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やさしく




「僕は浅葱あさぎ君と交際しているらしい」

「うん。らしいじゃなくて、交際しているんだよ」


 季梨きりが浅葱に頼まれて自分の淡い紫色の結界縄で囲ったのは、拳ほどのとても小さな範囲で、葉がなく、短い茎の先に紅色の楕円形の三枚の花びらが狭く開く、一本の花だった。

 まだ余力があるけど結界縄で囲ってほしい薬草はあると尋ねる季梨に、浅葱はもういいと言うと、早めの夕食にしようと家へと歩いて行った。

 つい昨日、都雅とがが作ってくれたという、季節の野菜ごろごろスープと、小豆のおこわ飯をご馳走になって今。

 夕飯を食べている時は夕焼け色に染まっていた窓の外は、蒼黒色に塗り替えられていた。


 二階の史月しづきの部屋にて。

 風呂にも入り終わって、さあもう何時でも眠れますよという態勢に入っていたが、史月も季梨もまだ、ベッドの上に身体を横にはしていなかった。

 史月のベッドの横に折り畳み式簡易ベッドを置いて、季梨はその上に腰をかけ、自分のベッドに腰をかけている史月と向かい合っていると、夕飯を食べている時も無言で浅葱を凝視していた史月が漸く口を開いたのだ。開いては、夢心地と言った感じで、ぼんやりと話し始めた。


「『浅葱君。僕は君が気になる。交際してくれないか』。僕がそう言ったそうだ」

「うん。そうらしいね」

「『ああ。構わない』。浅葱君がそう言ったそうだ」

「うん」

「僕は、夢だと思っていたんだ。僕が交際を申し込んだことも。浅葱君が交際を受け入れてくれたことも。夢だと思っていた」

「現実だと困る?夢の中だけの出来事でよかった?」

「………いや。嬉しい。のだと。思う。ふわふわしていて、まだ、感情が掴めない。困惑もしているし、恐怖も感じているし、まだこれも夢なのではないかと疑っているし、胸が、むずむずして。嬉しいと。嬉しいだろうと。胸が。むずむずしている。せっついてくるのに、表情筋は動きそうにない」

「甘酸っぱいねえ。ああ。もう。僕まで、むずむずしちゃうよ」

「なあ。季梨。僕は、これから、どうしたらいい?」

「それは浅葱ちゃんと話さないと」

「………そう、だよな。そう。なんだけど」


 史月は季梨から外した視線を自分の太股に落とし、太股の上でやわく丸めて重ねていた両の手を解き、片手をやおら額まで運んでは、やわく丸めた人差し指を、ゆっくりゆっくりと、額から眉間をマッサージするように動かし続けた。

 ゆっくりゆっくりと、身体にも、心にも、沁み込ませるように、溶け込ませるように、言葉を紡いだ。


「『付き合うと交際相手が変わって見えるのは、眉唾物ではなかったんだな』『いつもは死んだ魚の目をしているのに、凛々しく見える』。浅葱君は、そう言っていた。けど。僕も。浅葱君が。すごく、」

「………すごく、かわいく見えちゃう?」

「………」


 こくり。

 小さく、けれど、明確に頷いた史月を見た季梨は、ゆっくり手を伸ばすと、史月の頭を優しく撫でたのであった。











(2024.9.23)



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