どうか
たったの五年。それとも、優に五年、と、言うべきだろうか。
薬草に真摯に向き合う君を見てきた。
薬草に一喜一憂するほどの熱量を向けられる君が、羨ましく思う時もあれば、鬱陶しいと思う時もあった。
羨ましい。だなんて、
生きているのならば、一生に一度でいい。他のことを忘れてしまうくらい、情熱を以て打ち込める何かに、熱中する何かに出逢いたいという願望を、多分、ほんのちょっと、ほんの僅かでも、持っていた。のだろうか。
いいや。多分。そうではない。
だって、君みたいになりたいとは決して思わないのだから。
何をするにつけても必要最低限。それだけでいい。
はずなのに、
だったらどうして僕は、君を羨ましいと思ったのだろう。
たったの五年。優に五年。
知らなかった。知ろうなんて思いもしなかった。この五年間の君だけで、君を知っていた気になっていた。この五年間の君が、過去も未来も、変わらずに存在していた。存在し続けると決めつけていた。
薬草に真摯に打ち込む君が、公害病を発生させていたのかもしれないだなんて。
薬草に真摯に打ち込むあまり周囲が見えなくなった君が、大地を、大気を、大水を害して、命を危険に晒させていたのかもしれないなんて。
人を救う為の君の薬草が、人を殺していたかもしれないなんて。
微塵も思いつきなどしなかった。
人を殺したことなんて、どうでもいい。
薬草を知る為だ。
薬草を知る為だったら、これまでも、これからも、必要ならば、人を殺し続ける。
いつものように、
淡々と、どこか、ほんの少しだけ、人を突き放すような、人を素通りするような冷たい口調で、君が言ったのならば。
僕は、
落胆するだろうか。困惑するだろうか。軽蔑するだろうか。恐怖するだろうか。
いや、僕も、大概、冷たい人間だ。
見知らぬ人間がどれだけ死のうが、関係ない。心を痛めることは皆無だろう。
君への想いが変化することは、これっぽっちもないだろう。
冷たい人間だ。
冷たい人間同士、似合いじゃないか。
そうだ。僕は、君のなすことやることに口を挟むつもりは毛頭ない。
ただ、君を見ていたい。君にほんの少しだけ、深く、触れたい。君の願望を、ほんの少しだけ叶えたい。
些細な願望しか、君に求めないからどうか。
『史月にはすぐに振られるだろうよ』
早々と見切りを付けないでくれ。
「幸福感に浸る時間さえ、短いのか」
季梨に頭を撫でられて安心したのだろうか。
いつの間にか眠りに就いていた史月は、隣の組み立て式簡易ベッドで静かに眠る季梨を起こさないように静かに自分のベッドから下りて、部屋から出て行った。
浅葱が居るかもしれないと思ったが、勘は外れたようで。
台所で水を一杯ゆっくり飲むと、階段を上って二階の自分の部屋に戻り、静かにベッドまで歩いては横になって、目を瞑った。
(2024.9.23)




