっう。まっそっう。魔草と薬草で人類救おうぜイエーイ!」
「あ~~~。うぜえ~~~。やだ~~~。俺こいつめちゃくちゃ苦手なんだよ二人きりにするなよこいつ追い出してくれよ~~~」
霧夜に抱き着かれた浅葱は無表情になったのち、黒マントの人物に向かい合った。
「『終夜』の使者殿。何度来られても、霧夜も俺も、薬草と魔草を交配しようとは思っていない。その気は皆無だ。薬草だけで。いや、正確には薬草だけではないが。他の力も借りているが。魔草だけは力を借りないと決めている。絶対だ。未来永劫変わらない。別の薬草師、もしくは、魔草師に当たってくれ。いや、おまえ自身でどうにかしろ。おまえも『終夜』の一員だろ」
「まあ。確かにい、ぼくも『終夜』の一員ですけどお。ぼくは、あなたたちみたいに才能も実力も全然ないのでえ。こうやって頼むことしかできません!」
「諦めるな。おまえならできる。そうだろう。霧夜」
「そうそう。ぬしならできる。諦めるな」
「え~~~。そうですか~~~。伝説のお二人がそう言うならできそうかも~~~」
黒マントの人物、もとい、『終夜』の使者は身体をくねらせながらそう言うと、わかりましたと力強く頷いて、また来ますと大きく手を振ってその場から駆け走って行った。
「助かった。浅葱。本当に助かった」
「あいつが来るたびに、俺を呼び寄せるな」
「あいつ苦手なんだもん。俺とぬしが揃って言葉のやり取りすれば満足して帰って行くもん。あいつ絶対俺たちに会いに来たいだけだもん。ミーハー野郎だもん」
「そんなわけないだろ。じゃあ。行くからな」
「嫌だまだ行くなよ~~~」
「いや、行く。じゃあな。薬草助かった。また来る」
「うえ~~~。冷たい。浅葱。冷たい」
浅葱から離れて床の上でゴロゴロ転げ回る霧夜を、しかし浅葱は見向きもせずに放っておいて、史月を連れてさっさと霧夜の家を後にしたのであった。
(霧夜。酒でも飲んでいるのか?変な絡み方をしていたな)
(2024.10.14)




