にかにこ
(ずっとこのテンションなのか?それとも、いつものこいつらに戻る時が来るんだろうか?来た時に、こいつらはどんな反応をするんだろう。地面に穴を掘って入ったりするんだろうか?)
都雅は木の根で支えられている歪な丸の食卓の、背もたれのない丸い椅子に座って向かい合わせになっている浅葱と史月を見た。
それぞれが作った白味噌グラタンを、食べ合いさせっこしている浅葱と史月を見た。
いわゆる、あーんして食べさせている。
関節キッスはしていない。
自分が作った白味噌グラタンを慎重に木のスプーンで掬って、慎重に相手の口元に運んで、慎重に相手に食べさせている。無言で。交互に。その繰り返し。
浅葱は白い炎を全身から吐き出したまま、史月は怖い顔のまま。
まるで命が懸かった決闘に挑んでいるような、二人ばかりか二人の周囲も熱気も冷気も伴う妙な気迫が渦巻いていた。
(キャッキャウフフって。恋人にありがちな擬態語が一切出てこないよなあ)
「なあ。浅葱。史月。美味しいか?」
師匠は恋人同士の邪魔をしてはいけないと、村里のお茶会に出かけてしまった。
季梨は都雅と同じく、浅葱と史月が座っている食卓から少し離れて二人の横顔が見えるところで、背もたれがある丸い椅子に座って様子を見守っていた。
師匠と同じように恋人同士だけにすべきではないか、とも、都雅も季梨も考えたけれど、この変妙な二人を果たして二人きりにしていいのかとの疑問が拭えなかった結果、こうして見守る態勢に入っていたわけだが。
都雅は二人があんまりにも話さないので、一石投じてしまったのであった。
「都雅」
「何だ?」
峻厳な声音と態度と空気で以て、浅葱はやおら都雅の名を呼んでは言った。
視線は史月に留めたままだった。
「恋人同士の甘い時間に割り込んでくるな」
え、どこが甘い時間なの甘い時間には見えないけど見えないだけで実は二人の間には甘い時間が流れていたのかそれは悪いことをしたやはり二人きりにした方がいいのだろうかどうだろうか。浅葱も恋人同士の甘い時間を過ごしたかったのかそうなのか。
刹那にして大量の文字が頭から発生し続けた都雅は、とりあえず悪いと謝りながらも、その場から離れようとはしなかった。のだが。
「都雅君。季梨君。悪いのだけれど、二人にじっと見られていると気が散ってしまうんだ。心配してくれるのは有難いのだけれど。少し席を外してくれないか?」
荘重な声音と態度と空気で以て、史月は静かに言った。
浅葱に視線を留めたままだった。
行こうか。季梨が都雅に言った。
「僕たち過保護だったかもね」
「ああ。うん」
席を立って師匠の家を後にした季梨と都雅。
気もそぞろな返事をした都雅に、季梨は心配なのと尋ねた。
「そりゃあな。だって、あいつら、いつもと違い過ぎているだろ。限界が来て、二人してぱったり倒れそうで心配だ」
都雅が師匠の家の玄関扉の前で胡坐をかいたので、季梨も都雅に倣ってその場に腰を下ろした。
「本当に、都雅ちゃんは世話焼きさんだねえ」
「まあ。性分だな。お節介だって煙たがられるのも慣れてるさ」
「僕は好きだけどね。お節介な都雅ちゃん」
「おう。ありがと」
ニカッと笑う都雅に、にこっと季梨は笑い返した。
「………なあ、季梨」
「うん。なーに?」
「俺に怒ってるか?」
「………ほーんと。都雅ちゃんは直球だねえ。清々しいねえ」
季梨は苦笑を溢したのち、両腕を高く上げて、顔を上げて、薄雲がかかる水色の空を見続けながら、どうしようか少しの間考えたのであった。
(2024.10.10)




