大切
浅葱と史月に感化されたといえば、そうなのだろう。
短時間ながらもとても濃い二人の甘酸っぱさを浴び続けたのだ。
もう、いいかなあとも思ってしまった。
いつか、いや、まだ、いいや、一生いいかと思って、このまま友人のまま付き合っていけばいいかと思っていた。
まさか、告白する日が来るなんて、思いもしなかった。
(まあ、あの、史月ちゃんが。告白したんだから。ってわけじゃないけど。僕も、)
薄い雲がかかる空を見続ける中で。
いいかなあ、と、思ってしまったのだ。
(でも。告白する。前に、)
季梨は空を見上げていた顔を横に向けて、都雅を見つめて、やおら口を開いた。
「あのさ。都雅ちゃん。霧夜さんのこと、どう想ってるの?」
季梨は霧夜に会ったことはなかった。
ただ、都雅が話す中でしか、接したことはなかったが、それで十分だった。
もしも、都雅と霧夜が直に会う姿をこの目で見ていたとしたら、
想い続けることすら、もう、諦めていただろうから。
(結構、繊細なのよね。僕って、)
そう、繊細屋なのだ。
だから避けて、へらへら気楽に笑ってきた。
振られることは確実だから、
きっぱりはっきり振られて、断ち切られて、それでも友達で居続けられたらいいと求められて。
その願いに応じて、器用に立ち振る舞いながら、ふとした瞬間に、涙が零れ落ちたりして。
(あ、やっぱり無理。よし。霧夜さんのことだけ聞いて。また、二人の様子を見に家の中に戻ろうって言おう)
臆病風に抗うことなく吹かれては舞うことに決めた季梨は、気楽な態度を装いながら都雅の答えを待った。
「どう想ってるって。霧夜さんは俺の家族みたいなものだ。まあ、かなり長い間、あの人の世話を焼いてきたからな。俺は。そう想ってるけど、あの人がどう想ってるかは。よくわからん」
「………とっても大切なんだね」
「ん~~~。そうだなあ。大切だな」
「そっか。そうだね。顔を見ていればわかるよ。すっごく嬉しそうだもんね」
あ、ちょっとだけ、やっつけでぶっきらぼうな言い方になってしまった。
季梨はどんどんどんどん落ち込んできてしまった。器用に気楽に何でもこなせると思っていたのに、この様である。
(あああ~。わかっていたのにもう………よし。もう。諦めようそうしよう。無理だけど)
「あ。浅葱ちゃんと史月ちゃんの様子をちょっと見に行こうか?」
「ああ。うん。季梨。霧夜さんが、また、公害を引き起こすかって。『払暁』の方でも、何か、問題視されてんのか?」
「え?」
立ち上がろうとした季梨は、同じく立ち上がろうとしていた都雅の質問に眉根を寄せた。
季梨と都雅は中途半端な姿勢のまま、互いに見つめ合った。
「ああ。いや。悪い。季梨が突然、霧夜さんのことを尋ねるから。何か。『払暁』から探ってくるように言われたのかとちょっと考えちまって。あの人。もう。公害を引き起こすような薬草を育成したり調合したりしないとは、言えないけど。でももう、閉じ込められちまってるからな。もう、大丈夫だって。伝えておいてくれ」
「………別に、『払暁』から霧夜さんを探るようになんて言われてないよ。僕たちに関係ないって言えないけど。でももう、霧夜さんのことは『終夜』に任せているから。僕がただ単純に、訊きたかっただけ。都雅ちゃんが霧夜さんのことをどう想っているか」
「あ。そっか。悪い。ただ、霧夜さんが危険視されているってのは。危険だってのは。よくわかってるから。もしかして、季梨が『払暁』から霧夜さんのことを任されたんじゃないかって、考えただけで。悪い。季梨。戻るか。もしかしたら、二人とも顔を食卓に突っ伏しているんじゃないか?」
「うん」
(ああ。やだな。やだ。な。胸が痛い。すごく、)
季梨は背伸びをして師匠の家の中に入って行く都雅の背中にそっと手を伸ばした。
そのままその広い背中の布を掴んで、引き留めて、好きだと言ってしまいたかった。
言って、
(………今は、切り替えよう。よし。史月ちゃんと浅葱ちゃんの応援隊長だ)
季梨は上げていた手を下ろすと、都雅に続いて師匠の家の中に入って行ったのであった。
(2024.10.11)




