ちょこんと
ものぐさな人間だと自任している。
だから、中断して放置することが多々ある。
今もそうだ。
あれやこれやと浅葱の気持ちを推し量ることを止めた。
止めて、行動に移すことも止めて、部屋に引っ込んで、ベッドに横になっていただろう。
今迄は、
面倒なことからは目を背けて、やらないでいいならやらない。
今だって、そうだろう。
やらないでいい、状況だろう。
このまま手を退けたまま、目を背けて、この場を立ち去ればいいだろう。
二人のこれからについては、また後日、仕切り直して、話し合えばいいだろう。
時間は優にある。焦らなくていい。
ゆっくりゆっくりと、
本当に今、退いていいのか。
カッチンコッチンガッチンゴッチン。
硬い物と硬い物が軽くぶつかった時のような音が鳴り続ける。
思考を平常運転に戻そうとしているのか。
それとも、警鐘音、なのだろうか。
今を逃したら、もう、触れ合うことはないだろうと。
何事にも、タイミングがあり、タイミングを失すれば、もう巡り廻ってこないこともある。
今が、まさにそうなのだろう、か。
今、もう一度手を伸ばさなければ、触れなければ。
若草と老草色が交互に配色されて大きく波打つ前髪に隠れた浅葱の両の目が、ひたと自分の目を、自分の一挙手一投足を逃すまいと見つめているような気がした。
手を伸ばさなければ、二人の関係は、交際していても、交際前のまま。
手を伸ばしてしまえば、二人の関係が確実に、一気に変化してしまう。自分の中では、変化したと強く自覚してしまう。
交際を始めても、どこか、曖昧な関係のまま、進んでしまえるのではと、どこかで思っていた。甘えていた、というべきか。
変化があっても微々たるもので、緩やかなもので、
急速に、大きく変わってしまうことなんてないと、どこかで高を括っていたのではないか。
(変化を求めたのは、僕なのに。今更、臆してしまうなんて、)
すうはあすうはあ。
史月は浅葱にも聞こえるくらいに大きく深呼吸をした。
吸って、吐いて、疲れたと思って、吸って、吐いて、疲れたと思って、吸って、吐いて、疲れたと言って、身体から力みが消えた瞬間に、浅葱の手に触れた。
ちょこんと。
人差し指と中指で、浅葱の手の甲に。
ちょこんと。触れた。
(2024.9.27)




