いつもどおり
桜桃の家にて。
『浅葱君。僕は君が気になる。交際してくれないか?』
群集する細かく短い棘が点々と空色の茎から生えて、箱みたいに真四角で、青色に白玉模様の葉から豚の蹄痕形の泡を空に地にとぷあぷあ吐き出し、巨大で純白の楕円形の石から生える魔現薬草、通称、魔草に襲われては、三か所も立て続けに飛ばされた挙句、疲労からかやけっぱちになって、浅葱に一世一代の告白。
断られる。
切り捨てられる。
一抹の疑いさえなかった。のに、
『ああ。構わない』
『………へ?』
疲労と羞恥心から生じ、留まるところを知らず上昇し続ける熱によって、殺されるのだと。本気で思っていた。のだが。
(死ぬ時は死ぬ、し。死なない時は、死なない)
当たり前のことを、しみじみと感じた史月。ぽよんぽよんと。少し動くだけで心地よく微細に波打つ寝台の上に横たえていた身体を起こそうとしては、まだいいかと実行しなかった。
ぽよん、ぽよん。ぽよんぽよんと。寝台と戯れていたい気分だった。
疲労も熱ももうない。早く仕事に戻らなければならない。結界縄を生産して、魔草の健康状態を維持して、あらゆる災厄から保護しなければならない。
命ある限りは全うしようと決めたではないか。
さあ、さっさと立ち上がれ。
さっさと仕事を始めて、さっさと終わらせて。
浅葱の元へ。
(ああもう!どうして!何故!僕の告白を受け入れたんだ!浅葱君!君はそんなやつじゃないはずだ!俺は薬草のことしか考えられないので交際できない、とか、俺はおまえに興味を抱かないから無理だ、とか、いつものように淡々と断るやつだろ。そして交際を断っておきながらも気まずくなることなど決してなく、結界縄の生産を頼むんだろ。くう。なのに!)
わからない。さっぱりわからない。彼のことがわからない。
「い。いや。落ち着け、僕。あれは夢だ。うん。夢。僕の願望………ああ。僕はあんな願望を持っていたのか。くう。だめだ。浅葱君と会った時に平常心を保てる自信など皆無だ。挙動不審に陥る僕になると手に取るようにわかる。もう。契約を切って、あの家から立ち去れば。もう。浅葱君と会わなければ」
それが最善だと、容易くわかるのに。
嫌だ。と。叫ぶ自分が居る。嫌だと、離れたくないと、決して消火することはない熱をぶつけてくる。
そう、熱だ。強い熱。思考も行動も、まともに働かせずまともに動かせず、危うくさせる。
時間を置いたら。
冷静になれるだろうか。
冷静になって、今迄みたいに、接することができるだろうか。
今迄と変わらない。距離が縮まることは決してない、雇用主と被雇用者として、ずっと、接していきたいのだろうか。
(それは、多分。無理。だ、な)
ならば、夢のように告白する。
そして、夢のようにはいかない、現実を知って、楽になろう。
(よし。やはり、さっさと仕事も恋現も終わらせて、以前みたいに、出しゃばらずに生きていこう。求められる以上のことはしない。求められるものを提供する。相手にも。浅葱君にも、必要最低限のことを提供してもらえばいい。それだけでいい)
万が一にも、夢のように受け入れられた場合でも、同様に。
必要最低限のことしか求めない。力まない。出しゃばらない。
熱に浮かされて、己を見失うことだけは避けなければならない。
今回のように、疲労を蓄積していく生き方は避けなければならない。
「よし。行くか」
さっさと仕事を終わらせて、会いに行こう。
(2024.9.17)




