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本心




 なおざりにしているだけで、薬草以外の食欲も睡眠欲も性欲も知識欲もないわけではない。

 薬草のことだけ考えられればいいと言う霧夜きりやですら、都雅が作ってくれた手料理を待ち望んではいる。俺も同じく。

 俺も、そして、霧夜も。

 ただ、極端に薬草に傾いているだけ。

 もしも薬草に対する知識欲だけで心身が占められていたとしたら、

 それはそれで、俺も、霧夜も、幸福だったと思う。

 ただひたすらに薬草のことだけに心身を注げばいい。心血を流せばいい。

 ああ、想像するだけでも、なんて、幸福な日々なのだろう。

 都雅とがにも史月しづきにも見向きもせず、ただ、薬草のことだけ。

 そんな人生が選べるとしたらどうする。

 そう、問われたら、恐らく、選んでしまう。

 都雅も史月も切って捨てられてしまえる人間なのだ。

 不人情で冷酷な人間なのだ。


 いつか、そう遠くない未来で、

 温度差に苛まれはしないだろうか。温度差を埋めるべく、心身を酷使しないだろうか。

 いや、彼ならばきっと、水美のようにはならない。自分自身を蔑ろになんてしない。

 やはり交際を断るべきだったのだろうか。

 そんな後悔を抱く日など、来るはずがない。




 疲れていた。のだと、思う。

 薬草のことで、史月のことで、心身共に疲弊していたのだと思う。

 思うよりも、雪白に薬草が奪われたことが、心身に負担をかけていたのだと思う。信じられないが。奪われたとしてもまた新たに薬草を調達して育成すればいいだけの話だったが。

 それが、どうして、

 わからないことがまた、疲弊を呼び寄せる。

 だから、霧夜のところで丸一日眠ってしまったし。

 だから、負の思考に陥ってしまったのだろうし。

 だから、らしくない史月を前にして動揺してしまったのだろうし。

 交際しているのだ。

 変化はある。そう、わかっていたはずだった。余裕があったはずだった。史月よりもずっと。


 けれどそうではなかったのだろう。

 余裕もなければ、心構えもまるでなってなかったらしい。

 史月が俺の為に作ってくれた白味噌グラタンを拒んでしまったのだ。

 要らないと言ってしまった。

 食べたくないと言ってしまった。

 本心だった。

 本心だったからこそ、俺は、

 俺からは交際を止めないと言ったその口で、交際を止めようと言ってしまいそうだった。











(2024.10.9)




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