とりあえず
はい。
ずっと浅葱を凝視するだけの史月の状態に変化を起こすべく、真剣な表情になった季梨は高く片腕を上げて、浅葱に確認があると言っては、拳を作った手を浅葱の口元に近づけた。
「ズバリ。浅葱ちゃんと史月ちゃんは付き合っているのですか?」
「ああ」
「ズバリ。どちらから交際を申し込んだのですか?」
「史月からだ」
「ズバリ。それは何日前の出来事ですか?」
「半月………くらい前か。魔草でここまで二度飛ばされた史月が二度目に飛ばされた時に言った。『浅葱君。僕は君が気になる。交際してくれないか』。そう、言ったので、俺は『ああ。構わない』と答えた」
「ふむふむふむ。むふむふむふ」
真剣な表情を保てなくなってしまった季梨は、ニマニマと笑いながら史月を見れば、顔と言わず、服で覆われておらず露わになっている身体の部分が真っ赤に染め上がっていた。
どうやら言葉は明確に届いているらしい。
どうやら驚愕の事実と羞恥心から、言葉を生産することが困難な模様。
(う~ん。このままだと史月ちゃん。一生言葉を話さないまま寿命を迎えそう。どうしたら、史月ちゃんを動かすことが、できる。かな?う~ん。とりあえず。は)
するり。
季梨は拳を作って浅葱の口元に近づけた手を浅葱の肩へと回しては、今から結界縄を生産するよと言いながら歩き出して、史月から離れようとした。
「おまえも仕事を終えたばかりで疲弊しているだろう。今じゃなくても構わない」
「うんうん。浅葱ちゃんは優しいねえ。でも。薬草について色々知りたいってんなら、結界師が疲弊している時に生産した結界縄と、元気満々な時に生産した結界縄とでは薬草がどう変わるかって比較してみるのもアリなんじゃない?」
「………なるほど。結界師の体調によって、薬草の保護作用に変化が生じるかもしれない。か。いや。保護だけではなく、何らかの力が付与される可能性もあるのか」
「そうそう。今迄は結界がもたらす力は、成長からも老死からも逃れられないけど病とか虫害にはかからない健康状態の維持と、あらゆる災厄からの保護だけって話だったけど、もしかしたら違って他の効果もあるかもしれないし。結界師によっては、体調が悪い時の方が実は結界の力が強まっている。なんて、新たな真実も見つかるかもしれないし」
「そうか。そうだな。だが、結界師により一層の負担がかかるやり方はあまり好まない。本当に大丈夫なのか?」
「まあ、広範囲とか魔草だったら無理だけど、狭い範囲だったら。うん。大丈夫。あ。だけど、今日は泊めてくれたら嬉しいかなー。史月ちゃんの部屋でいいから」
「ああ。史月が了承するなら、俺は構わないが」
浅葱は足を止めて史月の方へと振り返ろうとしたが、季梨がそれをよしとせず、強引に前を向かせて歩かせ続けた。
「大丈夫大丈夫。史月ちゃんと僕は相棒だから。いいって言ってくれるから。ほらほら。足を止めないで行きましょー」
「ああ」
(あらららら。本当に浅葱ちゃんって薬草莫迦なんだねえ。ほんと。前髪で目が見えなくたって。どんな目をしているのか。わかっちゃうよ。はは。史月ちゃんが好きになっちゃうの。わかっちゃうなー。もしも、あいつに先に出逢ってなかったら、)
にんまり。
季梨は口の端を高く上げては、こっちだと案内する浅葱の肩に手を回したまま、ゆっくりと歩き続けるのであった。
一人、史月を置き去りにして。
(2024.9.20)




