夕間暮れ
ああ、これは白昼夢だ。
だって、今、僕は師匠さんの植物の雑生場所で、師匠さんが見守っている雑草を膝を抱えて見ているはずだから。
いや、もしかしたら、雑草を見ている内に、眠ってしまったのかもしれない。
だから、白昼夢ではなく、ただの夢かもしれない。
都雅君に浅葱君を見つけたけど、浅葱君の師匠さんに捕まってまだ帰れそうにないと言われてしまって、浅葱君が恋しくなってしまったから、こんな夢を見ているんだ。
ああ、それにしても、僕はこんなにも想像力豊かな人間だったのか。
浅葱君が見知らぬ男性と一緒に暮らしている夢を見るなんて。
浅葱君が見知らぬ男性と師匠さんと都雅君と一緒にご飯を食べている夢を見るなんて。
見知らぬ男性と浅葱君は薬草を育てて、調合をして、薬草について話し合って、薬草の育成と調合について喧嘩して、無視をして、かと思えば、すぐに額と額を押し合いながら、睨み合いつつまた話し合って。
都雅君が持って来たり、作ったりしてくれた料理を奪い合ったりして。
都雅君に生活状況について説教されたりして。
師匠さんに淹れてもらったお茶を飲みながら、相談はないかと尋ねられたりして、薬草について話して。
浅葱君と見知らぬ男性が共に触れるのは、ほとんどが薬草についてだ。
君みたいな人がもう一人居るなんて驚きだ。
本当に容姿こそ違えど、仕草や言動がまさに瓜二つ。いや、まるで。
まるで、
同一個体。どちらかが、どちらかのクローン。
は、はは。
流石は夢だ。起きている僕では生み出せそうにない発想を次から次へと弾き出してくる。
疑問も、
どうして、君はこの場所に留まらなかったのだろう。
君の心身を占める薬草について思う存分、腕を振るえるだろうに。
傍らには、君と同じ薬草で心身を占められている人間が居るのだから。
時間が足りないと君はいつも嘆いていただろう。
この場所に居れば、少しはその嘆きを減らすことができただろうに。
どうして、
いや、
見知らぬ男性がこの場所を離れないから。離れられないから。
だから、君はこの場所を離れたのか。違う場所へと旅立ったのか。
薬草を知る為に。自分の為に。見知らぬ男性の為に。
幸福なこの地に留まらず、歩み始めた。
だとしたら、
僕と君が暮らしている場所からも君はいずれ、居なくなるのか。
また新たな場所へと旅立つのか。
僕を置いて、それとも、僕も連れて。
いや。君のことだ。
ここの薬草のことは任せたと、僕を置き去りにしそうだ。
そして僕は、旅立つ君を見送りそうだ。
至極満足げに。
まあ。まあ、まあ、夢の中の話なので。
現実ではないから。まあ。よしとしよう。
うん。つまり、現実の僕は浅葱君が旅立つのをゆるさないっていうのか。
ここでずっと一緒に居ようと駄々を捏ねるっていうのか。
僕も一緒に連れて行ってくれと駄々を捏ねるっていうのか。
いや~それはちょっとどうなんだろう。いやいや、そこまで分別がなくなるわけではないだろう。
いや、なくなるのか。なくなってしまうのか。
え~~~。そんな人間になってしまうのか。
いや、ならないならない。とても嬉しそうに見送り続ける。
そして次から次へと浅葱君は新天地へと行って、僕と一緒に暮らしていた家に帰ってくる頻度も少なくなって、遠距離恋愛に移行して、いずれは自然消滅。
あれ、僕たち付き合ってたっけどうだったっけいやもしかしたら交際していた事実なんてないのかもしれないあれはただの僕の夢いやもしかしたら浅葱君との出会いからしてすでに夢。
「この頃、夢見が悪すぎやしないか」
史月は膝に埋めていた顔をゆっくりと起こすと、ずっと俯いていて痛めてしまった首をゆっくりゆっくり回して、手を組んで前に伸ばし、そのままゆっくりと上げて行って頭の上まで手を持って行きたかったができず額の延長線上で停止。五秒間数えてのち、ゆっくりと下ろしては、動作を停止。六十秒間数えてのち、ゆっくりゆっくり立ち上がると、師匠さんのところへ戻って行った。
夕間暮れだった。
(ああ。だけど本当に。夢見が悪い。自然消滅したばかりか。まさか僕が、)
浅葱君を結界で封印するなんて、
(2024.10.7)




