変化
薬草への知識欲は甚だ強いくせに、
薬草に対する執着はなかった。
盗まれたり、枯れたり、部分消失したり、焼失したり、吹き飛ばされたり、沈没したり、埋没したりと、育ててきた薬草が姿を消したり、死に至ったりしても、そのことに関して何か感情が湧き立つことはなく、また新たな薬草を迎え入れるだけだった。
淡々と、
もちろん、今まで育ててきた薬草と同じ効能が発生するかといえばそうでもない。そもそも、同じように育てても必ずまた同じように育つわけでもない。同じ種族であったとしても、まったく同じ個体など存在しないのだから。その刻、その刻の環境で変異もするのだから。
それぞれその薬草特有の効能を把握し、その効能を、どのように調合すれば効果に変えられるかを考え続ければいいのだから。
ゆえに、せっかくここまで薬草を育ててきたのに台無しにしやがってという、苛立ちや腹立ち、悲哀などの感情が湧き立つことはなく、そういう意味では、薬草に対する執着は一切合切なかった。
惜しむものではない。惜しむものではなかったのだ。
なくなって、迎え入れて、なくなって、迎え入れての繰り返し。
ずっとずっとそうだった。
ずっとずっとずっとそうなるはずだった。
なのに、
変化は訪れていたのだ。
そうだ。
史月を迎え入れた時からすでに、
交際の申し出を受けた時ではなかった。
いや、これは、単なる八つ当たりになるのだろう。
変化を生じさせてしまった自分が悪いのであって、史月は何も悪くない。
わかっているのに、
責任を問いたくなる詰りたくなるおまえの所為だおまえの所為で、
薬草に対して要らぬ情を芽生えさせてしまった。
おまえが薬草を惜しむから、俺もまた惜しむようになってしまったようだ。
それがどうしたと笑い飛ばせればいいのだ。
惜しみたければ思う存分惜しめばいいだろう、喜怒哀楽を生じさせればいいだろう。
たったの一つ。ありふれた中でのたった一つの薬草に、それでいて特別な薬草に、
惜しんでは、また新たな薬草を迎え入れる。
ただ、ほんの僅か、その時間に遅れが生じるだけの話だ。
その時間が惜しいと歯がゆさが生じるだろうが、これも致し方ないと受け入れるほかないだろう。
たったの一つ。ありふれた中でのたった一つの薬草、それでいて特別な薬草。
その認識は変わりないはずだ。だというのに、
翻弄される気は一切合切なかった。
史月が自分に翻弄されることもなければ、自分が史月に翻弄されることなど絶対にありえないと思っていた。
翻弄されているのではないか。お互いに。このまま翻弄されて疲弊していくだけではないのか。
このまま、
傍に居ても、互いに傷を負い続けるだけではないのか。
傷を付け合うのではなく、負い続けるだけ。自分勝手に、疲弊していくだけ。
薬草以外、人間や他の生物無生物に対して希薄で、だからこそ、それらが何をしようと気にも留めていなかった。聞き流していた。それらが自分に変化を生じさせるなんて微塵も考えられなかった。
(変わらないことなど、)
師匠の家にて。
浅葱は浅葱に差し出した白味噌グラタンを自分で食べようとする史月を制止して、都雅に白味噌グラタンの作り方を教えてくれと言った。
「え?何で俺?」
(2024.10.9)




