信じられない
薬草を知る為に、薬草師ほど適した職業はないだろう。
薬草を育て、行く末を見届ける薬草師ほど。
薬草の行く末とは、何か。
枯れ果てること。
調合されること。調合されたのち、人間にどのような効能をもたらすか。持続期間、効能(効果、副作用)、効能範囲、服薬頻度、服薬量。人間によって、それらは多種多様で、薬草の奥深さを垣間見えることができる。
そう。垣間見えるだけ。
すべてを知ることができる日など、到底訪れやしないだろう。
薬草に囚われている。
おまえは人間なんてどうでもいいんだ。
人間なんて、薬草を知る為の実験動物でしかないんだろう。
おまえは薬草師に向いていない。いや、薬草師であってはいけない。薬草師として、人間に薬草を調合してはいけない。
そう、詰られたことがあるが。
そう、考えることの何がいけないのか。
「すまなかったな。迷惑をかけた」
「しんっっっっっじ。られないんですけど!」
「………返す言葉もありません」
一時、浅葱の薬草を狙う解界師である雪白の爆音が鳴り響いたかと思えば、不意に途切れて静寂が訪れたので、てっきり史月が雪白を結界縄で全身をグルグル巻きにして、すべてを停止させて、浅葱の薬草を守り抜いたのかと思ったら。
「しんっっっっっじ。られないんですけど!」
庭の惨状を見た水美は腹の底から声を吐き出して、何なら絞り出して、史月を叱咤した。
信じられない。その言葉しか出てこない。
絶対に、浅葱の薬草を守り抜くと信じていたのだ。
死んだ魚の目が伝えてくるように、やる気のなさそうな心身だが、やる時はやると信じていたのだ。
それがまさか、ごっそり浅葱の薬草を奪われるなんて、誰が予想できようか。
否。できるはずがない。
「しんっっっっっじ。られないんですけど!」
他にも言いたいことは山ほどあるはずなのに、この言葉しか知らないと言わんばかりに何度も何度も吐き出す水美を前に、身体を縮こまらせた史月は、水美の隣に立つ浅葱を上目遣いで見つめながら、申し訳ないと、声を絞り出したのであった。
(2024.9.30)




