じぃっくり
浅葱の家にて。
「ひどい!ひどいわ!さーちゃん!今度は我慢なんてしないで、あたしはあたしのまま。さーちゃんと一緒に薬草を守って行こうって、薬水師になったのに!土に触れないで、水だけで薬草を育てられる薬水師になったのに!これであたしたちを隔てる大きな障害を越えられたって思ってたのに!もう付き合っている人が居るなんて!」
「我慢させるぞ。俺と付き合っても、おまえはきっと、何度も我慢する。俺とおまえは付き合う相手として相性が悪い。俺はおまえの望むものは与えられない」
「あたしの望むものなんてわかってないくせに!」
「イチャイチャラブラブだろ」
さめざめと泣いていた水美は目をかっぴらいた。驚きのあまり、涙が引っ込んでしまった。
思いもしなかった。まさか、
「さーちゃん。あたしが望んでいること、わかってたんだ?あたしを見ててくれたんだ?」
「否応なしに視界に入ってくるからわかる。いや、思い返してわかった。と言うべきか。おまえは俺の為に、我慢する人間だ。俺はおまえの為に我慢できない。それは。多分、俺が嫌だ」
っとっとっとっとっとっとっ。
鼓動が甘やかに鳴り響く。
考えてくれている。薬草莫迦のこの人が自分のことをこんなにも思い遣ってくれている。
その事実がこんなにも、胸をときめかせる。
(無理。ムリムリムリ。好き。やっぱり、好き。諦められない。全部好き)
「私が我慢しないように変わるって言ったら?」
「いや。付き合わない」
「何なのもう!期待させておいてひどい男!」
「ひどい男だから諦めろ」
「薬草莫迦でもひどい男でも諦められないこんなに好きなんだもん!無理!ヤダ!絶対ヤダ!」
「ヤダって言われてもな」
浅葱は都雅へと視線を向けた。都雅は首を大きくゆっくりと左右に振った。浅葱は顎を少し上下に動かした。都雅は首を大きくゆっくりと左右に振った。浅葱は首を小さくゆっくりと上下に振った。都雅は首を大きくゆっくりと上下に振った。
「いやだもう!二人とも目だけで会話しないでよ!もう!この仲良しさん!っは!もしかして!さーちゃんの付き合ってる人って、まさか、がーちゃん。がーちゃんなの?絶対に永遠の友達だって思ってたがーちゃんが、あたしが居ない間になんやかんやあって、恋の対象者になって付き合うようになっちゃったの?ひどい!ひどいわがーちゃん!私のさーちゃんへのとっても重くて熱い想いを知っているくせに!横恋慕するなんて!ひどい!わかるけど!さーちゃんにはそれだけの魅力があるってわかっているけど。ええ。ええ、いいわ。あたしも横恋慕してやるわ。ほおっほっほっほっほ」
「………浅葱」
「何だ?都雅」
「俺たち、ずっ友だよな?」
「ああ」
「浅葱。これからどうするんだ?」
「………おまえ。水美のことをすごく心配してたよな?」
「質問に質問を返すんじゃありません。そして、無理です。俺は俺で気になる人が居るんで」
「………」
「もおー、さーちゃん。そこは、え、誰、俺が知っている人間、初耳なんですけどって驚いて訊くところでしょうが」
「ねー」
「え?で。がーちゃん。誰なの?あたしの知っている人?」
「ふふ~ん。内緒」
「え~。がーちゃんのいじわる~」
「へへ~」
「話が済んだようだな。俺は研究室に行ってくる「さあちゃん。有耶無耶にして逃げようったってそうはいかないわよ。がーちゃんも。あたしの大好きな恋バナでさーちゃんから意識を逸らそうとしたわね。とんだ策士だわ」
にっこり笑った水美は、じぃっくり時間をかけて話し合いましょうかと言っては、椅子に座ってのち、食卓を人差し指で小さく叩き、浅葱と都雅に座るように促したのであった。
(2024.9.13)




