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予想外




 一気にお茶を飲み干した史月に勧められたのは、お酒だった。

 史月には酒瓶を渡した師匠は客人である史月そっちのけで、元々食卓の傍らに置いていた樽の蓋を開いては、そこに湯呑を突っ込んで酒を入れ込み、次々と豪快に飲み干して行った。


 変化はすぐに生じた。

 一杯目を飲み干したかと思えば、腹を抱えて笑い出し。

 二杯目を飲み干したかと思えば、腕を組んで怒り出し。

 三杯目を飲み干したかと思えば、手首を目元に寄せて泣き出し。

 四杯目を飲み干したかと思えば、食卓に人差し指で「の」の一文字を書きながら拗ね出し。

 五杯目以降は、これらの無限繰り返しである。


 そんなに度数は強くなく、なんなら水に米酒を数滴たらした程度の味だと認識していたが、動揺している為に味がわかっていないのか、師匠が飲んでいる酒と種類が違うのだと思った史月。師匠が静かになるまで、ただぼおっと見ていたら、酒瓶はいつの間にか空になっていた。


 静かな寝息を立てる師匠を横抱きして、一階の師匠の自室らしき部屋の寝台に寝かせた史月は、ただ静かに家の中を歩き外へと出ようとした。

 妙に浮遊感があるのは、酒のせい。

 だけではないのだろう。


 なんとなく。

 わかっていた。

 もう一度会うのだと。




 四六時中だ。

 変化を見逃すまいと観察して、どうすればより効力を上げられるのかと考えては実行に移す勤勉さと情熱と向上心と行動力と、ここまでだと線引きをして切って捨てる冷徹さを伴う決断力も持ち合わせている。

 仕事人間を体現する彼を理解できないし、したいと思わないし、あまつさえ、ああなりたいと憧れる気持ちなど持ち合わせてはいない。

 なのに、いつの間にか、目が彼を追う。


 はなしたい。

 みたい。

 かんじたい。

 ただの一瞬で構わない。

 薬草と同じだけ熱を傾けてくれなど言わない。


 ただの一瞬。

 興味を持ってほしい。




 多分。

 疲れていたのだとも。思う。

 元々怠惰な性分だ。

 思考放棄万歳な自分だ。

 気持ちの。

 例えばそれが端っこなのだとしても、掴まえたのだ。

 さっさと蹴りをつけてしまえ。


(らしくない)


 やはり、酒の度数は強かったのだろう。

 でなければ、いつまで経っても、いじいじ停滞し、問題解決へと行動を起こしはしなかったのに。


(わかっているさ)


 どうせ切って捨てることはわかっている。

 そして、自分はきれいさっぱりすっきりこの気持ちを捨てられる。

 なんの未練もなく。


 薄く、うすく笑う。

 望んでいるんだろう。

 それを。

 煩わしさから解放されるのを。




「浅葱君。僕は君が気になる。交際してくれないか?」

「ああ。構わない」

「………へ?」


 羞恥も緊張も一切合切なく。

 浅葱の家の前で淀みなく浅葱に告白したはずの史月は気がつけば、桜桃の家の前に立っていたのであった。













(2022.1.15)



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