お節介
太陽が。
月が。
雲が。
風が。
雨が。
海が。
雷が。
火が。
土が。
地震が。
菌が。
虫が。
動物が。
植物が。
薬剤が。
人間が。
(ああ。らしくない。らしくない。らしくないと。そう。思っている、のに。疲れているのに、)
浅葱に話しかけられてあっさりと自分から目を逸らした水美と、自分にはこれっぽっちも視線を注いでくれない浅葱を見ていた史月は、そっと、居間から、そして、家から出て行った。
何も不貞腐れたからここから退却するのではない。
溜息を出したのも、そそくさとこの場から逃げ出した自分に意気消沈したがゆえではない。
灰色の結界縄を出現させる為だ。
(ああ。もう。本当に、)
嫌な予感。と、いうべきか。
長年結界師として生きて来て培われた勘というべきか。
それは、見事的中したようで。
「君は解界師かい?」
「ああ。貴様は結界師だな」
(嫌になるなあ)
勇ましい。大きい。鍛える。迫る。攻める。強い。猛々しい。荒々しい。しなやかさはない。木っ端微塵になっても構わない頑固さ。粉々になっても積み立てればいいと考える不屈の精神。黙らせない、語れ、もっと語ってこいとけしかける豪胆さ。
一目見ただけで、解界師の男性の性質がわかってしまうのは、何も、人を見る目が養われたわけではなく、彼が他者に自己を強く想像させる力がある。それだけの話だ。
(ああ。もう、本当に、)
「嫌になる」
薬草の効果を半減させるばかりか、薬草そのものを消滅させるような自然的、または人為的事象に対しても、浅葱は快く受け入れた。
薬草にとって、害としか思えない事象であっても、もしかしたら違うのかもしれない。
俺たちがただそう思い込んでいるのであって、実は薬草にとっては益になっているのかもしれない。
いや、益にならなくても、俺たちの思い込みが合致していて害だったとしても構わない。
それを受け入れて薬草が消滅する様を見届けて、反面、薬草にとって害にならないよう対策を取りもする。
薬草が全部消滅されたら困るからな。
いつものように、力みなくそう言う浅葱に対し、史月は言った。
例え、半分であったとしても、だ。今まで心血を注いで育ててきた薬草が消滅したら、君だって、絶望、まではいかないかもしれないけれど、落胆はするだろう。
答えはわかっていた。けれど、どうしてか言わずにはいられなかった。
愛情ではないにしても、知識欲を満たす為だけの対象なのかもしれなくても、薬草と真摯に向き合っているのは、初見時すらもう、わかっていたから。
だから。だ。
だから、
「要らぬお節介をかけてしまう」
君はこの解界師すら受け入れると知っていても、わかっていても。
いや。知っているからこそ、わかっているからこそ、
なおさら、
(2024.9.29)




