清流
「へえええええええ。五年間も一緒に暮らしてたんだあ。そのづーちゃんと。へええええええええ。日なが夜なが愛を深め合ったんだあああ」
水美に促されるままに食卓の椅子に座り、浅葱は都雅と付き合ってはいない、五年間共に暮らしている史月という結界師と付き合うことになったと端的に言えば、水美はそれはそれは妖艶に笑いながら、妖艶な口調で言った。
「愛を深め合ってはいない。そもそも愛は生まれていない。交わす言葉も、視線も、おまえたちより遥かに少ない。愛が生まれる要素は今のところ、皆無だ。ただ、あいつの、史月の、灯ってさえいれば、凛々しくなるはずの目が羨ましかった。人を呪いそうな俺の目つきでは、決して灯すことは叶わない、凛々しくなる目を見てみたかった。ただ、それだけだった」
「じゃあ、どうして付き合うことになったの?」
「史月に付き合ってくれと言われた」
「あたしが言った時は断ったわよね?」
「ああ。断った」
「あたしはダメで、づーちゃんはいいんだ?」
「ああ」
「あたしの何がダメなの?」
「我慢するところ」
「我慢しないように変わるって言った」
「それがすでに我慢しているだろ。変わらなくていい。おまえはおまえのまま、おまえを受け入れてくれるやつと付き合え」
「あたしはあたしのまま、さーちゃんと付き合うもの。変わらなくていいって。さーちゃんは言うけど。変わっちゃうものよ。生きていれば、みーんな。確かに、ずうっと我慢する変化もある。でも、いつかは我慢しなくなる変化もある。あたしは、後者。自分の為に、あたしは、変わりたいの。さーちゃんがあたしに新しいあたしを見つけるきっかけをくれるの。あたしはそれを苦痛だなんて思わない。さーちゃんとすることがすべて、喜びだなんて言わない。嫌なこともある。それはちゃんと言う。以前のあたしだったら嫌だって言えなかったけど、今のあたしなら言う。言える。これも変化。変化するあたしもあたしのまま。あたしは、さーちゃんと一緒に居るあたしが一番、生きているって感じがして好き。大好き。だから、さーちゃんにもそう想ってほしい、想ってもらえるように頑張りたい。うん。あたしは、ほしがりなの。手にする為に頑張りたい。でもその頑張りは、あたしにとっては苦痛じゃない。さーちゃんが薬草に対して色々考えて、色々行動に移すことが、まったく苦痛じゃないみたいに」
浅葱が淡々と言えば、妖艶さをますます増して、水美は言った。
「愛が生まれていないなら尚更諦めきれない。なんて言わない。づーちゃんとの愛が生まれていても、生まれていなくても、あたしは、さーちゃんを諦めきれない。略奪愛を目指すわ」
「水美」
「うん」
「おまえの気持ちはよくわかった。だが、俺はおまえと付き合うことは決してない。俺は諦めろと言うことしかできない」
「うん。さーちゃんの気持ちもよくわかってる。でも、私は諦められないって言うことしかできない。だからって、前みたいに、強引に、無理をして、薬草の手伝いはしない。今度は。これからはスマートに手伝う。ねえ。さーちゃん。あたしに時間を頂戴。そうね。五年。その期間が過ぎても。どうしても、あたしと付き合えないって思ったら。あたしはさーちゃんを諦める」
力みがない。浅葱は思った。以前は、どこもかしこも力みが入っていて、ちょこまかちょこまか動き回って忙しなく、挙動不審だったが、今は、緩やかに、涼やかに流れる清流のように、滞りがなく、ゆとりがある。
(変化、か………いや。こっちが元々の性質だったのかもしれないな。俺と会って、変えさせられたのかもしれない)
「づーちゃんにも了承をもらわないといけないことだけど。どうかしら?さーちゃん」
「わかった。俺は了承する。史月には俺から伝えておく」
「うん。さーちゃんからまずは言って。あたしはその後に宣戦布告するから」
ウインクをする水美と、ああと薄く笑う浅葱を見ていた都雅は史月の顔を思い浮かべながら、嫌な予感がするなと思ったのであった。
(水美と会って、ますますあたふたしそうな気がする。以前の水美みたいに)
ちゃんと考えているのだろうか、浅葱は。
(2024.9.16)




