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グラタン皿




 やり切った。史月しづきは充足感に胸を熱くさせていた。

 浅葱あさぎとそれぞれ作った白味噌グラタンを交互に黙々と食べさせ合っている時。確かに自分は、いや、自分たちは緊張感と共に幸福感で満たされていた。

 多種多様で彩り豊かな花と共に、どす黒く不穏な渦巻きまで発生しているような、妙な空気は渦巻いていたが、確かに幸せだった。

 だから、白味噌グラタンを食べ終わった時、幸福感に誘われるまま眠りに就いた。

 意識を幸福の象徴である天使に刈り取られたともいえる。

 きっと、浅葱も同じように眠りに就いたのだと、信じて疑わなかった。

 まさか、




「史月。浅葱がどこに行ったか。わからないよな?」

「うん」


 一旦は季梨と共に師匠の家から出て行っては戻って来た都雅に尋ねられた史月は、シンク台の傍に立って、シンク台を見ていた。

 置いた覚えのないグラタン皿二枚と木のスプーンが二本、水に漬けられていた。

 浅葱が置いて行ったのだ。それから姿を消した。

 自らの意思でか、誰かに連れ去られたのか。

 都雅とが季梨きりが玄関の扉の前に座っていたので、そこから浅葱は出てこなかった。

 もう一つ、この師匠の家には外に出る扉があった。ちょうど玄関の扉の真反対にある後ろ口である。浅葱がそこから外へ出た可能性は無きにしも非ず。だが。


「俺たちが師匠ししょうの家から出ていたのは、三十分かそこらだろ。まだ、浅葱と史月は白味噌グラタンを半分ぐらい残してたし、二人ともゆっくり食べさせ合っていたから、まあ、十五分くらいはかかっていた。つまり、十五分前くらいに浅葱はここから出て行った。自分から出て行ったとして、何で、史月にも俺たちにも声をかけなかったのか。急に羞恥心に襲われて、ここから逃げ出したくなったってんなら、まあ、無言で後ろ口から出て行ったのもわかる。けど、十五分かそこらであいつが行ける距離には、居なかった」


 季梨と共に師匠の家に戻り、浅葱の姿がないことに気付いた都雅は師匠の家の中を探して、居ないことを確認してのち、外へと飛び出して片っ端から浅葱を探したのだが、どこにも居なかった。

 村里の家で村里の何人かとお茶会をしていた師匠にも知らせたが、どこかに行っただけだと言って、別に心配はせずにお茶会を続けていた。

 それはそうだ。何か、薬草のことで思いついたことがあって、ただ突然後ろ口から出て行った可能性もある。薬草のことでは浅葱は普段では考えられないほどの身体能力を見せるので、配達師として脚力に自信がある都雅が見つけられなかったのも頷ける。

 けれど。

 シンク台の前で向かい合っている史月、都雅、季梨は師匠のように心配ないとはどうしても思えなかった。


「都雅君。僕の、ただの勘なんだけど。浅葱君は、霧夜きりやさんのところに居るんじゃないかと思う」

「勘か?」

「うん」

「そうか。わかった。そうだな。その可能性が高いかもな。よし。じゃあ。俺が行って確かめてくるから。史月。悪いな。連れて行けなくて」

「いや。いいんだ。霧夜さんのところには、君と浅葱君と師匠さんしか行けないんだろう?そういう決まりなら、僕が無理を言うわけにはいかないよ」

「悪い。すぐに確認してくるから」

「うん」

「季梨。史月と一緒にここで待っててくれ」

「………うん。行ってらっしゃい。けど、僕はここら辺を探してみるよ。史月ちゃんはここに居て。浅葱ちゃんが帰ってくるかもしれないから」

「二人とも、ありがとう」

「ああ。じゃあ、行ってくる」

「都雅ちゃん。気を付けて。史月ちゃん、行ってくるね」

「ああ。行ってらっしゃい」


 史月は都雅と季梨を玄関扉から外に出て見送ると師匠の家に戻り、シンク台で水に漬けていたグラタン皿と木のスプーンを洗い始めた。洗い残しがないように、丁寧に、ヘチマスポンジで洗うと、蛇口から水を出して注ぎ、水を切って、布巾で拭き終わり、布巾かけに布巾をかけようとした時、布巾が汚れていることに気付いた。グラタン皿と木のスプーンをよく見ると、一枚のグラタン皿にまだ白味噌グラタンが二か所少しだけこびりついていることに気付いて、洗い直した。汚れていた布巾も洗って拭く布がなくなったので、洗い直した一枚のグラタン皿は水をよく切って、カウンターに置いておいた。


「………ティッシュで拭いておいた方が、いいかな」


 座る気にはなれず立っていた史月はティッシュがどこにあるのかわからず、部屋の中を探し始めたのであった。


(一緒に連れて行ってって、我が儘を言って、都雅君を困らせるわけには。いかなかったし。な。でも、)


 言えば、よかったかも、しれない。

 ぼんやりと、そう思った。










(2024.10.13)




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