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「へえええええええ」

「こらこらこらこら」


 さっさと仕事を終わらせて浅葱あさぎに会いに行く。

 そう決めた通りに、さっさと季梨きりと共に仕事を終わらせた史月しづきが、生温かい視線と笑顔と声音で以て、桜桃おうとうに見送られ、何やら張り切って鬱陶しい季梨に背中を押されながら道案内されて、浅葱の元へと帰って来た。

 ら。


「付き合うと交際相手が変わって見えるのは、眉唾物ではなかったんだな」




 いつもは死んだ魚の目をしているのに、凛々しく見える。




 心なしか、嬉しそうに笑う浅葱に出迎えられた史月は、即刻回れ右をして後ろに控えていた季梨に、家を間違ったようだまた道案内を頼むと言っては、立ち去ろうとした。

 ら。


「いやいやいや。史月ちゃん。間違ってないよ。史月ちゃんが浅葱ちゃんと一緒に住んでる家だよ。ほら。よく見てみて」


 くるり。季梨によって身体を半回転させられた史月は、瞼を半分落として、周囲の風景を凝視した。

 黒煉瓦の二階建ての家。薬草畑。薬草畑の一部を囲っている、自分が生産した灰色の縄である結界縄。家から少し離れたところにある、研究室の出入り口である長方形の大きな岩。


「なるほど。見慣れた風景だ」


 季梨は史月の隣に立って、深く頷いた。とりあえずまた立ち去らないように、史月の肩に片手を置いて。


「そりゃあそうでしょ」

「だが、ここは見慣れた風景に瓜二つの場所なだけであって、僕の暮らしているところではない」

「何で?」

「家主が別人だ。ゆえに、ここは違う場所だ」

「いやいやいや。家主は浅葱ちゃん。別人じゃないでしょ」

「あの男性も浅葱君によく似ているが、別人だ。浅葱君では言わないようなことを言っている」

「恋したらさ。普段は言わなそうなことを言うわけよ」

「恋?誰が?誰に?」

「浅葱ちゃんが史月ちゃんに。史月ちゃんが浅葱ちゃんに。恋してる。恋してるから、付き合っている」

「いや。別に恋はしていない。だが、付き合ってはいる」

「え?」

「ええ?浅葱ちゃん。恋してないのに、史月ちゃんと付き合ってるの?」

「ああ。駄目か?」


 突然会話に入って来た浅葱。あり得ないことを口にした浅葱を黙って凝視する史月。浅葱の言葉に腕を組んで考える季梨は、まあ駄目じゃないかと笑顔で答えた。


「いいよいいよ。何か明確な理由があってとかじゃなくて、浅葱ちゃんの琴線に触れて、付き合おうって決めたんでしょ。その勘は大切にした方がいいよ」

「ああ。ところで、おまえは誰だ?」

「ああ。挨拶してなかったっけ?今回の仕事の相棒で、史月ちゃんと同じ結界師の季梨と言います。これからちょくちょく遊びに来る予定なので、以後お見知りおきを」

「そうか。おまえも結界師なのか。俺は薬草師の浅葱と言う。おまえに依頼することもあると思う。その時はよろしく頼む」

「うんうん。よろしく。いやあ。ほんと。薬草莫迦なんだねえ。史月ちゃんが居るのに、僕にも結界の依頼を頼むなんて。薬草に色々試したくて、知りたいんだねえ」

「ああ」

「いやあ。前髪で目は見えないけど。きっと、とっても可愛くて真剣な目をしているんだろうねえ。史月ちゃんが可愛いって言うのもわかる。ねえ。史月ちゃん。ねえ。ねえってば」


 季梨は史月の肩に置いたままの手で、史月の肩を揺さぶったが、史月は浅葱を黙って凝視するだけで何も言葉を発しなかった。


(あらららら。これは、)


 にまにまにまにま。

 季梨は口元が大きく波打つのを止められなかった。




「二人とも。かわいいねえ」












(2024.9.18)




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